きらきらが消えてしまうその前に
もう10年も前の話だ。
2010年4月、21歳の私は、大きな赤いスーツケースとヴァイオリンケースを抱えて、長旅の疲れも忘れてしまうほど緊張しながら、見知らぬ駅のホームに1人ぽつんと立っていた。
スペイン北部にある、レオンという小さな町。
留学という名の人生で一番長い休みを、私はその小さな町で過ごした。
*
もうすぐ眠りそうな娘の隣で、うとうととまどろみながら、あの町での日々を思い出そうとする。
けれど、少しずつ、でも確実に記憶の輪郭はぼやけていて、思い出せない部分が増えていく。
歳月は容赦しないのだ。
*
だから私は、あの町で過ごした『人生で一番長い休み』の思い出を言葉にしたくなった。
10年経ってからでも、きっと遅くはない。
大切な記憶の、きらきらが消えてしまうその前に、自分の言葉でそっとすくい上げよう。
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