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ヨルシカ 『負け犬にアンコールはいらない』感想


昨日5/9に発売した、ヨルシカの2ndミニアルバム『負け犬にアンコールはいらない』をiTunesで購入しました。何周か聞いた感想を書き連ねていきます。


本アルバムは、1~2分のインスト曲3つと歌モノ6曲の計9トラックで構成されています。1stアルバム『夏草が邪魔をする』は7トラックだったので、ボリュームアップしていますね。


1. 前世

ピアノインスト曲。い つ も のって感じですね。

『夏草が邪魔をする』の1曲目「夏陰、ピアノを弾く」とボカロの2ndアルバム『月を歩いている』1曲目「モノローグ」を合わせて、ここ最近のアルバムは3作連続でピアノインストを冒頭に持ってきています。

本アルバムの歌モノはギターロック要素が前作よりも全面に出ているため、ところどころに入る対照的なインスト曲は、アルバムが冗長になるのを防いでいるように感じます。

「前世」というタイトルの通り、このアルバムは"生まれ変わり"がテーマであるそうです。(以下インタビューから引用)


全体としては、簡単に言えば前作の「言って。」に出てくる“私”が、何度も生まれ変わりをした先でもう一度「雲と幽霊」の“僕”と出会う話が前提にあって、そのコンセプトのもとに今作の曲も作っています。

このインタビューでは本作の世界観や設定について、「そこまで明かしちゃっていいの!?」というくらいn-bunaさんの口から語られています。


これらの話すべてが「君と出会うまでの前世たち」と、「出会ったあとの来世」なんですよ。僕は死生観の表れた作品が好きなので、生命が輪廻していったり、時間をかけて遠い昔の人に会いに行くような、そういう作品を作りたかったんです。「準透明少年」の目の見えない少年だったり、「爆弾魔」のすべてを爆破したいと願う人、「ヒッチコック」で先生に問いかける人……そういういろんな人生を経て、今の自分にたどり着くという。

ここまで明かされてしまうと、ほとんど考察の余地はありませんね。ということで、次の曲からはあまり難しいことは考えずに、聴いた感想を純粋に書いていこうと思います。


2. 負け犬にアンコールはいらない

アルバムタイトルを冠した曲が早速来ました。聞けば分かるのですが、曲が始まったと思ったらいきなりバックで犬(と思われる動物)の遠吠えが炸裂。2サビとラスサビの始まりにも同じく入っています。

これ、正直かなり賛否両論だと思います。「めっちゃカッコいい!」と感じるか、「流石にこれはダサい…邪魔」となるか。今のところ自分は後者寄りですが、聴き込んでいく中で慣れてくるかもしれません。

イントロは「劇場愛歌」や「無人駅」系統の、「これぞナブナ!」と言いたくなるギターリフで彩られています。

そして"わりと僕が言いたいことを好きなように歌詞に書い"たというAメロは、何と言ってもボーカルsuis(スイ)さんの歌い方が特徴的

大人になりたくないのに何だかどんどん擦れてしまってって
青春なんて余るほどないけどもったいないから持っていたいのです

このような、青臭さが詰め込まれた敬体の詞を、suisさんは少女のように可愛らしく歌い上げています。

ところが、サビでは一転して、年齢が数歳上がったかのような力強い歌い方にシフト。この変化がサビのメロディ自体の強さと噛み合って超かっこいい

2番でも、Aメロでしれっと逃げ恥を引用してみたり、サビ前にカウントダウンコーラスをいれてみたりと盛りだくさんな1曲。しかし本当に驚くのはここからです。

2サビが終わると一気に音数が少なくなり、ポストロックみのある間奏からBPMがガクンと落ちたCメロが始まります。(ここのメロディでどうしてもRADを連想してしまうのは自分だけでしょうか…)

Cメロはともかく、間奏でここまで雰囲気を変える展開はn-bunaさんの曲には珍しいので非常に驚きました。


3. 爆弾魔

クロスフェードで個人的にもっとも期待していた曲。アルバムで聞いてみたらまず歌始まりから強かった

死んだ目で爆弾片手に口を開く さよならだ人類、みんな吹き飛んじまえ

「/死ん/だ目/で」のように1フレーズごとに3回入るギターのリズムが詞に完璧にはまっているし、「さよならだ人類」のところでメロディが上へ踊るのも超好きです。

この日々を爆破して 心ごと爆破して
ずるいよ優しさってやつちらつかせてさ ずるいよ全部

そしてサビはやはり良かった。「こ〜の〜日々を爆破して〜」のように勢いをつけて飛ぶ感じのメロディに、suisさんの美しい高音がとにかく映えています。完全に偏見ですが、はるまきごはんさんの「銀河録」とか好きな人は刺さると思います。

また、「ずるいよやさ / しさってやつ」という歌詞の切り方がとても好きです。なぜかはよく分かりませんが。

この曲の歌詞は基本的に引用の通り、なぜか爆破衝動を抱えるこわい主人公の愚直な心情の吐露、という感じですが、唯一Cメロでは

もっと笑えばよかった ずっと戻りたかった
青春の全部に散れば咲け 散れば咲けよ百日紅(さるすべり)

のように後半でいきなり語彙力が上がっています。これは加賀千代女(かがのちよじょ)という江戸時代中期の女流俳人からの引用だそうです。元の句は

散れば咲き散れば咲きして百日紅

です。(こちらのサイトを参照

このあと落ちサビに入りますが、そこの最後「今しかない、いなくなれ」の部分がエコーのエフェクトも相まって、ラスサビの最高潮へ思いっきり飛び込んでいく感じがよく出ていて好きです。


4. ヒッチコック

発売前に動画サイトに投稿していた曲。このアルバムでは後の「準透明少年」に次ぐ第二弾として投稿されました。

youtubeではn-buna・ヨルシカ史上最速で100万再生を達成し、投稿1ヶ月にして既に約180万回再生されています。この曲自体の良さのほか、ヨルシカの認知度の高まりも大いに影響していると思います。

そんなヒット曲「ヒッチコック」は本作の歌モノのなかでは最も独特な曲だと思います。

「雨の匂いに懐かしくなるのは何でなんでしょうか。
 夏が近づくと胸が騒めくのは何でなんでしょうか。
 人に笑われたら涙が出るのは何でなんでしょうか。
 それでもいつか報われるからと思えばいいんでしょうか」

繰り返される「なんでなんでしょうか」という語呂で、一気に曲に惹き込まれます。ここでもsuisさんは幼めな声質で歌っています。ことごとく最適解を出している…。

自分がこの曲でもっとも好きな部分はCメロです。『夏草』の記事でも書きましたが、n-bunaさんのCメロには高確率でやられます。

「ドラマチックに人が死ぬストーリーって売れるじゃないですか。
 花の散り際にすら値が付くのも嫌になりました。
 先生の夢は何だったんですか。大人になると忘れちゃうものなんですか」

この「花の散り際にすら値が付くのも嫌になりました」の「嫌になりました」で裏声になるメロディラインが超好き。あまりに好きなので、本音を言うともう一度「ドラマチックに…」からのメロディを繰り返してほしかったのですが、そうはなっていないので聞くたびにお預けを食らった感じになります。


5. 落下

2つめのインスト曲。今度はピアノ以外の楽器も参加して、歌モノのあいだを上手く繋いでいます。

歴代のアルバム中盤に入るインストを挙げると、『カーテンコールが止む前に』の「夕立」、『花と水飴、最終電車』の「夜祭前に」、『月を歩いている』の「落下」、『夏草』の「飛行」と似たような役割を果たしていると言えるでしょう。

(こうして並べると、n-bunaさんのインスト集が作れそうですね。コアなn-bunaファンはこれらをランダムに流しても一瞬で判別できるのでしょうか。自分には全く自信がありません。)

実際、例のインタビュー記事で、この曲は前作の「飛行」のセルフオマージュである、と述べられていました。アルバムのストーリーの鍵を握る「雲と幽霊」とも関係しているということで、ぜひ記事を参照して下さい。


6. 準透明少年

事前投稿曲の第一弾です。何だかんだ言って、今のところ本アルバム中でこの曲がいちばん好きです。(投稿直後は、同時投稿されたn-buna名義のボカロ曲「ヨヒラ」を聞くのに忙しくてあまり聴き込めていませんでしたが…)

どこが好きって、だいたい全部です。

まずイントロから優勝感が強い。ハイテンポなギターロックの王道!って感じのイントロですが、意外とこれまでのn-bunaさんは作ってこなかったタイプだと思います。

そしてAメロ・Bメロも個人的には完璧と言いたくなる出来です。Aメロではイントロの高揚感をそのままに、うまく歌が乗っています。この曲ではsuisさんは大人に寄せた歌い方を採用していますが、もちろん最適解だと思います。

誰の声だと騒めきだした
人の声すらバックミュージックのようだ
あの日君が歌った歌を歌う

Bメロは特に後半の「あの日 き〜みが〜」と伸ばす部分が素晴らしい。これはおそらく、前半にはギターの印象的なリフでリズムを作っているのに対し、後半ではそれが止んでドラムが前に出てきて、一気にふわっと音が伸びやかに広がるためだと思います。

また2番のBメロではメロディラインや楽器のアレンジが変わっており、更に好きです。

駅前の喧騒の中を叫んだ
歌だけがきっとまだ僕を映す手段だ
あの日僕が忘れた夢を歌う

今度は前半からロングトーン「駅前の喧騒〜」や「歌だけがきっと〜」が映えるような控えめなアレンジになっています。「歌だけがきっと〜ま↑だ↑」で高音に跳ねるところも大好きです。

そして注目のサビですが、実は自分ははじめ、サビだけがこの曲でそんなに好きではありませんでした。Bメロでさんざんロングトーンが好きと言っておいてなんですが、この全体的に音を伸ばしがちなサビはいまいちしっくり来なかった…それまでが完璧だっただけに残念!と思っていました。

今はどうかと言うと、何度も聴いているうちに良さが分かってきた…というか、これでいいのだと自分を錯覚させながら聴いている状態です。おそらくこのサビが好きな人からすれば「これだから良いんでしょ!ここの良さが分からないなんて勿体無い…」という感じでしょうが、こればかりは個々人の感性の問題なので仕方ないですね。

ロングトーン気味の部分がしっくりこないだけで、サビ終わりの「僕を全部、全部、全部透過して」の部分はもちろん(?)大好きです。


7. ただ君に晴れ

先週末に第三弾として投稿された曲です。「靴の花火」以来2作目の実写MVは、n-bunaさんの思い描く夏の感傷的な風景をそのまま具現化したようでした。海沿いの街の線路や踏切、神社の境内や浜辺など…。ロケ地を巡礼したいです。

このようなミドルテンポのギターロックはn-bunaさんの十八番で、「夜に染まるまで」「昼青」「メリュー」「靴の花火」など名曲揃いです。「ただ君に晴れ」はこれらのノウハウをほぼ完全に踏襲しながらも、アレンジなどに他の人の手も借りて、更に完成度の高い王道ロックになっていると思います。

すぐに分かるユニークな点といえば、サビ中盤の2回クラップでしょうか。ライブでやったら楽しそうですが、今のところライブ予定はないそうです。

それから2番のサビ後の間奏もとても好きです。2本のギターがいい感じに絡み合い、一度静かに落としてから盛り上げるのに上手く貢献していると思います。

この曲について書くとしたら自分はこのくらいです。この曲が好みではないということではなく、ほんとに上手く王道に落とし込んでまとめているため特筆すべきことが思いつかないのです。

あと最後に、Youtubeの動画情報欄を見たら、「ただ君に晴れ」の正式な英語版タイトルは"Cloudless"なんですね。この英訳とても好きです。"君に"の部分どこいったんだよ、とも思いますが、この一単語に全てを託す潔さが、この曲に相応しいと感じます。


8. 冬眠

本アルバム最後の歌モノ。イントロからこれまでのガツガツした雰囲気とは異なることが分かり、「おや?」と惹き込まれます。

suisさんのボーカルや他の楽器パートの音全体にうっすらとリバーブがかかっており、この曲自体が薄くモヤに包まれているような印象を受けます。ギターも盛り上げるというよりは花を添えるように控え目なので、その分ベースやドラムの音が前に出てきて曲を引っ張っています。

ふわふわとした雰囲気はサビでも崩れません。盛り上げすぎずに、聴いている人に「いい!」と思わせるサビはそう簡単に実現できるものではありません。普段のn-bunaさんなら転調するだろうな、という部分でもしそうでしない。ストイックに静謐をコントロールしているようです。

本作の歌モノは基本的にサビがとにかく強く、キャッチーさで有無を言わせずに心を鷲掴み!という感じの曲が続いていただけに、あえて最後に対照的なこの曲を配置する戦略は巧みに成功していると思います。

それにしても、このようなふわふわと揺蕩う曲調はタイトルの「冬眠」を表しているのでしょうか。眠りに落ちる間際のまどろみ、または眠っているあいだに見る儚い夢。昨晩のツイキャスで、n-bunaさんはこの曲を「夏のことを考えながら作っていた」と言っていました。冗談のようですが、よく考えれば「夏に想いを馳せて眠る」というのはn-bunaさんが好きそうな行動です。

アルバム自体の輪廻転生観と、それから1年間のうちに夏が来て去って、またやってくるという季節観はスケールの違いがあるにしろ、どこか通ずるところがありそうですよね。「冬眠」というのも実際の冬眠ではなく、もっとスケールの大きい"生まれ変わり"の比喩としての冬眠なのかもしれません。"君"に会える夏にたどり着くための"冬眠"とか。(そう言えば眠っていて意識がないときって、死んでいる状態とあまり変わりませんよね。)



9. 夏、バス停、君を待つ

アルバムの最後を締めくくるのもピアノインストです。タイトルからしてn-bunaさんの性癖がモロに出ていて、はじめクロスフェードを見たとき少し笑ってしまいました。

「バス停」というのはインタビューでも話しているように、本作そして前作の楽曲群の幾つかに共通して現れる存在です。明らかに、"夏"そして"君"のメタファーとして機能しています。

前作より「あの夏に咲け」

いつもの通りバス停で、君はサイダーを持っていた。
それだって、様になってるなあ。

同じく前作より「雲と幽霊」

君と座って バス停見上げた空が青いことしか分からずに

「負け犬にアンコールはいらない」

もう一回こんな人生なんかは捨てたい
夏のバス停で君を待っていたいんだ

バス停が各曲の世界観を繋ぐ役割を担っているということは、そこを巡る路線バスに乗ればそれぞれの世界を行き来できるみたいで夢が膨らみますね。どこに行けばそのバスに乗れるのでしょうか。

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※この写真は自分がGW中に行った離島で撮ったものであり、このアルバムとは全く関係ありません。



曲ごとの感想は以上です。アルバム全体の大雑把な感想としては、

どの曲もサビが強い。n-bunaさんはもともとキャッチーなサビで人気を博しましたが、その強さに磨きがかかっている。
suisさんは天才。ことごとく最適な歌い方を選んでくる彼女こそ"生まれ変わり"をしているのでは…?
・ループモノの世界観が非常にエモい。いつまでも夏に囚われ続けているn-bunaこそ、実質"生まれ変わり"をしているようなものなのでは…?(うるさい)

インタビューにもありましたが、世界観を共有する1stミニアルバム『夏草が邪魔をする』と本アルバム『負け犬にアンコールはいらない』の2つ合わせて、1つの作品と捉えたほうが良さそうです。これで「ヨルシカ第一部 完!」といった感じでしょうか。

ちなみに『夏草が邪魔をする』の感想はおよそ1年前に書いているので、よかったらこちらも読んでもらえると嬉しいです。

そしてインタビューの最後にあったとおり、ヨルシカ第一部を無事完結させたn-bunaさんはなんと「近いうちに個人としてもアルバムを発表できたらな」と思っているそうです。個人アルバムということは久しぶりのボカロアルバムを期待していいのでしょうか。だとすれば、「ヨヒラ」に続いてこれからボカロ曲の投稿が相次ぐことになるのでしょうか。あまり期待値を上げすぎず、密かに待っていようと思います。



それではまた。

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