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「理由なきハンコ」の存在理由

※この記事は、「CivicTech & GovTech ストーリーズ Advent Calendar 2020 - Qiita」の12/05公開記事です。

「理由なきハンコ」プロジェクト

Code for Japanでは、目下「脱ハンコ」だと報道で取り上げられている事柄をまとめるサイト、「理由なきハンコ」プロジェクトをしています。(サイト構築を進めたいので、Code for JapanのSlackの「#proj-理由なきハンコ」にぜひ参加してください!)。

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個人的には、ハウモリ山形さん(たっくん)が書き上げたプロジェクトイメージのイラストが好きです。ちなみに、「理由なきハンコ」というネーミングの生みの親は、ふるかーさん。元ネタは映画「理由なき反抗」です。

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このプロジェクトでやってきたことは、主には押印の見直しの機運情勢、とりわけ「わかりやすくこの問題をお伝えする」というものです。これが「理由なきハンコプロジェクト」の1つ目の存在理由です。

・押印の見直しに関連して政府が公表したQ&Aの超要約
 「押印についてのQ&A
 「電子契約サービスに関するQ&A
 「電子署名法3条に関するQ&A

9月に開催された経済産業省「Govtech Conference Japan #04」においても、登壇の機会をいただき「押印の見直し」について対談を行いました。

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「脱ハンコ」が進む行政手続はどうなるのか?

2020年11月13日に政府の方針が発表されました。

「押印の見直し(脱ハンコ)」の目的は、河野大臣が記者会見の質疑で答えているように、

…認め印というのは個人の確認にはならないということを続けていたわけですから、そこの合理化というのはしっかりやれたと思いますし、書類にハンコを押すという行為がなくなれば、その手続は次に書面でなくオンラインでできるようになりますので、もうやり切ったということではなくて、いよいよ本丸の手続をオンラインに移していくということに取り組んでいかなければならないと思っております。
 今でも、書面で郵送を求めていたり、ファックスだったり、あるいは対面だったりというものがありますけれども、少なくともこの認め印を廃止したものについては、書面、対面の必要はないだろうと思いますので、これのオンライン化に向けて動いているところです。(河野大臣記者会見より)

・本人確認にならない認印を行政手続からなくす合理化
・続いて実施されるオンライン化の障壁をなくしておく前さばき作業

とされています。つまりは一里塚だってことですね。前者のことばかりが見出しになるのは、まあ仕方がないんでしょうか…

あれれ、「なんか違う」感がハンパない

大臣の会見の前後に、ハンコにまつわるいろんなニュースが報道されていました。それに触れるたびに、すごく既視感を覚える訳です。

国の手続の認印はこんなにあった

それを表現したかったのが、Tableauを使って作ったこちらの可視化です。

報道では「14,992の手続のうち、83手続を除いて押印を廃止することになりました」という言い方ですが、その前に「認印こんなにあったのかよ!」を知らないといけないと思ったのです。

押印の見直しダッシュボード

また、政府の検討よりも先行して多くの地方自治体が「押印の見直し」に取り組みました。その結果、「これだけはんこレスを達成しました!」ということを公表している団体があります。

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北九州市ホームページより

文字通りの「はんこレス」をしただけです。

国の検討では、「法令・告示の根拠なし」という手続件数(6,030件)も公表されています。根拠がない押印が、実に40%あまりあったことも分かっています。また、9件は根拠はないが、押印が存続する方向のようです(その判断の当否はここではしません)。

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押印を求める行政手続の見直し方針(根拠別集計)(PDFファイル、内閣府規制改革推進室)

他方で、自治体でこのような集計表を出しているところは、見つかりませんでした(あったら教えて下さい!)。

また、自治体の場合は、法律や条例以外の根拠によるもの(根拠がない手続はこっそり廃止なんでしょうか・・・)について、一括で「押印を要しないものとする」という書き方にしており、他の自治体も同様のやり方をとっているところがあります。

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全件の規則について当該項目を個別に削除する改正手続も考えられますが、いかにも迂遠でそれだけ作業もあることから、押印の見直しはこれまでの規則に対して特例規則で措置をする、これは法制実務上はオーソドックスな措置でしょう。しかし、様式上は押印が残る形で、都度「押印いらないです」という白けたやりとりも残ります。そして何よりも、この特例の人をくったようなあしらいも含めて、トータルで「無駄さ加減」を一度噛み締めてみることも必要ではないかと思います。

ここまで積み上げてきた仕事のやり方を考え直すために、「なんか違う」感、すなわち「こんなことをして何の意味があったの」「はんこレスにするためにこんなことしないと変えられないなんて」という二重の意味で行政も我々住民側もきちんと噛み締めましょう。

あるいは、物理的にしなくても、データがあれば「理由なきハンコプロジェクト」で可視化しますので、国と同じレベルでデータが公開されることを期待したいと思います。

はんこレス後の手続はどうなるの?

すでに「手書きの署名ばかり求められるようになった」という話をちらほら聞きますし、私もそのような場面に遭遇して、めんどくさい気持ちになりました。

それは、さきほどの北九州市の例で言えば、丁寧に書かれています。

「原則として、本人が署名した場合に押印を省略できます。」

そりゃそうでしょう。「認印は本人確認にはならない」を言い換えているだけに過ぎません。

「代理人が手続きを行う場合は、押印が必要となることがあります。」

さて、その場合の押印は、誰のハンコでしょうか?

本人でしょうか(それって、一番意味がないと糾弾されたやつだけど・・・)。

はたまた代理人のでしょうか。代理人が押印すると、もはやそれは代理人が本人ですよね(認印は、そこに掘られた文字が名前を示す必要ももはやなく、本質でないことであることを思い出しましょう)。何の代理をしているのか問題になりますよね。

これでは、押印によって手続を進める仕組みを生み出したご先祖さんに負け、コロナにも負けちゃってます。

きっと、

(1)来庁して手続する場合は、その場で本人による申請であることを確認すればよい(→「書かない窓口」もこの延長線でしょう)
(2)郵送申請の場合のように、本人確認書類を確認することで真正の申請(ダジャレっぽい)であることを確認しているでしょう(→来庁しない電子申請なりもこの延長線でしょう)
(3)いっそ手続をなくす(これが時間がかかるので、まずは「はんこレス」ということなのでしょうが、そのロードマップを示している自治体は少数です)。

いずれかのパターンに収斂されます。

そうした「書類の形式が整っているのか審査」を行う役所の作業(とその向こう側に、書類を整えるのに大変な住民・企業の手間)こそ、なくさないといけなかったはずなのに、脱ハンコの名の下に、うやむやになっていくものがあるのではないでしょうか。ちょうど、「理由なきハンコ」の理由がこれまで問われなかったのと同様に・・・

目の前ないしは封書の向こうにいる住民・企業の状況を考え、手続を新設ないしは確認するときに「本当はいらないのではないか?」と考える考え方をしっかりとらないと、次の「オンライン手続」が「脱ハンコ」と同じようなものにならないか心配です。

前例打破という意味では、画期的ではある

これまで思考停止していたことそのものについて、気がつくことは難しいです。そして、変えられないだろうと諦めていた制度そのものも、政府が3回に分けて公表したQ&Aで、当然のごとく前提とされている「条文解釈で十分吸収できるよね」という、これも実は法律を勉強して公務員になった者には当然のお作法でしかありませんでした。

そういうシニカルな見方をしていることは、正しいでしょうか?

いや、私はそうは思いません。

いかにも「なんか違う」感ある仕組みを続けてきた我々が、とにかくも前例を打破できたことは素直に受け止めたいとも思います。

それは、世の中は自分たちの意思を持って変えられる、シビックテックの考え方の基本でもあると思っているからです。その上で相手の事情もしっかり理解して、でも「理由なきハンコ」はなくしたい。うやむやにせず、みんなで考える、行政の手続きを、利用者としての我々も考えるためにこのプロジェクトは存在しています。

「理由なきハンコ」を集めて共有しよう!

「あれれ、ここまでが前置きなのかよー」と思ったあなた、正解です。

「理由なきハンコ」プロジェクトの1つに、「押印見直し事例収集」というものがあります。

Code for Japanの事例を参考までに掲載しています。霞が関や自治体の中で、11月13日の見直し方針が出る前に、押印不要化に同意いただいた方々もいらっしゃいます。ありがとうございます。

みなさんからの「こういう工夫があるよ」ということを広くシェアしたいので、ご協力よろしくお願いします!

ハンコや押印について考えるオススメなコンテンツ

今後は、必要な法令改正など作業を淡々と積み重ねていく通常運行になっていくと思います。「理由なきハンコ」プロジェクトも、その作業を見届けていきたいと思います。

「発見」された小学生による恐るべき自由研究

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「知ってる??はんこってなんで押さなきゃいけないの?〜日本のとくべつな文化」(佐久間千那さん、調べる学習部門 小学生の部(中学年)、2019年(第23回)文部科学大臣賞)

研究を書き上げた「感想」に、このように書かれているくだりがあります。

私も自分のハンコを作った時に、名前の横に押そうとして少しきんちょうした。曲がったり、インクがにじんだりしていないか気になった。そういう気持ちではんこを押す習慣が日本らしい文化のような気もする。

この気持ちは誰もが経験したことのある、実感を伴ったものであるでしょう(その応用編が、いわゆる「おじぎハンコ」のような、押印の形に気持ちを載せていくものです)。しかし、これまで行政手続で、このように認印を押印した際の気持ちは、ほとんど一顧だにされていなかったと言ってもいいでしょう。それは手続を進めるための目印であって、そこに思いを馳せていたら仕事にならないでしょう。

大臣の一言で、当然のごとく認印が全廃されることになったのは、こうしたこともあると思います。

恭子ママと「ハンコ専門家!?」が語る

巷で話題の「スナック恭子」。記念すべき開店初日に、「ハンコ専門家」の庄司さんが来店されています。行政手続に限らない押印にまつわる諸々について全体像を知るのにもってこいです。

ハンコ業界による情報発信も熱心

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私も「脱ハンコ」ではなくて、「理由なきハンコ」はやめようという考え方です。いろいろな考え方の人が意見を表明している「押印の見直し」は、シビックテックを考える上でも重要だなと思います。

テレビでじっくり見たい

バラエティ番組なので、そういう楽しみ方をするものだと思いますが、「マツコの知らない世界」でハンコが取り上げられていますので、オンデマンド(有料)ですがご覧になれる方はどうぞ。





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