ワンダーウォール
仕事前。
丸の内線に乗って。たぶん、音漏れしない、ぎりぎりの音量でオアシスをかける。
──苦痛の解放と快楽の追求。どちらかをみたしていないとビジネスは成り立たない。
昨夜のお客さまのそんな話を思い起こす。
苦痛の解放。
快楽の追求。
バーの仕事も喫茶の仕事も。
どちらの面もあるように思うから。
「フカオさんは、どういう気分の時に、お酒を飲んで帰ろうと思いますか。」
他にお客さまもない中で、私の目の前に唯一いるその人がそうしてくれている理由を、素直に尋ねてみる気になった。
「私は、苛々したり、悲しかったり、そういうどうしようもない気分のときに、バーや喫茶店に立ち寄って、お酒を飲んだりコーヒーを飲んだりして帰ります。人と話して、気を紛らわせたり、悩みを聞いてもらったり。…苦痛から解放されたいときが、多いみたいです」
フカオさんは、すこし間をおいて、静かに、そうかもしれないね、とたばこの煙を吐き出したんだった。
フカオさんも、そうなら。
私は今の、この瞬間、そんな力になれているんだろうか。
すこし、どきっとして、けれど毎週、ここでお会いしていることはひとつ答えと思っていいのかな。
今朝だって仕事に向かっていながら、オアシスを聴くのは、解放されたいから。
深夜ラジオを聴くことが習慣化したのも、それで笑っていなければ、落ち込んで終わる一日だから。
好きなもの、好きだった場所を振り返ればどうも人生の大抵が、苦痛の中を生きてたみたいだ。
これから先も、私はまあまあの頻度で酒を飲み、ノエルのギターに泣いてしまいたくなるんだろう。
それを繰り返す。だって尽きそうもない。
…そんなに悪くないね。
言いたいことは、自分の仕事を成り立たせていきたくて、がんばりますということです。
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