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寿司と洋菓子と私

 今日は両親に会いに一人で実家に帰っていた。姉からの情報で、母から電話が有り父に初期段階の痴呆の疑いがあると医師に言われたと聞いたため、適当な理由をつけて訪問することにしたのだ。

 父は元エンジニア、母は元英語教師。共に国立大学を出た聡明な両親の子供として生まれたおれと姉は幼少から大層厳しく育てられた。英才教育とかではないのだが、躾の点においては市内一厳しかったのではあるまいか。遊びたい盛りにかなりの不自由さはあったし、逆らえる空気ではなかった。それは大人になって自立した今でも尾を引いており、理屈では未だに勝てる気がしない。それでもグレずに中くらいの大学を中くらいの成績で出て中くらいの会社に入って中くらいの仕事をしているのだから、まあ期待には応えたほうかなと思っている。

 実家に着くと、父母揃って出迎えてくれた。久し振りに会うと妙に気を遣ってしまう。三者面談のよう。たわいもない世間話をして、昼は豪華に角上魚類の寿司を食べた。食後はスマホの使い方を教え、仕事の話をした。父母からは専ら健康の話と、本家として今後の墓の取り扱いについて、仏壇はどうするだの、布団からベッドにするためにリフォームしたいだの、簡単には決めきれない話ばかりをされた。何も決まらなかったし何も進まなかったが、両親はなぜか嬉しそうだった。しばらく会っていない息子が帰って来て話が出来たからだろうか。そうであればいい。帰りに近所の洋菓子店に寄って山ほどケーキを買って渡してくれた。感染予防で遠慮しているが、本当は孫たちに会いたいんだろうな。年金暮らしなのにこんなに散財して大丈夫なんだろうか。そんな心配しか出てこない自分が恥ずかしかった。

 帰宅後姉と連絡を取り、とりあえず父の様子に変わったことは無かったこと、コンピューターやスマホには相当疎くなっているが年相応なリアクションであったことを告げた。父母がずっと一緒に居たので母から詳しい事情を訊くことは出来なかったのだ。今後は何かあれば個別に連絡をもらうか、時々見にいくようにするしかない。同居や介護といった状態はまだ考えたくはない。考えたくはないのだが、咄嗟にどうするか考えなくて良いためにも今のうちに考えておかねばならない。そういう話をした。寿司を食べたことは言わなかった。

 ところで小学生の姪が発熱して妖精さんになったと聞いた。幸い熱は一日のみで、その後ケロッとして遊んでいるそうな。まだ終わらないのかという落胆と共に、どうせ通過儀礼ならさっさとかかってしまいたいとも思う。正体不明の疫病が既知のものとなった今、むやみに怖がっている暇などないのだ。