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ブックレビュー「日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション」

以前にも触れたようにDE&I(”Diversity, Equity and Inclusion)という領域はまだまだ世界的にも開拓途中の分野なので、その進展情報について都度Updateが必要な分野だと認識している。

そもそも20年前だとDiversityと言っていたのが、D&Iになり今やDE&Iになっているのがその証左と言えるだろう。

5年ほど前にも本書の主題であるマイクロアグレッションという言葉はあったが、まだそれほど日本ではポピュラーでは無かったと記憶している。当時は無意識バイアスの方が主流で、かろうじてMicrosoftがマイクロアグレッションについてのオンラインレッスンを公開していた。

その後、無意識のバイアスについての認知度が上がったことから、今度はマイクロアグレッションが日本でも注目されるようになってきたようだ。

今回本書を読んでの感想は、私自身が認識しているマイクロアグレッションのニュアンスはまだまだ甘いな、というものだ。

例えばこういったYouTubeを見ると、表面的にマイクロアグレッションらしきものを知ることはできる、とは思う。

DE&Iの用語で言うと、アンコンシャスバイアスも同様だが、マイクロアグレッションなど日本語になりきれないカタカナ用語は、その本来持つ意味合いを日本人が理解するにはまずハードルが高い。元々の英語の言葉をしっかり理解していないからだ。

まずAggressionそのものが強い意味合いをもっていることを理解する必要がある。例えばOxford DictionaryによるとAggressionとは以下の通りだ。

feelings of anger or antipathy resulting in hostile or violent behaviour; readiness to attack or confront. (Google翻訳による翻訳は「敵対的または暴力的な行動につながる怒りや反感の感情、攻撃または対決する準備」)

出典:Oxford Language

そのAggressionの前にMicroがついていることで、つい頭を掻く程度の「うっかりとした失敗」と勘違いしてしまいがちになる。先のYouTubeを見て、そういう認識を持つ人も多いのではないか。

しかし本書に書かれているマイクロアグレッションには長い歴史に培われたアグレッションの蓄積とそれに対するイラつきがいかに根っ子にはびこっていて重いかが理解できる。

「うっかりとした失敗」では許されない範囲のものが大半だ。むしろこのマイクロは「無意識」と訳すのが適切で、さらに「無意識」だからと言ってその言動の責任から免除されるようなものではない、と捉えた方が良いのだろう。

本書の著者は人種、ジェンダー、性的指向に対するマイクロアグレッションをさらに三つのカテゴリー、マイクロアサルト、マイクロインサルト、マイクロインバリデーションに分類することを提案している。例えば人種的マイクロアグレッションを例に考えると、

マイクロインサルト:「無礼で気遣いのないコミュニケーション、人種的出自や文化の価値を貶める」(たいてい無意識)
マイクロアサルト:「人種に関して明示的な軽蔑を含み、特定個人に狙いを定めて暴力的な言動をおこなったり、攻撃的な環境をつくる。蔑称で呼ぶ、避ける、差別目的の行為」(たいてい意識的)
マイクロインバリデーション:「有色人種の心理状態や考え方、感情、経験を排除、否定、無化」(たいてい無意識)をいう。

出典:「日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション」

これらのうち、意識的なマイクロアサルトは論外として、無意識的なマイクロインサルトやマイクロインバリデーションは例えば、次のような形で表出する。

・知的能力を出自に帰する(知的レベルを人種で格付け)
・二級市民扱いする(劣った集団として扱う)
・異文化の価値観やコミュニケーションスタイルを病的なものとして扱う(有色人種の価値観等を異常として扱う)
・犯罪者もしくは犯罪者予備軍と決めてかかる(人種をもとに犯罪者や危ないもの扱い)
・よそ者扱いする(外国人あつかい)
・カラーブラインド(肌の色や人種の存在を見てみぬふりをする)
・能力主義信仰(人生の成功において人種はそれほど影響しないという言明)
・個人がもつレイシズムの否認

出典:「日常生活に埋め込まれたマイクロアグレッション」

最近ある企業でDE&Iに関するワークショップをやった際も、リーダー層から能力主義信仰的な発言が見られた。能力主義はビジネス界では鉄壁な原理原則のように思われがちだが、貧富差による教育機会の平等は明らかであり、そもそものスタート地点が違うことを無視できない、という認識が必要だ。

本書の翻訳は「マイクロアグレッション研究会」というグループが担当している。

本書の「訳者あとがき」によると、翻訳者のうち数名は在日コリアンのメンタルサポートを目的として「在日コリアンカウンセリング&コミュニティセンター(ZAC)」を設立し、カウンセリング業務と並行し日本におけるマイクロアグレッションの調査・研究活動を行っている、とある。

そして、彼らはマイクロアグレッションは日本においても時間や場所を選ばず、四六時中体験されている、という。

女性、在日外国人、外国人観光客、LGBTQ+へのマイクロアグレッションは今すぐにでも我々は経験している。そして今後日本人就業者の労働人口に占める割合が減ってくることが予想されており、職場におけるマイクロアグレッションは避けては通れない問題になるだろう。

まずは我々全員がバイアスがあることを認識し、その上で自分の言動に気をつけて、修正していく、さらにはマジョリティという立場で少数グループへの支援を積極的に行っていくことが求めらていることを肝に銘じておきたい。


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