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クレジットカード利用伝票の解説 - ⑤先進的取り組み

はじめに

会計時に財布を取り出す手間を省くために、クレジットカードを常にスマホケースに入れている方は多いのではないでしょうか。

筆者も現金をほとんど使わない派ですが、財布を持ち歩かない「完全キャッシュレス」な生活様式にはまだ移行できていません。

その理由の1つは非常にシンプルで、カードで会計をすると必ず紙レシートが渡され、紛失しないよう結局財布を取り出すはめになるからです。

そのほかにも、
お店によっては領収書とは別に、カード利用伝票も発行されるので2枚分の管理が大変。。
財布の中が紙レシートですぐにパンパンになり、定期的に中身を整理しないといけない。。

こういった消費者の声は年々増加傾向にあります。そして経済産業省を中心に「紙レシートの不要化(ペーパーレス化)」の検討が最近始まりました。

シリーズ最終弾では、業界内で注目されている最新事例を取り上げながら、レシートの近未来の姿について解説していきます。

紙レシートのペーパーレス化

決済(ペイメント)業界がペーパーレス化を推進するメリットは大きく3つあります。

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①費用の削減
クレジットカードで決済をすると、原則3枚の紙レシートが端末から出力されます。

紙レシートの種類とそれぞれの用途はざっくり以下の通りです。
>カード会員控 :クレジットカードで決済した会員に交付するレシート(=利用伝票)
>加盟店控 :カード会社からの請求があった場合、加盟店が提出するレシート
>カード会社控 :加盟店がカード会社に送付するレシート(=売上票)

経済産業省の聞き込み調査によると、加盟店側の1取引あたりのロール紙コストは約4円、紙レシート(加盟店控)の保管コストは約1円だそうです。

一見、大した額じゃないと感じる方もいると思いますが、フェルミ推定チックに費用(※)を概算すると以下となります。

※全国に100店舗、1店舗につき5台の決済端末を設置している年中無休スーパーの年間費用と仮定
5(円)×100(取引)=500(円):1日1台あたりのコスト
500(円)×5(台)=2,500(円):1日1店舗あたりのコスト
2,500(円)×100(店)=25(万円):1日あたりの全店コスト
250,000(円)×365(日)=9,125(万円):年間の全店コスト

②衛生的な決済環境
紙レシートを介した接触の解消、および接触時間の短縮化に繋がることは言うまでもないでしょう。

買い物時に感染するリスクを下げる「セルフ化」へのニーズは顕著であり、お店のレジ担当にとっても、業務中の感染リスク低減が期待できます。

人手不足で人件費が高騰する中で顧客満足度を最大化したい加盟店にとっても、衛生的な決済環境づくりは以下のような経営課題を解決するための第一歩だと感じています。

>会計業務の労力削減
>バックヤード業務における無駄なプロセスの省力化
>人手の配置転換による接客サービスの充実・高度化

「接触/対面取引」から「非接触/非対面取引」への流れは今後ますます加速していくでしょう。

③デジタル化の推進
ペーパーレス化の最大のメリットは、店舗のDX(デジタルトランスフォメーション)化の促進ではないでしょうか。経済産業省は「DX」を以下のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」

簡潔に表すと、データとデジタル技術の利活用を前提にした企業(お店)のビジネス変革です。

お店が顧客価値の創出と競争力の向上を実現することで、我々消費者のデジタルリテラシーと利便性も向上し、お店が新たな価値提供に取り組むという好循環が生まれるというものです。

紙レシートの発行ガイドライン

現在、紙レシートに係る業界ルールは大きく3つ存在し、割賦販売法、国際ブランドルール、加盟店規約で微妙に異なります。

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我々消費者が気にするべきポイントは「カード会員控」の部分です。

国際ブランドルールでは紙レシートの発行を義務化していますが、割賦販売法や加盟店規約では一部例外(※)を除き、原則紙レシートを発行する必要はありません。

※別途手数料が発生する分割・リボルビング払いでクレジットカード決済をした消費者が、お店に紙レシートを要求した場合、お店は紙レシートを交付する義務があります。

筆者自身、取引明細を表記したレシートは必ずチェックできるようにしたい派ですが、その媒体や方式に特にこだわりはありません。

将来的に紙レシートのペーパーレス化を実現するには、紙レシートの代替となり得るサービスの充実化と消費者への徹底周知がカギとなってくるでしょう。

アプリ、メール、SMSなどのプッシュ通知で、リアルタイムに取引明細を知らせてくれる代替サービスは、大きなポテンシャルを秘めていると感じています。

先進的取り組み - Squareのデジタルレシート

中小規模の加盟店が抱えている課題に着目し、決済+αの高付加価値の提供に力を入れている企業がすでにあります。

米国カリフォルニア州に本社を置く外資系ペイメント企業のSquareです。2013年より日本市場にも進出しており、切手サイズの独自の白色決済端末販売を中心に存在感を年々増しています。

Squareは加盟店向けマーケティングサービスも海外で本格展開しており、そのサービスの1つである「デジタルレシート」機能をここで紹介したいと思います。

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(出所)What Does Your Square Receipt Look Like to Your Customers?
https://squareup.com/au/en/townsquare/what-does-your-square-receipt-look-like-to-your-customers

サービス名称の通り、我々消費者が会計時に受け取るレシートを、お店が自由自在にカスタマイズできるというものです。

お店は紙レシートを出力しない代わりに、メールまたはSMSを通じて電磁的にレシートを送信できます。

取引明細の提示のみならず、お店と消費者間のエンゲージメント(交流)を増やすための仕掛けがたくさんあるのが面白いと感じました。

具体的には、以下のような追加情報をお店はレシートに付加できます!
>お店のロゴや系列店の住所
>公式ウェブサイトやSNSアカウント
>顧客満足度に関するアンケート

お店は消費者の満足度や感想を直接受け取ることができ、さらには必要に応じて返信することもできるため、効率よく双方にコミュニケーションが取れるようになるのです。

我々消費者がこのようなレシートを日常的に受信する時代は、そう遠くないかもしれません!

最後に

今回紹介したSquareの「デジタルレシート」機能は、紙レシートの代替サービスの一例です。

現在は経済産業省が中心となり、業界内の利害関係者が執るべき事項やガイドラインの策定に取り掛かっています。

このシリーズではクレジットカード利用伝票を取り上げましたが、電子マネー利用伝票バージョンも近々やってみようと思います。ありがとうございました!

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