越智啓太著「司法犯罪心理学」


司法犯罪心理学の教科書という位置づけだと理解しています。司法犯罪心理学といっても範囲が広いようですが、この本は犯罪原因論と犯罪者行動論を中心に扱っているとのことです。
前半は、ロンブローゾなどよく聞くっ犯罪人類学などの歴史的経過から。既知のものも多かったですが、様々な研究が整理されて紹介されておりわかりやすかったです。
「犯罪の原因としての大気中鉛濃度」(コラム1.3)の研究、大気中の鉛濃度の増減が犯罪の増減に関係しているかもしれないとのこと、フリントでの水汚染でどのような影響が出てしまうのか怖いところです。以下、印象に残った点を3点。

1点目、犯罪の心理学的原因論では、暴力的メディアの短期的・長期的影響の研究が紹介されていました。暴力メディア(テレビ番組、ゲーム)によるカタルシス効果というのはほとんどない一方、子どものときの暴力テレビ番組の視聴は10年後、青年期の攻撃性を促進するという結果が出たそうです。ポルノの流通がレイプを増加させる可能性があるとの解析結果も。ただし、その効果量はいずれもそれほど大きくはないとのことで、規制によって犯罪数がほとんど変化しない可能性があるともいいます。対処は難しいですが、見せないで済むなら見せないに越したことはなさそうです。

2点目、防犯心理学の章で知ったのは、「プルイットアイゴー」。1954年、日系人建築家が設計した低所得者向け集合住宅でしたが、環境設計上多くの犯罪を誘発する作りだったということで、瞬く間に荒れ果てて18年後に爆破解体されたそうです。①領域性がない。②公共空間、半公共空間、私的空間の境界画定がわかりにくい。③自然監視ができない吹き抜け空間。④愛着のわかないイメージ。⑤周辺環境。これらの重なりによりあからさまに犯罪が誘発されるとは、と驚きました。

3点目、メーガン法の功罪。市民としてはあった方が安心できる(ないと不安が残る)一方、性犯罪者にもたらす影響として、友人や大切な人との関係、孤立、失職等、再犯を防ぐために有益な資源が失われることが調査で明らかになっています。再犯防止の障害となるということは、かえって前歴者を追い詰め、犯罪を増加させる可能性を持っているということです。両立可能な方法がないか、考え続けていく必要があります。

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