なぜ愛媛でSuicaが使えないのか?(2) 〜 サイバネ規格を断念する理由とは?
前回までのおさらい
「愛媛県でSuicaが使えない」のを不便に感じていたが、何故使えないのかを調べた事はなかったので一年前に調べ始めた。
「愛媛県でSuicaが使えない」のは具体的には「SuicaをJR四国および伊予鉄道において電車、バスを始めとした各種公共交通機関に乗れない」ということだ。調べてみると、Suicaが使えないのは、ICカードの規格が、Suicaで採用しているサイバネ規格に対応していないことが原因だった。
サイバネ規格とは何か?
ここで前回でてきたキーワードであるサイバネ規格とはどのようなものかを少し調べてみた。
日本鉄道サイバネティクス協議会[1]は、日本鉄道技術協会の特定部会として運営されており、出改札システムに関して連絡運輸・相互利用に関するルール作りなどを行っている。
「サイバネティクス」という用語は、N.ウィーナーが著した『サイバネティクス』(生物・機械も統合したシステム理論)の概念を拠り所にして技術的発展をめざそうとする意味がある。
サイバネ規格とは、この協議会で策定された規格のことで、別名CJRC規格とも呼ばれる。Suicaと連携可能な交通系ICカードはこのサイバネ規格に準拠している。サイバネ規格は参画事業者のみに公開されている非公開規格であるが、カードリーダーなど読み取れる内容から、その概要は一部解析されている。[2]
ICカードに関するサイバネ規格は2000年に策定され、相互利用の開始に伴ない2004年には、事業者間の運賃の生産を行う株式会社ICカード相互利用センターが設立された。
Suicaの開発秘話を読み解くと、Suicaを実現するためのJR東日本が提示する厳しい要求項目を唯一満したカード規格がFeliCaであり、サイバネ規格はそのSuicaの厳しい要求項目を受け継いでいると考えるのが自然だ。[3]
四国のサイバネ規格の準拠は?
四国の鉄道各社のICカードのサイバネ規格の準拠を再度リスト化すると次のようになる。
高松琴平鉄道(ことでん)「IruCa」 → サイバネ規格
愛媛県の伊予鉄道 「ICい~カード」→ 独自規格
高知県の土佐鉄道の「ですか」→ 独自規格
徳島県 → 交通系ICカードの導入無し
四国の鉄道各社のICカードの共通化構想ですら、ICカードの規格が異なるため短期的に四国共通カードの実現は難しい。[4]
香川の状況〜交通系ICカード片利用の広がり
サイバネ規格に準拠したIruCaは、2017年から交通系ICカードが利用できるようになった。[5]。
ただし交通系ICカードとの相互利用ではなく、片利用(交通系ICカードがIruCaエリアで利用できるが、IruCaは他エリアでは利用できない)という制限がついている。2019年からはIruCaの片利用が拡張され、ことでんバスでもSuicaを始めとする10カードの利用が可能になった。[6]
JR四国においてもJR西日本のICOCAが2018年9月から岡山〜宇多津、高松~多度津間で利用できるようになっている。[7]
まとめると、香川県では2020年現在はJR四国、ことでんにおいて片利用やエリアの制限付きで交通系ICカードが利用できるようになっている。
高知の状況〜土佐電がサイバネ規格を断念した理由
一方、伊予鉄がサイバネ規格を見合せた理由を探してみたが、ピンポイントの情報は見付からなかった。そこで、同じくサイバネ規格に準拠しなかった土佐電の「ですか」がサイバネ規格を断念した理由を見つけた。[8]
そもそも「ですか」はスイカなどが入る「日本鉄道サイバネティクス協議会」の規格とは違う。日本鉄道サイバネティクス協議会に入るなら、多額の年会費を払わなければいけない。規格を合わすのにも費用が要る。
さらに、独自サービスがある場合は他の事業者のカードにプログラムを組み込んでもらわなければならない。その時間、費用を考えれば…というわけだ。
上記の高知新聞の記事にあるように「サイバネ協議会の会費が高すぎる」というのが第一の理由なのだろうか?
会費が高すぎるってホント?
では実際にサイバネティクス協議会の会費がいくらくらいなのかを調べてみると、既に調べている方がいたので参照させて頂いた。[9]
その記事によると、日本鉄道サイバネティクス協議会が所属する一般社団法人日本鉄道技術協会のパンフレットでは年額18万円、あるいは36万円とある。
年会費は鉄道事業者かそうでないかで変るため、伊予鉄や土佐電は鉄道事業者でA会員(18万円/年)にあたる。月額にすると1.5万円だ。とても企業が「高すぎる」と敬遠する金額には思えない。
とすると、先の「ですか」についての高知新聞の記事にあったもう一つの理由である時間と費用が決定的な理由なのだろうか?
次回は、サイバネ規格に準拠するための時間、費用について調べてみることにする。
参考文献、リンク
[1] 日本鉄道サイバネティクス協議会. http://www.jrea.or.jp/cybernetics/member/.
[2] 「サイバネ規格 (ICカード) ‐ 通信用語の基礎知識」. 参照 2020年2月23日. https://www.wdic.org/w/RAIL/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%90%E3%83%8D%E8%A6%8F%E6%A0%BC%20%28IC%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%89%29.
[3] 岩田昭男. 2017. Suicaが世界を制覇する アップルが日本の技術を選んだ理由. 朝日新聞出版.
[4] 高橋恵一, 土井健司と豊嶋以長. 2009. 「地域ICカードの利用実態と市場動向-ガラパゴス化する四国のICカード」. http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00039/200906_no39/pdf/162.pdf.
[5] 「IruCaエリアで交通系ICカードが利用できるようになります!」.2017. 参照 2020年2月22日. http://www.kotoden.co.jp/publichtm/kotoden/new/2017/icagreement/index.html.
[6] 「全国相互利用交通系ICカードのご利用について」. 参照 2020年2月22日. http://www.kotoden.co.jp/publichtm/iruca/10cards/index.html.
[7] 「ICOCAガイド | JR四国」. 日付なし. 参照 2020年2月22日. http://www.jr-shikoku.co.jp/icoca/icoca03-area.html.
[8] 「高知の交通ICカード「ですか」10万枚超 全国共通化は困難|高知新聞」. 2016. 2016年9月17日. https://web.archive.org/web/20160917114600/https://www.kochinews.co.jp/article/49829/.
[9] ず@沖縄. 2018. 「『日本鉄道サイバネティクス協議会』の『多額の年会費』って何?」. ず@沖縄. 2018年8月11日. https://www.zukeran.org/shin/d/2018/11/08/jrea/.
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