欲望はインフレする

豆乳カフェオレでも作るか〜って思って,冷蔵庫を開けたらロイズの生チョコレートが冷やされていた.正方形の箱に入っていて中には20個か25個,レンガのような直方体で一口サイズのチョコレートが入っている.「誰かがお土産で買ってきたのかな〜」と思って冷蔵庫をしめた.
(ここでいう冷蔵庫は共用の冷蔵庫で,私のものではない.)



ふと,子供の頃を思い出す.



子供時代,私の実家ではたまにロイズの生チョコレートを買っていて,私はそれを食べるのが大好きだった.


でも,一箱全部食べるのは当然ご法度.「一人5個までね!」とルールが決められていた.


だから私は一日1個,チョコレートの上にまぶしてあるパウダーもできるだけこぼさないように食べていた.すぐに噛まずに舌の上でチョコレートが溶けるのを存分に味わっていた.


とても美味しかったけど,やっぱり物足りなかったので「いつか自分で一箱買って,ガブガブと食べるんだ」といつも思っていた.


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さて,社会人になり人並みのお給料をもらうようになった私にとってその目標は造作もないはずだった.しかし,どうもロイズのチョコレートを買おうとは思えなかった.


確か一箱1000円くらいで買えたはずだし北海道の物産展に行けば必ず売っている.手に入れる機会はいつでもあるはず.体が甘いものを受け付けなくなっているなんてこともない.


「あ,自分の中の欲望がインフレしてて,今ロイズを買ってしまったら子供の頃の思い出を壊してしまうんじゃないかな」ということに気づく.


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ロイズのチョコレートに限らず,今の私は子供時代の私の夢を叶える,とても大きな力(経済力)を持っているはずである.


しかし,それと同時に私の中の欲望も年を追うごとにインフレしている.つまり,多分だけど,今ロイズを一箱独り占めしても子供の頃に食べた1個のチョコレートほど幸福感を味わえないんじゃないか,という直感が働いている.


だから今の私がロイズを買ってしまったら,子供の頃に抱いていた夢は幻想だったという現実を痛感することになる.それは辛い.ロイズを独り占めできることよりも子供の頃の夢を夢のままにしておこう.今はそう思った.


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多分これは自分の生活全般に当てはまる.いくら経済的に余裕が出ても,自分自身の欲望がインフレしていては,その欲望を叶え続けるために高い代償を払わなければいけない.そして,無限に続くインフレが良い結果をもたらさないのと同じで,この欲望のインフレもどこかでセーブしないと破滅に近づいてしまうと思う.


また,人間の脳は欲望やそれが満たされることによる幸福感は絶対値ではなく相対値で判断してしまうんだろう.だから牛歩のような成長割合でも長い年月が経っているとものすごくインフレしてしまうことになる.


社会全体で見ると,ある商品やサービスについている値札はその商品・サービスの需要量と供給量のバランスで決まっている.みんなが欲しくて供給が少ないものは当然高くなる.


自分の欲望がインフレすることを100歩譲って良しとしても,知らないうちに自分の欲望が実は社会があなたに植え付けた欲望で,それに気づかないまま消費していては,あなたは社会の消費マシーンとして消耗し続けることになる.


社会が喜ぶ消費マシーンにならないためには自分の欲望と向き合うことが必須だ.そしてできれば,「他人は喜ばないけど,あなたにとっては喜ばしいこと」を見つけていくのが大事だと思う.これは需要がないものに目をつけ,その価値を見出しつつお値打ちで買うことに相当する.


自分でインフレに歯止めをかけて,コスパよく欲望を消費できるようにすれば良い.これはそんなに難しいことではない.例えば,お酒を毎日飲んでしまう人は数日我慢してみたらいい.数日ぶりに飲むお酒は本当に美味しいはずだ.間に運動をしたりストイックに自分を追い込む何かを挟むともっといい.自分の欲望をちょっと我慢したり,その間に1クッション挟むことでその反動でもっと大きな喜びを味わえるはずだ.”お酒を1週間我慢した人向けのビール”なんてものもないから大丈夫.


要は「足るを知る」という話かもしれない.欲望のインフレを止めるには「足るを知る」が欠かせないんだろう.





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