身軽な暮らしを支える「板」が欲しい
はじめまして!
私、東京の小さな部屋でコンパクトな暮らしを楽しみつつ、生活にまつわる製品を考案しています。うえだと申します。
最近、とってもシンプルな本棚を発売しました。
大小4枚の板で構成された本棚で
壁に立てかけることで成り立つ仕組み
名前を「Minimal Book Shelf」といいます。
棚板は、本体の後からドライバー1本で固定することができ、女性でも簡単に組み立てる事ができます
我ながら本当に素敵な製品になったな〜と思っていまして、せっかくだからこの本棚を考案した経緯と、商品化までの道のりをnoteに残しておこうと思います!
コレを解決するモノがほしい
2020年の夏に「失敗しても取り返しがつく年齢だし思い切ってフリーで活動してみよう。」と、半年分の生活費を持って、会社を辞めました。
見切り発車でお金に全く余裕がなかったので、家賃のかからない物件を血眼で探しまして、たどり着いたのが家賃3万円・5畳1Rの今のお家です。
そりゃこんな間取りなので、気を抜くとすぐモノで埋まっちゃうんですね。
なので持ち物の数は相当吟味して、「これは僕の暮らしに必要や!」と堂々と説明できるモノだけを持つようにしています。
で、この1年間
モノの取捨選択を繰り返して分かったんですが
どうやら僕の暮らしには、この3つが必要で
それが
ネット環境・灯り・紙の本
ネット環境は言わずもがな
霜降り明星のオールナイトニッポンと、Amazonプライムのアニメが僕の生きがいなので、Wifiがないと死んじゃう。
そして灯り
明るい空間が苦手なので、夜はなるべく部屋を暗くしたい。そうすると、テーブルランプやランタンなどの持ち運べる灯りが必須…。
あとは紙の本
理由は、情報にログインなしでアクセスできる。
アイデアの参考になる雑誌がネットにない。
など、色々ありますが
結局のところ
な ら ん で る 姿 が か わ い い
ので、絶対に必要なんですね。
ただ、そうなるとどうしても
狭い我が家では、本の置き場に困るし、照明やWiFiのコード類が常にゴチャゴチャしていて…
理想であるコンパクトで軽やかな暮らしが出来ていないな〜とモヤモヤしていました。
「ただの板」でいいのかも
本やコード類が散乱している状態がなんとなく気に入らない。けど、5畳の部屋に圧迫感の出そうな収納棚を置く勇気はない。
そんな思考の堂々巡りから抜け出すきっかけになったのが、スキーマ建築計画さんの「#まかない家具展」でした
建築現場では、道具を置く什器とか作業台を、大工さんがそこにある材で自分達用に作っちゃうらしくて
スキーマさんはその仮設の造作物を「まかない家具」と呼んで展示していました。
もともと家具メーカーで設計をやっていた事もあって、このジャンルを知った時「家具ってこんなに自由なものなんや…」と、バールのようなもので頭を殴打されたくらい衝撃で
これを家具って言うなら、
じゃあもう、板を壁に立てかけるだけで家具になるんじゃないの…笑
とか思ってみたりして
…
………
…ん?
あれ、でも、コード類のゴチャゴチャなんて、板で隠しちゃえばいいのか…
そこにポストカードとかポスターとか貼ってもオシャレかも…
というか、、
それに棚板をつけたら
本が置けるでねえか…
うん、
本は必ずしも水平面に置く必要はないし、
むしろ若干傾斜しているほうが、低い位置から背表紙が見やすいし、
なにより…
狭い部屋に置いてもスッキリ見えそう!!!!
とりあえずハンズで板買ってこよう
…
…
そういった経緯で
・狭い部屋でも軽やかに過ごしたい
・配線類を隠す存在が欲しい
・こだわりの本が活きる居場所が欲しい
という、めちゃくちゃ個人的なワガママを叶える
「壁に立てかける」まかない家具が誕生したのでした。
(うむ、良い… めっちゃいいモノができた…)
思い切って、商品化してみよう
ここの部分は
SNSで「この本棚欲しいです!」と言っていただける事が増えたので、じゃあ商品化に向けて本気で動いてみよう!と思いました。という、個人的なお話なので、全然読み飛ばしてもらっても大丈夫です!
一応、その経緯を少し詳しく書くと
2021年の8月頃、実家に帰省したタイミングで
流行りの新型ウイルスに感染してしまって
それ自体は無事、全然軽症で済んだのですが、それから体を壊してしまい、大体5ヶ月ほど、ほとんど部屋から出れない状態になってしまいました。
なんでかめちゃくちゃ体が重い・すぐに息が切れる感じで…(このあたり詳しく書くと、マジで超長くなるので割愛しますが)
親に洗面器を持って来てもらって、ベッドで歯を磨くような生活が続いてて(あ、今は回復して超元気です!)
このままでは、体より先に心が死んでしまう…何か少しでも世の中とつながれる事をしなければ…と
1年放置していた(当時40人ほどの知り合いしか繋がっていなかった)
Twitterを再開しました。
もともと、自分の部屋を写真に残すのが好きだったので、Googleドライブに残ってた過去の部屋の様子を、暇つぶしに毎日投稿していました。(300枚ぐらい撮ってた…)
すると、徐々にいろんな人から反応を頂ける様になってきて、嬉しいコメントを見る機会が多くなりました。
「この本棚どこで買ったんですか?」
「あの棚のメーカーを教えてください」
「この本棚理想すぎて草」
「詳細キボンヌ」
etc…
あれ?
僕が個人的に欲しくて作った「まかない家具」なのに、こういう棚が欲しい!って人が世の中に結構いるぞ…
じゃあ、思い切ってこの棚を
自己満足のDIYじゃなくって
誰かに届ける新製品としてきちんと整えてみよう!!
そう思ったことが
「Minimal Book Shelf」誕生のきっかけになったのでした。
カタチを考えるぞ
「板を立てかけるまかない家具」は、僕の個人的なワガママを解決する為の、あくまで「手段」でしかなく、作りも超テキトー。木片に大きいネジを打ち込んで、電動工具で無理やり固定しただけの物だったので
買ってくれた人が無理なく組み立てられて
ある程度、強度が約束された構成に考え直す必要がありました。
(組み立て簡単で、分解もできるノックダウン式の方がいいかな…)
(となると、鬼目ナットを仕込んでボルト固定して…いや、L字に曲げた金属の板を差し込んで、棚の下から小さいボルトで補強して)
ブツブツ…
1ヶ月間ほど
なんとか「商品」として、成立する構造をあれこれ考えて、考え過ぎていた頃
お世話になっているデザイナーのAさんに、棚についてお話しする機会がありました。
うえだ
「棚の構造なんですけど…やっぱりL字金物で補強した方がいいですかね…」
Aさん
「う〜ん…、はたして金属パーツが必須なのかな… 」
「IKEAの家具とかも、下穴だけ空いた状態でビスを同封して売られてるわけだし…。裏からネギで固定するだけで十分強度出ると思うんだけどな…」
うえだ
「ネギですか…」
Aさん
「あ、まちがえた!ネジ!!ネギじゃなくてネジだ!アハハハハ笑」
うえだ
「wwwwww」
…
でも確かに、強度や構造のことを考え過ぎてて、この本棚の目的を見失っておったかも…。
欲しかったのは
むちゃくちゃシンプルで場所を取らない本棚
ではないか
部品増やしてどうすんの…
グダグダ悩んでしまいましたが、この商品で実現したいことは何か。そこに立ち返ると何をするべきかハッキリして
いさぎよく
部材は4枚の板とネジだけ、手持ちのドライバーで組み立てられるミニマルな構成にしよう。と舵を切ることができました。
で、とりあえず一番シンプルな
裏からネジで固定する方法を試してみたところ
めちゃくちゃしっかり固定できました
(ネジってすごいのね…)
ただ、板の裏からビスを打つ時に、棚板の位置を合わせるのが難しい…。 あらかじめ下穴を空けておくにしても、ガイド的な何かがあった方がいいのかも?
など思いつつ、Twitterにこの事を投稿したところ
家具職人さんからこんなリプライが
……… なるほど!!
こういうことか…
たしかに、コレなら棚板にかかる荷重を、本体で受け止めることにもなるから、断然強度が増す。
しかも、棚板を取り付ける時の上下方向のズレ防止(ガイド)にもなる…
天才です。
その節はアドバイスいただき本当にありがとうございました!
ところで
板の裏から固定する方法を何回かやってみたて気づいたんですが、本体と棚の幅がぴったり同じだと、どうしてもたまに1ミリ弱ズレてしまうんです。
僕の加工技術が足りないってのもありますが
工場で加工するにしても、複数台制作する場合はどうしても精度のバラつきが出てしまいます
なので、棚板の幅は意図的に本体より小さめに設定しています。
もう一つ、試作を使ってて気づいたのが
この棚、部屋の角に置いて使うのも良くて
そうすると、単純な長方形の板だと壁紙を傷つけてしまうみたいなんです。
DIYの荒っぽい感じが良いと思って、板をそのまま使ってみてたけど、このままでは壁に優しくないので
試しに板の角を丸くしてみました。
… アレ!?かわいいぞ?
なんか「ただの素材」から「製品」になった感じがする!
壁を守る、やさしいカタチでとても良いじゃないですか!
角は丸くする方向でいこう。
棚の奥行きは、上段と中段が、文庫本がゆったり収まる120mm。下段がA5判がぴったりおさまる150mmにしました。
上段と中段は、本をディスプレイする感覚で使いたくて、棚の奥行きは最低限必要な寸法で。スッキリ見せたい。
下段は、どちらかといえば本を収納する場所として考えています。
(あくまで僕が使うとしたら。ですが…)
なので下段の棚は、多少強度がいるのでネジ穴を3箇所にしました。
おそらく、そこまでシビアに固定しなくてもいいかもしれないけど、同じカタチで、寸法違いの棚板があると付け間違える可能性があるなと。
(間違って150mmの棚を上段に付けちゃったり…)
「これは下段に付ける板ですよ」という意味も含めて、このようなカタチになったのでした。
…
……
そんなこんなで
完成したカタチがコチラ!
ここからは、この図面を持って
山形県の工場に制作して頂きます!
木材加工のスペシャリスト「佐藤工芸さん」
「Minimal Book Shelf」の制作は
山形県天童市にある、佐藤工芸さんにお願いしています。
複雑な板の加工が得意で、なにより一つ一つの仕事が丁寧!信頼できる国内の工場さんといえば、僕の中では佐藤工芸さん一択でした。
「Minimal Book Shelf」は、1825mm×915mmの板をNCルーターという大きな機械で切り出して作られています。
切り出した後の部材はカドが出ていて、触ると木片が刺さったりして危ないんですね。
その為、本棚として使う時に手を怪我しないように、部材の角をわずかにヤスリがけする作業があります。
製品になった時、人の手が触れる所にささくれが残っていないか。職人さんの目で確認しながら丁寧に対応いただいています。
本当、いつもありがとうございます…。
感謝感謝感謝です…
そうしていよいよ、完成した部材がコチラになります。
キレイ〜〜〜〜っっっっ!!!!!
ほんと、いつも丁寧なお仕事さすがです…!
さっそく組み立ててみます!
後ろからドライバーでネジを絞めて…
下の段も同じ要領でネジ止めして…
本を並べましたら
はい!!!めっちゃかわいい!!
紆余曲折ありましたが
無事、みなさんの元へお届けできるモノに仕上がったんじゃないかと思います!
よかったよかった…
…
…
…
発売から1年が経ち、たくさんのお家でMinimal Book Shelfを見かけるようになりました。
構造も見た目もシンプルな、言ってしまえば「ただの板」なので、絵を飾る感覚で部屋のどこでも置けちゃうのが良いですよね。うん。
僕はというと、今は新居の寝室で使っています。
3段のサイドボードとしてめっちゃいいんですよねこれ。
兎にも角にも、買っていただいたみなさま本当にありがとうございます…!!
(いつかMinimalBookShelfユーザーみんなでご飯行きたい)
ちなみに
「Minimal Book Shelf」は受注生産とさせて頂いておりまして。今は在庫管理の体制を整えて再販の準備をしているところです!
再販したらお迎えしてぇな!と思っていただけましたら、ストアの「再入荷お知らせ」のボタンをポチっとしていただけると非常に励みになります。