ULTRA-TRAIL Mt.FUJI 2023~はじめての100マイルレース完走記(1) 挫折を乗り越えるために
はじめに
「いつかは100マイラーに!」
10年前、近所を走るところから始まったランニングという趣味は、フルマラソン、100kmマラソンを経て、グレートレースで紹介されるようなウルトラディスタンスのトレイルレースに進化し、100マイル(165km)の山岳レースを自分の足で完走したい、という夢を見るようにまでなった。
進化するビジョン、成功と挫折、夢の実現までの記録をしたためました。
重ねる成功体験
「ちょっと近所を走ってみようかな」と思いつきをきっかけに、2012年からランニング人生が始まった。最初は3kmからはじまり、「BORN TO RUN」との出会いが大きくその方向性を変えた。
「もっと速く、もっと遠く、もっと楽しく、人間が生来持っている力を取り戻したい」そんな思いを抱いて走り続けてきた。裸足ラン、ワラーチラン、草鞋ラン、薄底ラン、その時々の流行りや試していることは変われど、自分の可能性を追求したい思いで走り続けてきた。
ハーフマラソン、フルマラソン、100kmマラソン、そしてトレイルへ、実現したい目標はどんどん進化してきた。
ロードの100kmは完走自体は問題なくできるようになり、PBも10時間台になったのでそこそこいい記録も出せた。続いてはじめたトレイルレースも50km、70kmのミドルレース完走なら不安なくできるようになり「どこまでも走れるんじゃないか?」そんな気がしていた。
挫折のはじまり
ミドルクラス(50-75km)のトレイルレースを何度か完走して、手応えを感じつつあった2018年に、当時UTMF(Ultra-Trail Mt.FUJI)の姉妹レースだったSTYに出場した。距離は90km台で、それまで挑戦したトレイルレースでは最長だったが、まったく不安はなく、完走することをみじんも疑っていなかった。
しかし、途中からそれまでに経験したことがなかった吐き気に見舞われた。気持ち悪くなり、何かを食べても戻してしまう。最終的にはコーラなどの飲み物すら受け付けなくなり、何も口にすることができなくなった。体内のエネルギーが枯渇し、結果として残り20kmの時点で進むことができず時間切れとなった。胃腸トラブルによる初めての挫折経験。
それ以降のレースでは、50kmを越えると、ロードもトレイル共に気分が悪くなったり吐き気がするようになってしまった。それまで「食べる」ことについて一切不安がなかったものが、一気に胃腸トラブルを常に抱える体質になってしまった。長時間走る時には、常に「また食べれなくなってしまうのではないか?」という不安がつきまとうようになってしまった。
その年の秋に出場したFTR100では、なんとか胃腸トラブルを抱えながらも、初の100kmのトレイルレースを完走した。
これで自信がついたので、翌2019年の夏に、本場ヨーロッパアルプスで行われた世界最高峰の100マイルレースUTMBの姉妹レース「CCC」に出場した。
CCCは距離、累積標高ともにFTR100と同等かそれ以下のプロファイルだったので、同じようにレース進行すれば問題ないと予想していた。レースが開催されたフランスのシャモニーは、街全体がレースで盛り上がる夢のようなお祭りだったが、レース中は再び胃腸トラブルに見舞われ、残り20kmの時点で動けなくなり、今度は自分の意思でリタイアを申告した。
海外にまで行ったのにリタイアした、しかも自分でリタイアせざるを得なかった事実は、自分の中で後悔として残り続けた。
失われていく熱量、逃げ腰の態度
帰国後は「再びシャモニーでCCCの雪辱を果したい」という熱残っていたので、鍛えなおして再挑戦しようと燃えていた。そのステップとして自身初の100マイルレースへの挑戦として、2020年のUTMFに出走する予定だった。しかし、世界的なコロナ禍が始まり中止となった。
翌2021年のUTMFに再びエントリーするも再度レースは中止になり、そこから自分の中でトレイルラン、そして100マイルレースへの情熱が少しづつ失われていくようになった。
家庭環境の変化で、練習のための時間を捻出することが難しくなってきた。また2020年から本の執筆を始めたので、常に書籍のことが頭の片隅に残るようになり、余裕がなかった。充分な練習ができず、自信がなくなり、どんどん逃げ腰になっていた。
翌2022年、徐々にレースが再開されていく中、4月に地元の鬼ヶ城ピークストレイルにエントリーしたが、直前までまともな練習ができていなかったので、参加をやめようとしていた。しかし前日になって「練習は足りてないが、やっぱり出場してみよう」と心を決め急遽参加した。
レース中は、足は攣り、モノは食べれなくなり、身体的にはとても辛い思いをしたが、同時に自分と向き合って「なぜ走るのか」という源泉、自然と向き合うトレイルランの魅力を思い出し、なんとか完走した。
2022年のUTMFは、優先エントリー権が残っていたものの出場を回避した。愛媛県のトレラン仲間達が大勢出場し、無事完走するのを眺めながら「自分だけ取り残されている」気持ちになっていた。
秋に行われた100kmクラスの広島湾岸トレイルも、エントリーしていたにも関わらず、同じように出場を回避した。「練習が充分にできていない」「忙しい」いろいろ理由もあったが、結局のところ、「自信がない」「完走できる気がしない」というように、開始前から心が折れていたのが最大の理由だった。
こうやって、前向き→後ろ向き→前向き→後ろ向き、を繰り返し、なかなか熱量を維持することができなくなっていた。
これがラストチャンス!?
そうやって、レースにも出ずに、くすぶっていた2022年の11月頃「UTMF2023優先エントリーについて」というメールが届いた。
https://www.ultratrailmtfuji.com/
てっきり優先エントリー権は2022年で期限が切れていると思い込んでいたので驚いた。このメールをみた時に感じたのは、
「これは自分に与えられた最後のチャンスかもしれない」
ということだった。
もちろん、充分な山の練習はできていないが、2023年2月に出走予定の愛媛マラソン用のロード練習はそれなりにしていた。
「愛媛マラソンも練習と捉えてできることを積み重ねていこう」
と覚悟を決めて2023年のFUJI(UTMFから改名)にエントリーを決めた。
予定通り、2月にフルマラソンを2本(愛媛、大阪)走って練習の代わりとし、3月に50km以上のロードのロング走を中心に長時間練習、そして何回かの山錬をこなして本番に臨んだ。
最大の対策は胃腸トラブル
今回のFUJIで最も対策を考えたのは、これまで二度レースをDNFしている胃腸トラブルについてだった。胃腸トラブルがあっても食べれる補給食を作れないか?と、甘すぎない自作の発酵あんこ、塩分とタンパク質を補給するための一晩発酵味噌をつくって持参した。
ロング走の練習の時に両者とも持参して、実際に気持ち悪くなってから摂取できるかを試してみた。しかし、気持ち悪くなると、これらを食べるのも難しくなり、少しづつしか口にできなかった。
そもそも「気持ち悪くならないようにするためにはどうすればよいか?」という発想が根底に必要なことを気づかされた。
今回は、エンデュランススポーツで頻繁に使われるジェル系の補給食は最小限に留めた。甘過ぎるジェルを口にすると、口内がベトベトになり、フルマラソン程度でも気持ちが悪くなってしまうからだ。
高価だが、フルマラソンでいつも使っているモルテンのGELシリーズ、DRINK MIXシリーズを持参した。それに加えて、コンビニや薬屋で売っているようなバー状の固形物(SOY JOY、プロテインバー)も購入した。
そして固形物が一切とれなくなった時のために、ゼリー系の補給食も持参した。ゼリー系は食べやすい反面、水分が多く重くなりがちだが背に腹は代えられない。ゼリー系もケミカルな味がすると身体が受け付けなくなってしまうので完璧ではない。特に胃腸が弱って何も食べれなくなりそうな後半のためにドロップバックに入れておいた。
念のため、胃薬も用意したが、これまでレース中に胃薬を使ってあまり効果があったという記憶がない。強力な薬は身体への反動が大きそうなので、今回は漢方薬で整える程度に抑えるため「大正漢方胃腸薬」の顆粒を用意した。あとは直前にコンビニで買った「キューピーコーワゴールドA」。疲れた時によく両親が飲んでいたなぁという印象があるので、御守り代りに持参した。
できることは全部やろう
このチャンスを活かすために、自分の今の環境で「やれることはやった」と言えるようにしてきた。
2020年以前の練習内容には質、量ともに遠く及ばないが、練習は身体的に鍛えるというだけでなく、レース前やレース中に諦める言い訳を作らないためにしてきた。
ギアについても、普段はいているトレランシューズ(ALTRA スペリオール)よりもソールが厚いALTRAのローンピークを購入し、その上で左右バランスを整えるために、Sokkaさんでインソールも作成してもらった。
また前述した自作の補給食も開発した。コースのプロファイル分析と対策も可能な限り行った。2週間のカフェイン断ちを行って当日カフェインをとって眠気がこないようにもした。
トレランザックは、本来なら2020年のUTMFの時に使おうと購入した、当時試作版のパーゴワークスのUT2。ロングディスタンスのレースに出走することを条件に購入したUT2を、やっと使うことができる日が来た。これで3年越しの約束を果せる。
身体的にも、ギア的にも、後悔ないように、今の自分にできることを重ねて準備していった。そして時は過ぎ、レースがやってきた。
パート2に続く…
皆様のサポートによって、より新たな知識を得て、知識と知識を結びつけ、実践した結果をアウトプットして還元させて頂きます。