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ゲーム『あつまれ どうぶつの森』で学ぶ「公共財とボランティアのジレンマ」

この記事では,ゲームにある社会科学の概念を学んでいきます.ぜひ,ゲームをプレイしてこのノートを読み,学術的背景に目を凝らしながら楽しんでください.


ゲーム『あつまれ どうぶつの森』

今回取り上げるゲームは『あつまれ どうぶつの森』です.

さまざまな住人や友達どうしの交流を楽しむ『どうぶつの森』シリーズの最新作である『あつまれ どうぶつの森』は,無人島を舞台にのんびり生活を送ることができます.虫や魚を捕まえたり,花で島をいっぱいにしたり,自由気ままに生活を送ることができます.

ぼーっと過ごすのもあり,カブで一儲けするのもあり,さまざまな楽しみ方ができます.また,一定条件を満たせば島を自由に設計しなおすこともできます.楽しみ方は無限大なゲームです.ちなみに,私はひたすら魚と虫を集めています.

たぬきちの依頼

このゲームは,最初はテント生活から始まります.この「無人島移住パッケージ」を導入したたぬきちは,主人公であるあなたにさまざまな形でサービス提供と依頼をします.

たとえばマイホームを建築しないか,とあなたを勧誘します.たぬきちは,あなたにローンを組ませて家を建てさせたりします.そもそも,この移住パッケージ自体も,前払いではなく無人島でお金を請求されます.なかなかあくどい商売ですよね.

島の住人が増え,施設が増えていくと,たぬきちはインフラ整備を依頼してきます.インフラ整備の第一歩として,たぬきちは丸太橋をかけてほしい,とあなたに依頼します.あなたは資材を集め.橋を架けることになります

しかし,少し冷静になって考えてみてください.丸太橋はできたらきっと長持ちするでしょう.島民みんなが使う,主要な幹線通路の一つになるはずです.しかし,その橋を作る手間(コスト)は,島民であるあなた一人が背負い込む形になっています.つまり,ほかの島民はコストを払うことなく,橋の恩恵だけを享受することになります(もちろん,ゲームの進行上仕方ないのですが……)

公共財としての「橋」

このように,橋の建設を巡って少し込み入った利害関係があることがわかったでしょうか.橋は経済学では公共財に分類されます.公共財とはだれかが使っても減ることなく(非競合性),他人が使うことを妨げることができない(非排除性)モノ・対象を指します.要するにみんなが使える減らないものはたいてい公共財です.放送や空気なども公共財の一例です.

今回の橋の場合,確かに材料の分量を考えれば(木材を集めて少し加工するだけ),作業は一人で十分なようです.つまり,だれか一人が作業をすればみんなが幸福になるような状況です.ゲーム理論ではこのような状況はボランティアのジレンマと呼ばれています.

だれかがやればみんなが得するが,その「だれ」が問題になります.たとえば3人の島民,あなたとたぬきち,そして島民を管理するしずえさんがいたとします.

各人の状況は,橋が架かればそれ相応の恩恵が得られるが,一人だけ(一人で対処できるくらいの)コストを負担しなければならない,という状況です.各人には,コストを負担するか否か,選択肢が与えられます.このような場合,起こりうる状況は次の3つの状況です(専門的にはナッシュ均衡です).

A) あなただけがコストを負担する
B) たぬきちだけがコストを負担する
C) しずえさんだけがコストを負担する

誰か一人だけがコストを負う状況が起こる可能性があります.コストを誰も負わない,という状況や二人以上がコストを負う状況は起こりえません.そのような場合は,誰かが行動を変える誘因を持つからです.

ゲーム理論は,どれが起こりうるかは教えてくれますが,実際にどれが生じるかまでは教えてくれません.つまり,だれかはコストを負担するのですが,その「だれ」がわかることはない,ということです.一方,コストを負わずに利益だけを享受する人は,ボランティアにただ乗り(フリーライド)することになります.

「きっと誰かがやってくれる」

ボランティアのジレンマはいたるところで見られます.たとえば授業中に先生が「この問題,だれか前に出て解いてくれないか?」というシーンがあると思います.このような状況では,きっとあなたはこう思うのではないでしょうか.「誰かがやってくれないかなぁ」と.

このような思いは心理学では傍観者効果と呼ばれています.誰かが助けを求めているのに,だれも助けに行かず,ただ傍観するだけになってしまう状況です.これは,「きっと誰かがやってくれるだろう」という心理を互いに抱いたことによって生じます.

だから,ある意味でたぬきちがあなたを指名したのは英断といえるかもしれません.責任の所在,つまり誰がやらなければならないかを明らかにしたのですから(ゲーム理論風に言えば,ナッシュ均衡解を一つに限定した,と言えるでしょう).

実際の橋建設では……

ここで,現実の公共事業に目を向けましょう.実際に橋を架ける,ということになると大半は公共事業として国や地方自治体が行うものです.つまり,橋を建設するにも放っておくと誰も建設しないので,国や自治体が「代理人」として建設する,という仕組みになっています.

もちろん,ただではできないので,税金を利用して建設が行われます.つまり,利益を享受する(かもしれない)人々から少しずつお金を集めて,そのお金で公共財である橋を建設する仕組みです.

この仕組みを応用すれば,次のような建設計画を構想できるかもしれません.つまり,あなたが橋の建設を依頼されたのであれば,島民から少しずつ材料をもらって,橋を建設すればいいじゃないか,というアイディアです.これなら,一人だけが負担することもなく,当初のあなたが負うはずだったコストよりも少なく完成させられる,夢のような仕組みです.

しかし,このような仕組みもうまくいかないことがあります.それはまた別のnoteでお話しましょう.

この記事は次の本を参考にしています.より深く学びたい場合にはぜひ読んでみてください.