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『BLEACH』におけるクソデカ感情の演出


昨朝のYoutubeLiveにてBLEACH20周年プロジェクトと久保帯人先生の新作情報が公開されました。

(このPVだけでも観てくれ……)


発表内容をまとめると

<BLEACH20周年プロジェクト>
①久保帯人先生の新作『Burn The Witch』が今夏ジャンプにてシリーズ連載
②その『Burn The Witch』の劇場中編アニメが今秋公開
③久保帯人先生の初となる原画展が2021年に開催
④『BLEACH』最終章(千年血戦篇)がアニメ化決定(時期は未定)

という盛りだくさんのものでした。
BLEACHファンは突然の濃すぎる供給で霊子中毒になりそうです。(致死量)

これだけでもスゴいのに、更に

読み切り版『Burn The Witch』&『BLEACH』1~48巻 

の 期間限定無料公開が始まりました。


まず『Burn The Witch』ですが、もし未だこの読み切りを読んだことのないという幸運な人がいたら今すぐ読んでください。
久保帯人先生がいかに漫画力の化け物かが分かると思います。


そして問題は『BLEACH』1~48巻が今なら無料で読めてしまう、ということです。これは思春期の良い子たちには劇薬過ぎる。

キャラメイクの現人神こと久保先生の才が爆発した『BLEACH』は、子供たちだけでなく歳を重ねたオタクにも劇薬たりえます

BLEACHのキャラがスゴいのは、個人個人でも超が付くほど魅力的なのに、彼ら/彼女らの間に網目のような関係性──幼馴染・主従・師弟・愛憎・背徳・未練など──が張り巡らされているために、キャラが無限に掘り下げられる点にあります。

「BLEACHの推しでその人の性癖がわかる」というツイートは定期的にバズりますが、BLEACHは性癖のデパートであるだけでなく、強い関係性・クソデカ感情のオンパレードでもあるのです。


したがって今回は(ここまで前置き)、無料公開されている48巻までに登場する、関係性のオタクなら絶対に刺さるクソデカ感情案件を紹介します。とりあえず、このnoteではとっておきを一つだけ。

そのとっておきとは……



砕蜂 - 四楓院夜一

です。

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157話より)

BLEACHの誇るクレイジーサイコレズこと砕蜂(ソイフォン)の、夜一に対する巨大感情。小学生の頃は特に意識しませんでしたが、人生ではじめて触れた"百合"がおそらくこれです。

尸魂界篇もクライマックスに近づきつつある中、突如勃発した元・主従関係対決。BLEACHはバトル漫画なので基本的に戦いを通じて関係性を描きますが、この対決は「関係性を演出するためのバトル」として最も完成された一例です。


読み返して気づいたのは、この戦いは基本的に敵である砕蜂視点で進むということです。上のページでの「暗剣!」「鈍い!」といったモノローグがそれを示しています。味方キャラ視点で進み、戦ううちに敵の弱点を暴いて勝利する──という戦闘描写の典型を崩して、なぜ砕蜂視点にしたのでしょうか。

全ては戦いの最後で明らかになる「砕蜂と夜一の"本当の"関係性」の演出のためです。

元上司であろうが容赦なく見下して現在の己の優位性を誇示する砕蜂に対して、苦戦している様子は窺えるものの、胸中がよく分からない夜一……という構図は、夜一の秘儀「瞬閧」によって一転します。

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158話より)

実は夜一のほうが何枚も上手だったというカタルシスとともに、砕蜂の不遜な余裕ある態度は剥がれ落ち、彼女の夜一に対する"真意"が回想を通じて明らかになります。

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159話より)

ここの回想の入り方が何度読んでも神がかっている。激昂してのフラッシュバックのようにもとれる。シャオリンかわいいよシャオリン……。

バトルとしてはこの時点でもう勝敗は見えているんですよね。だからここで重要なのは「いかに決着させるか」という落とし所のみ。

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159話より)

回想を通じて、砕蜂は夜一を崇拝していたこと、だからこそ突然の別れにショックを受け、収集のつかなくなった愛が憎しみへと裏返ったことが示される。何よりこの回想が素晴らしいのは、砕蜂がめちゃくちゃ可愛いことなんですよね。前ページまで冷酷な殺し屋として啖呵を切っていたキャラ、急に彼女のしおらしく乙女な姿を見せられたらギャップで落ちないはずがない。しかも、その"ギャップ"というのが砕蜂の夜一への本当の想いが明らかになる過程と完璧にリンクしている。

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159話より)

そして回想が終わり、この名シーン。全てはこの砕蜂の涙のためであったとさえ言えるでしょう。その前の戦いも、回想も、この引きの説得力のための演出です。まさにBLEACHにおけるバトルの精髄を結集したような一幕です。

この戦いがスゴいのは、およそ本筋に関係がないという点です。しかもサブキャラ同士のバトル。冷静に考えて「ぽっと出の敵キャラがなぜか知らんが最終的に泣きながら戦意喪失して終わるバトル」なんてワケが分からない。それなのに、いやだからこそ、丁寧に前フリをして、完璧な回想を挟んで──という演出にこだわりまくる。その結果として、BLEACH屈指の名エピソードが出来上がったのです。

これ以降、砕蜂はもう完全に化けの皮がはがれて夜一大好きbotとなります("カラブリ"では特に)。この先も卍解などパワーアップ描写はありますが、とはいえこの夜一への愛憎の清算とともに、砕蜂のなかでの大きな物語は消化してしまいました。それ故に、これ以後は目立った活躍が少なくなるのでしょう。

つまりBLEACHでは、個々人の関係性こそが至上命題であり、そのエピソードの消化/昇華のためにバトルがあるのです。(全てのバトルが、とは言いませんが……)



……ええと、最後の方はどちらかというとBLEACHにおける戦闘描写の位置づけ考察みたいになってましたね……。十刃のあいつとあいつの関係性とか、科学者同士の関係性とか、主人公周りとか、紹介したいクソデカ感情案件はまだまだあるんですが……続くかどうかはユーハバッハのみぞ知る。


とにかく、4月5日まで『BLEACH』が破面篇まで無料なので、未読勢も既読勢もこの機会にみんなで読みましょう。そして「俺の推すBLEACHクソデカ感情案件」を、noteでもTwitterでもどんどん語りましょう。(語ってくれると嬉しいな)


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