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アーリースタートアップにおけるミッション・バリューの醸成と浸透

はじめに

こんにちは!株式会社ハイヤールー代表の葛岡(@kkosukeee)です。

本記事では設立二年、社員規模約10名のスタートアップにおいて、前回記事で策定したミッション・バリューをどのように醸成しているかについて、実際に行った施策を元にご紹介します。

本記事が少しでもアーリーフェーズのスタートアップ経営者、これからスタートアップを立ち上げようと思っている方のご参考になりますと幸いです。

TL;DR

  • ハイヤールーは設立二年ちょっとのプロダクトドリブンなエンジニア起業家のスタートアップである

  • カルチャー醸成後の理想像を定義し、現在とのギャップを埋めるための青図を作る

  • アクションとして行ったことは大きく3つ、1. 背景と創業者の熱い思いを伝える, 2. 社内外向けにカルチャーデックを作成, 3. ミッション・バリュー体現のために合宿を企画

  • 今後は経営者のテコ作用をうまく働かせ、まずは経営メンバーがミッション・バリューを体現することで浸透させていく

  • ミッション・バリューは、会社が順調な時ではなく、逆境に立たされた時にこそ機能する。なので不確定要素の多いアーリーフェイズにおいてより重要

おさらい

我々株式会社ハイヤールーは、設立二年程のスタートアップで、エンジニア採用における採用プロセスに必須のコーディング試験をSaaSとして提供しているスタートアップです。創業者の3人は私含め全員エンジニア出身で、かなりプロダクトドリブンなカルチャーのある少し尖った会社です。

前回記事ではスタートアップの旅を、ワンピースにおける大航海に例えました。ワンピースで言うところの「海賊王に俺はなる」という野心的なミッションを「すべてのエンジニアが正当に評価され、個々の力が最大限に発揮できる世界を実装する」とし、「人の夢を笑わない」、「仲間を大切にする」という行動原則にあたるバリューを「Fail Fast」、「Aim Hgih」、「Pull Together」としました。

弊社の新しいミッション
弊社の新しいバリュー

醸成プロセス

ミッション・バリューを社内に浸透させるに当たり、まずは何が理想像であるかを定義します。理想像としては、創業者やボードメンバーの口以外から「ナイスFail Fast!」や「Aim Highで行こう」等、自然とバリューが飛び交い、全員が掲げたミッション・バリューを体現することです。会社を創業するのは創業者ですが、その後みんなの会社になるように、ミッション・バリューも創業者が作りますが、その後創業者だけの価値観ではなく、社員全員の価値観になっているのが理想とされるのです。

理想像が定義された次は、現状を把握し、理想像とのギャップを明確にします。現状と理想像とのギャップが把握できれば、どのようにその理想像に近づけるのかをいくつかのアクション(この時点では仮説)に落とし込みます。策定直後の現状としては、創業者、ボードメンバーはミッション・バリューの策定に関わっていたのでもちろん理解しているのですが、社内メンバーはまだミッション・バリューを口にできない状態です。そこでまずは以下のようなアクションを考えました:

  • 背景と創業者の熱い思いを社内全員に伝える

  • 社内外向けにカルチャーデックを作成する

  • ミッション・バリューの体現を目的とした合宿の企画

背景と創業者の熱い思いを社内全員に伝える

インテル元CEOのアンディ・グローブ著の『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』に紹介されている概念に「テコ作用」というものがあります。ミッション・バリューに秘めた熱い思いを社内に伝え、全体の士気を高め、同じ目標に向かって走る、このようにテコ採用を最大限に働かせるために、事前に伝えたい内容、目的を話す前に整理し、以下のようなメッセージを社内に伝えました:

> 我々エンジニアがプロダクトを通し生み出す価値は計り知れない。なのに未だに納品が終わればエンジニアは必要ないと思い、自社でエンジニアを抱えることを負債だと考える経営者は少なくない(実際は資産である)。我々はその認識を本気で変え、そしてエンジニアの生み出す価値が正当に評価される世界を作る。そうすることでモノづくりで一番になった国が再度モノづくりで一番になれる日がくるだろう。失敗を恐れずに高い目標に向かってみんなでそんな世界を実現しよう!

社内でどのように新しいミッション・バリューを伝えるかは非常に重要です。前回の記事でも書きましたが、ミッションは我々が目指すゴールを示すコンパスのように、バリューは共にゴールを目指す上で共有したい価値観です。社内メンバー全員が口を揃えてミッション・バリューを口にできない状態では、いずれの目的も果たせません。そのため、全員の時間をブロックして、全社ミーティング(社内ではAll-Hands)等を活用して、しっかり準備した上、自分の言葉で伝えることが大事だと考えます。

社内外向けにカルチャーデックを作成する

素晴らしいミッション・バリューは社内の士気を上げるだけでなく、社外に対して発信することで、自社ブランディングや採用力に繋がります。近年のスタートアップでは、カルチャーデックと題し、自社の素晴らしいカルチャーや、ミッション・バリューを社内だけではなく、外部に対しても発信しているケースが多く見られます。そこで我々もハイヤールーという会社が何をやっている会社でどんなカルチャーなのかをより良く知ってもらうために、カルチャーデックを作成しました。

10XLayerXのカルチャーデックはオンラインで公開されています。それらを参考にしながら、作成開始から公開まで約2週間ほどで作成した弊社のカルチャーデックが以下です:

カルチャーデックの作成・公開に関しては、社内カルチャーの醸成や浸透というよりは、これから同じ船に乗るであろう仲間に対し、より自社を知ってもらうことが目的です。ミッションに共感しない人や、バリューを体現できない人が同じ船に乗った際には、組織に悪影響がでます。人数がより少なく、一人ひとりが重要な役割を担うアーリーフェイズのスタートアップにおいて、カルチャーによるミスマッチはクリティカルです。

余談ですが、弊社はカルチャーデック公開後、事業が順調に伸び始め、採用活動を本格化しました。これまではリファラル採用が中心でしたが、リファラルだけでなく、ビズリーチ等を契約し、色んな人にスカウトを送る際、カルチャーデックのリンクを乗せることで会社の説明コストが下がったり、カジュアル面談の際、画面共有でカルチャーデックを写しながらお話することで、面談の質が上がったりと、当初期待していなかった部分においてもメリットを感じています。

ミッション・バリューの体現を目的とした合宿の企画

ダニエル・コイル著の『THE CULTURE CODE ―カルチャーコード― 最強チームをつくる方法』の一例に、ポポヴィッチ監督率いるプロバスケットボールチームのサンアントニオ・スパーズがあります。利己的な考えを持ったスター選手でも、スパーズに加わると献身的になり、自分の記録ではなく、チームの記録のために必死にプレーをし、その結果、好成績を残したそうです。ポポヴィッチ監督がチームのマネージメントで大事にしていたことの中に、「物理的な距離を短くする」や「チームに愛を注ぎ込む」等があります。これらから分かる通り、効率性を求めたリモートワークだけではなく、カルチャーを形成する上では対面でのコミュニケーションも非常に重要であると考え、全社合宿の実施に至りました。

弊社はフルリモートを原則として許可している会社なので、静岡や北海道の自宅からのリモートワークを実施するメンバーもいます。そんな中、会社設立二周年のタイミングに合わせ、一週間の全社合宿を八ヶ岳で実施しました。合宿の目標はミッション・バリューを体現することにあるため、ひとつ屋根の下でメンバー全員で、チームとして新規事業案である社内人材の評価におけるソリューションの開発と仮説検証を行いました。

Aim Highバリューを体現するぞーというスライド。新事業の骨子を一週間で作る。
Fail Fastのバリューを体現するぞーというスライド。失敗を恐れずに高い目標を掲げる。
Pull Togetherのバリューを体現するぞーというスライド。チームで一丸となってやり遂げる。

弊社の3つのバリューである、「Fail Fast」、「Aim High」、「Pull Together」を体現するため、失敗をしてもいいから大きな目標を掲げ、そしてチーム全員でその目標に向かう、そして失敗をしたらそれを認め、チーム全員で振り返り次への糧にする、そんな合宿にすることが目的でした。日々進捗を確認するミーティングを締めくくる言葉としては、少し宗教じみていますが、バリューを全員で叫びミーティングをクローズする、この合宿が終わる頃には弊社のミッション・バリューを口にできないメンバーはいなかったと思います。

合宿中、真剣に仕事に取り組む様子
合宿終わり、HireRooの「oo」をマークで記念撮影

このように、策定後、比較的短いタイムラインでカルチャー醸成のため、いくつかの施策を行いました。ここに列挙されていない施策の中には、Slackの絵文字を作ったり、とにかく意識して創業者、ボードメンバーが社内に対してバリューを口にしたり、様々な施策を行っております。まだまだ理想的な姿には程遠いですが、徐々にカルチャーの醸成と浸透を行えているのではないかと感じています。

今後について

STARTUP 優れた起業家は何を考え、どう行動したか』でメルカリの取締役会長の小泉さんはミッション・バリューの浸透プロセスを「明るい宗教」と例えています。強制させるのではなく、自然と口にする、そのためメルカリではバリューが入ったT-shirtsやパーカーを社員全員に配布したり、会議室の名前に「Go Bold」等のバリューを使ったり、経営陣が徹底してカルチャーの形成をしています。

弊社でも普段日頃からバリューをそこら中で目にするように、メルカリ同様、バリューが入ったT-shirtsやパーカー等を配布したり、バリューであるFail Fast賞やAim High賞等、バリューを体現したメンバーを称賛する機会を設けたり、様々な施策を通して今後もミッション・バリューを浸透させ、カルチャーを形成したいと考えます。

そんな中、我々が最重要と考えるのは、創業者、ボードメンバーが、しっかりバリューを体現することです。例えば私が何か失敗をした時、自分の責任ではなく、他のメンバーの責任、すなわち他責にしたとします。それを見た社内メンバーは、何か失敗をした時、同じように自分の責任ではなく、他責にするでしょう。冒頭紹介した、テコ作用が悪く働き、結果としてバリューである「Fail Fast」の、失敗を自分で認め、学習し、ゴールへの最短距離を模索すると言う本質を完全に見失ってしまいます。そこで我々経営メンバー自身がバリューをしっかり体現することでテコ作用をうまく働かせることが現在最重要と考えています。

まとめ

記憶を呼び戻し、本記事を書いている中で改めてメルカリは素晴らしいなと感じました。ミッション・バリューはミクシィからメルカリにジョインされたばかりの小泉さんが一番最初に行った仕事です。その際の背景として自身のミクシィでの経験から、事業が好調な内は良いが、不調になった際、共通の認識、すなわちミッション・バリューがないと組織は崩れると言われています。

ミッション・バリューは大企業だけに必要なものではなく、スタートアップにおいても十分に意味があり、かつ幾度ものハードシングスを超えていくであろうアーリーフェイズにおいてはより一層大事なものではないでしょうか?ですが、ミッション・バリューは策定して終わりではありません。ミクシィで組織崩壊が起きた際に、ミッション・バリューは策定されていたそうです。ですが浸透が全くされておらず、結果として効果を発揮しなかった、これからも策定後の醸成プロセスがいかに大事かというのが分かると思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます。本記事を通し、少しでもこれからミッション・バリューを策定する経営者のみなさんのお力になれますと幸いです。次回は弊社のカルチャーに関してご紹介します。それではまた、次回の記事で👋

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