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『BEASTARS』11巻までの感想メモ


続きです。食殺事件編が終わる11巻まで読みました。
前記事のようにまとまった文章ではなく、読書中にとったメモのコピペです。



3巻

そういえば、肉食動物と草食動物が共存する作中世界でも捕食対象となっている昆虫をレゴシが好きなのは、社会的に搾取されている弱者に寄り添う彼の優しい側面(これまで本能を覆い隠してきた性質)を表しているのか。
あ、ハルが草花を愛でているのも同様で、彼らの共通点としても機能しているのか。


ハルの内面をガッツリ描写してしまっているのは、良いことなのか悪いことなのか……
あの夜に彼女を襲ったのがレゴシであると、ハルは気付いているのかいないのか……というのを普通なら読者もレゴシにも隠して物語のフックにしそうなのに、
本作では屋上庭園で再会した時のハルのモノローグで、気付いていないことを読者にバラしてしまったし、レゴシも安心しきっている。
「気付いているのかわからない」ことからヒロインのミステリアスな魅力に繋げる手法はありふれている(例:『可哀想にね、元気くん』の八千緑さん)が、本作では敢えてそうはせずに、早い段階からヒロインの善性を開示している。
これは、そうせずともハルを魅力的に描ける自信があるから……というよりも、普通の人間ヒロインとは一線を画すヒロイン像にしなければ擬人化モノとして意味がないから、であろうか。

ハルの心根が優しいことは早い段階で明かされているが、とはいえ彼女が多くのオスと寝ていることも事実であり、ルイも相手の1人であるという衝撃の展開によって、ハルの一筋縄ではいかないミステリアスな魅力は十分に表現されていると言えるかもしれない。

レゴシとハルって、いちおうは伝統的な「身分違いの恋愛関係」の亜種ではあるのか。ロミオとジュリエット
身分違いというか種族違いだけど。
そう思うと、かなり王道の恋愛漫画な気もしてきた。

種族が違うことによる色恋沙汰の食い違いを描いた作品といえば『異種族レビュアーズ』に近いのか。
あれは色恋というか直接的な性描写だけど、売春という意味ではハルも似たようなものだし……

ハルの顔をデフォルメ調でなくリアルなウサギ寄りにしたのも、人間から見ればそんなに可愛くもないけど、オオカミから見れば愛すべき対象(あるいは捕食対象)であるという、人間とオオカミの美的感覚の違いを意識させる演出とも取れるのか。

肉食はダメなのに牛乳とか乳製品は普通にあるんだ……と思っていたら、まさかの卵の販売経路が描かれた!
マジかよ!……ってことは乳製品も……???
しかし、産卵のアルバイトを搾取ではなく「ニワトリの尊厳と誇りのために」「他の誰でもない自分のために」行っているというのはなかなか考えたなぁ。
まぁ無粋なマジレスをしてしまうと、そうした内面化も搾取構造の隠蔽に繋がるからあんまり宜しくはないのだけれど。
「女は家のために尽くすべき。私は誇りを持って主婦をしている」という家父長制を内面化した女性みたいな感じ。
そういうグロテスクな構造も含めて、このニワトリ女子レゴムのエピソード(第20話)はすごくよく練られている。

21話
そうか、レゴシはハイイロオオカミのオスで、ハルと関わるときは「肉食動物/草食動物」が「男性/女性」のアナロジーとして機能しているけど、
この世界には当然メスのハイイロオオカミもいて、そういう場合には先のような単純なアナロジーは機能しなくなるんだな。

ジュノ、めちゃくちゃ可愛いな……1巻末の作者コメントが身に染みる。。。
あ、いや、普通に作中でも可愛い子として描かれてるのか。

リア獣は草

3巻おわり

パンダってヒグマと同じ体格なんだ。めちゃくちゃ最適なポジションの動物じゃん
こういう存在に人間で対応するのは、FtMなどのトランスジェンダー?
でもFtMは肉体的に男性と同格になるわけじゃないしなぁ。
フィクションでよく見る「筋肉ムキムキの女性」とか? 『響 〜小説家になる方法〜』の桔梗先生とか。
まぁしかしいたずらに人間との対応を探すのは下品なだけでなく暴力的で差別的にもなり得るから控えたほうがいい。


いやー……これは面白い。
恋愛感情と性欲の関係(連続的か離散的か)に踏み込む恋愛モノは好みだが、本作はそれにさらに狩猟本能を追加している。

小動物エロ本による鑑定がイマイチ理解出来てない。
興奮したらセーフで、しなかったらアウトなのはなぜ?
この世界では性欲と狩猟本能は別物で、そのどちらもが恋愛感情に変形する余地がある、ということか。
うーん……性欲と狩猟本能だって地続きでもいい気がするけど……
あーでも、性欲の対象は同種族で、捕食対象は異種族が基本か。だったら理に適ってるな。(動物学の知識が無いので思い込みは禁物だが)
それを踏まえての「自分の腕を噛みちぎったピューマ」か。同種族どころか自分自身を捕食対象とした異常者。

まさに自分が読みたいと思っていた「自己の加害性にどう向き合うか」についての話だ。
最後のレゴシの「しっかりと立ちたいだけだ」がすごく響く。


4巻

自分が相手を傷付けてしまったことを相手に打ち明けられず、罪の意識をずっと抱えながら相手と親しくなってゆくこの感じ、「ちはやふる」の真島太一だ……
既視感の理由を完全に突き止めた


虎のビルが肉食動物としての強者性を内面化しているのに対して、ルイは草食動物だが、男性的な強者性を内面化している、とでも言えようか。
後輩や他者に抑圧的だし、凶器による暴力に頼るし、家柄的に許嫁を決められているし、唯一悩みを打ち明けられるオアシスとしてハルと付き合うのも典型的な家父長制強者男性って感じ。エリーティズムの権化

強者属性を持つビルとルイのこの差異は、作中の加害構造の二重性(性別と種別)を象徴している。


31話
ジュノのルイへの宣戦布告
マジか〜
2人は共に、上記の2種類の加害構造を倒錯的に引き受けているキャラクターだ。
ルイは男性としては強者だが、草食動物としては弱者。
ジュノは女性としては弱者だが、肉食動物としては強者。
このように、強者性と弱者性の両方を有するキャラクターがどう扱われるのかは肝心だ。
23話でジュノがルイを押し倒し、ルイが「もがくことすら不可能だ」と諦めたことは、本作において「男性から女性への加害性」よりも「肉食動物から草食動物への加害性」のほうが物理的に優越することが明示されたということだ。
※まぁ実際の動物で考えれば当然と言えるが、擬人化モノだし、ルイが勝つ可能性も無くはなかった。

これにより、肉食動物→草食動物の加害性を即物的にジェンダーの加害構造へ読み替えることは得策ではなくなった。
何より作中に両者が併存し、しかも前者のほうが実際的に強い構造だと判明したからである。しかし、どちらも加害構造であることに変わりはない。
抽象的な「加害性」にまで一旦上げたのちに、現実へそれを移行させてジェンダーなどの加害構造に当てはめるといった手順を踏めば問題はないだろう。

あと、ここに来てビースターという権力性の設定が一気に前傾化して、肉食-草食の構造に接続された。
タイトルだし、さらに問題になってくるんだろう。
タイトルが複数形なのは、ビースターの座が一つでなく、肉食も草食も同時に権力者になれるとか?まさかね。それは何も問題を解決してないし。


32話
これはジュノとハル、女同士の戦いが起こりそうだ


ルイの過去重すぎぃ!
これ「メイドインアビス」のナナチレベルじゃん……いやあっちは人間の話だから余計に悲惨だけど。
擬人化された動物を、どこまで人権主体とみなして読めばいいのか戸惑うな。完全に人間と同格と思うべきなんだろうが。
虫は擬人化されてないんだよな。

「無害でありたい」か…でも…そんなことは不可能よ レゴシくん
だってこの世に本能が存在する限り 誰しもが自分や他者を苦しめて生きているから p.203

こんなにあからさまにテーマを言っちゃっていいんだ。
「自分」も苦しめる対象に入ってるのが本作らしいな。

いやぁマジで本格的に種差別と政治の話になってきたな。
進撃の巨人が世界スケールでやってることを、こちらは学園スケールでやってる。
どちらもすげー面白い。ビースターズ、今のところ僕のためにある漫画では?って感じ


巻末おまけ
ジュノ31話の豹変、あらかじめ決まってたんじゃないんかい!
やっぱりハルは簡単にヒロイン的消費ができない外見というコンセプトなのね。

そもそもルイはハルに挿入できるんだ…そんなにサイズが異なるなら入らないのでは?
少なくとも、ネズミとゾウで性行為はできないよね本作でも流石に。

7巻あたりで、隠された最強のビースター候補"""ヒト"""が登場したらどうしよう


7巻まで

聡明な親友のジャック(ラブラドールレトリバー)とレゴシの関係、もろアルミンとエレンだと思ってたけど、
「お前はもう戻ってこないんだろ!?」と声をかけられるレゴシの後ろ姿で完全にBLEACHの尸魂界にルキアを助けに行くときの一護じゃん……!と思った。
ジャックは、一護が自分たちから離れていくのをどことなく察している圭吾や水色ポジ。尸魂界編のときはそういうシーンないけど。
ゴウヒンは浦原さん。師匠ポジ


11巻まで

読み終えた!!!

なんか最後はハルも蚊帳の外で、男(オス)だけのホモソーシャルっぽい友情!決闘!な空間が繰り広げられたな。
ちょっと『殺し屋1』っぽさを感じた……ってのは雑な言及が過ぎるか。
終盤は恋愛漫画というよりも少年バトル漫画という感じで、恋愛漫画要素を望んでいた自分としては少し残念。

自分が初めから期待していた「自己の加害性といかに向き合うか」だけど、完全に満足したとは言えない。
わりと素朴な理想論というか綺麗事に回収された、という見方もできると思う。
ルイに対してした行為が、物語思想をどう着地させたのか、まだ自分にはちょっと判別ができない。
まぁでも、単なる感情論ではなくレゴシが鍛錬を重ねた末にあそこへ辿り着いたのはそう簡単に無碍にできない。「レゴシみたく優しく芯が強いヤツばかりじゃねえよ!」とも思うけど、作中でも彼以外の多くのキャラクターを描いているので的を射た批判にはならないし。
昆虫食で食った蛾に捕食者にとって都合の良い甘言を語らせるのは引いたけど。(最終決戦でも幻覚で出てくるし……)

11巻で食殺事件編に一区切りはついたが、最後のほうはかなり駆け足だったというか、この後の展開でもレゴシの苦悩や問題意識は持ち越されると思うので、
ここで判断するのは時期尚早だろう。

何より、思想性云々よりもまず、エンタメとして本作がめちゃくちゃ面白かったのは確か。
キャラもみんな魅力的だし(BL人気なんだろうなというCPが山ほどある)、画風は擬人化モノによく適合しているし、あと本編にちょくちょく挟まる1話完結の番外エピソードがどれも凄く良かった。
産卵バイトのニワトリ女子の話も、ゴウヒンの夢女子患者の話も(カバー裏作者コメで笑った)、SNSとトラ女子の話も、収まりの良いストレートな脚本ですげー感動した。
本編でも思ったが、シリアスよりコメディのほうが向いているんだろうな。
それでも初っ端から同僚が殺されるシリアスで重いテーマを扱った社会派漫画が書けるのが凄い。
本作連載前の短編集(擬人化モノ)もあるらしいので読んでみたい。



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