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松本次郎『フリージア』感想メモ



こちらのツイートでkindleセール中なのを知り、全巻購入。(計2千円強)
このKindle愛蔵版は12分割されていますが、以下では紙版(全6巻)の巻数に従って表記します。



・1巻

1巻読んだ。
なんやかんやで本質的には俺TUEEE系。『殺し屋1』もそうだったけど。

戦争国?として「キリスト教」が名指しで出てきて、なるほどこりゃあ『チ。』が「C教」表記で逃げるのを批判するよなぁと思った。

主人公のカラスのモチーフは、あれ本気で格好いいつもりでやっているのだろうかと不安になる。「敵討ち執行人」のネーミングがわざとなのはわかるけど。

最近は枠がなかったりはみ出たりしまくる少女漫画や少年漫画を読んでいたから、ナナメのコマが一切ない、直方体だけの整然と並んだページ構成が逆に新鮮に見える。
手書きのラフい画風はわりと好み。幽霊編の村の背景が好き。聖地巡礼したい

対幽霊編おもしろい。および腰のモブ弱者同士の戦いって意外と珍しくて、それがこういうエログロ暴力漫画のなかで描かれるとこんなに魅力的なんだという発見。
だいたい強者vs強者か強者vs弱者くらいしかバトル漫画って描いてないんだなぁ。(「そんなことないぞ」大喜利スタートです!はい楽さん早かった!)

それに肝心の幽霊vs主人公も、お互いに相手をうまく認識できない状態での戦いというのが面白い。

幽霊のこの後日談?は考えさせられるような、勿体ないような……


ヒグチさんってマキマさんの元ネタ?
主人公との因縁や関係が似てると思っていたら一人暮らしのマンションの一室で犬飼ってて笑った。


・2巻

2巻読んだ。3巻序盤で決着するところまで。
この話も良かった。圧倒されるような面白さではなく、じんわりとした良さ。実質つくみずやpanpanyaみたいなものかもしれない。最後の公団住宅街に降る雪のなかの撃ち合いの見開きは少女終末旅行感あったし。(「実質◯◯」とかいってアドレナリンに浸る、SNSに適応した消費態度は即刻改めるべきである!!!)


たまにある、連載時はカラーページで描かれてたっぽい見開きで画風がまったく異なるのはなんなんだ。普通に連載時はカラーだったから塗りの絵柄になってるだけか。

彼女が懸賞に勝手に応募して当てた物置きを住んでるアパートの近くに放置してある舞台設計は演劇っぽい?


・4巻

4巻読んだ
岩尾編なかなか良かった。というか岩尾さんが好き。マッチョな話なので徹底的に女性は戦う男どもの「帰る場所」役でうんざりしていたが、格好いい戦う女性が出てきてよかった。最後の慟哭は泣きそうになった。結局ヒグチにも救われた形。

ストーリー上、集落の路地などの描き込みが重要になるので、一風変わった街角散策マンガとしても楽しめる? 鬼ごっこ隠れんぼみたいなものだし。みんな大好き逃走中。

この最初のコマ好き。雨の光で遠景の山容が浮かび上がるかんじ


・5巻〜6巻

外のシーンでの風か煙みたいなやつに影が付いてるのがずっと気になっていたが、風とかじゃなくて紙くずとかが実際に舞っているのか? でも叶の擬態時の煙みたいな演出に似てるんだよな。


そこにあるはずのない小物を背景で象徴的に使うのウテナっぽい演出

全6巻おわり!!!
溝口vs叶編も、終盤の田中K太編もあんまり面白くなかったかな。K太くんマザコンかつ献身的な彼女に依存している点が叶と対比されているのは分かるが、またかよ感が勝つ。

結構期待していたヒグチとの決着もあっさりで、解釈の余地を残すようなメタっぽい終わり方も(一読した限りでは)響かない。円環的に初めに逆戻りしているのか、叶の確かな成長譚と捉えるのか。YO-KOが花屋の下見で1人になってぜったい自殺してると思ったけど、別に特に彼女は何も意図しておらず、話の都合上彼を1人にしただけか。


・まとめ

『殺し屋1』とどうしても比べてしまうが、バトルよりも主人公の狂気・精神に重点が置かれているので、ド派手なバトルでのスッキリ感を求めていると肩透かしを食らう。そもそも主人公がクソ強いとはいえ、避けたり相手にデバフを与えるほうに特化しているので、攻撃性能が良いわけではない。(エイムも凄いけど)
そういう、外へ発露するよりは内面を掘り下げていくテーマ性が、鬱屈・雑然とした描き込み線の画風にも表れている……とかなんとか言ってみたり。
狂気を狂気としてまっとうに描いている(描けている)のも、(エロゲで見飽きているのもあって)あまり刺さらなかった原因かもしれない。

対象者は殺されてからがむしろ本番で、叶の前により大きな存在感を持って現れるというのが一貫しているのは良かった。

面白かったのは幽霊編と岩崎編と溝口vsお婆ちゃん編と岩尾編。こうして振り返ると結構あるな。
同僚の山田ももっと面白いキャラになることを期待していたが、そこそこだった。溝口先輩には最初から期待していない。
終戦後も岩尾さんがなんとか生活していけるならハッピーエンドです。




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