Sorcerer『Kids World』ニューディスコの雄が作り出す、インドアのパラダイス
KKV Neighborhood #99 Disc Review - 2021.9.14
Sorcerer『Kids World』(Growing Bin)
review by 田中亮太
US西海岸のニューディスコ/バレアリック系プロデューサーによる新作。ソーサラーことダニエル・サクソン・ジャッドは、2000年代中頃から活動しており、サム・グロー(ハッチバック)とのユニット、ウィンドサーフではLCDサウンドシステムやジュニア・ボーイズ、9DWらのリミックスを手掛けていたので、ロック・リスナーも名前を目にしたことがあるかもしれない。オーガニックな生楽器を効果的に使ったメロウでダビーなダンス・サウンドは、フロアやビーチで愛されてきた。
この『Kids World』は、ソーサーとしての5作目。ゆったりとしたテンポ、2拍目と4拍目を強調したビート、シンセ・ベースのまろやかな音像……といった疲れずに踊れるBPM100~120くらいのグルーヴは、これ以前の作風と変わりない。僕のお気に入りは、4曲目の“Scary Paint”で、この曲はギター・フレーズの繰り返しがエモーショナル。いわゆるディスコなキラキラとしたカッティングではなくインディー・ロック的な手触りのリフで、人肌の温もりを感じさせるところがいい。
そのほかにも、さまざまなサウンド・エフェクトがまろやかにトリップ感を喚起してくれる“Disco Drums”、パーカッシヴなリズムにラウンジっぼさのある“Escape Route”など好トラックぞろいだが、いずれもギターが印象的だ。
ポスト・パンク的と言うべきストレンジな感覚も入っていて、ドウルッティ・コラムや最近だとYOUR SONG IS GOODの吉澤成友がXTALと共作したアルバム『Guitar Esquisse Volume One』に重なるムードもある。アウトドアの空間ではなく、インドアのなかでパラダイスを作り出す――言うなれば室内楽的リゾート盤。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?