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鑑賞者によって緩む、空間の芸術 - 「池内晶子 あるいは、地のちからをあつめて」

コロナ前はいつでも行けた美術館巡りは、今はちょっと勢いをつけないといけなくなってしまいました。コロナ自体の不安というのもありますが、多くは外に出る体力自体が減ってきていることによるものです。
でも、仕事で前のめりになる気持ちを整えるためには、やはり美術館は大切な場所。今年は、サイクルを作って定期的に行くぞ、ということで。
2021年の展覧会はじめとして、府中市美術館に行ってきました。

私と府中市美術館

23区外の美術館では、かなり伺った回数が多い美術館です。最初に見たのは大巻伸嗣さんが出ていた2010年の「アートサイト府中2010 いきるちから」でした。
東府中からも府中からも適度な距離にあるので、バスに乗ったり、歩いたり、自然に気持ちが整っていきます。隣の大きな公園もいいですね。
日本画も、洋画も、現代アートも、他ではできない展覧会が多い印象です。

「池内晶子 あるいは、地のちからをあつめて」

池内さんは、絹糸を使って、繊細な、ゆっくりと流れる空気が見える作品を作ります。MOTアニュアルだったり、DOMANIだったり、たくさんの作家が集まるときの、一人ひとり頭の中を切り替えて見ていく展覧会の中でも、池内さんの作品の周りは、なんとなく時間の流れが違って見えます。
今回は美術館での初個展ということで、池内さんの作品だけを贅沢に見られる展覧会です。

自分に向き合う贅沢な時間

ドローイングを除くと、大きな3部屋に一点ずつ作品が作られています。絹糸は非常に繊細で、目を凝らさないと見えません。また、空調だったり、人の往来の風で、自然に揺れています。
じっと見ていると、必然的に集中することになります。そうすると、自然と自分の中に向き合うような、洗われるような気持ちになるんです。
本来美術館ってそうあるべきだと思っているのですが、どうしても都心の美術館だと人が多かったり、出た瞬間の雑踏で現実に戻されたりするのですが、ここはそんな心配はありません。しっかり自分だけの贅沢な時間を過ごすことができます。

赤い糸

赤い糸を考えるとき、どうしても塩田千春さんを連想します。

自分に向き合える作品としては同じなのですが、塩田さんは暴力的なほどの空間ごと叩きつけてくる感じがあります。扉を開けたら別世界、というような。
一方、池内さんは優しく、その空間をより際立たせる作品です。もちろん触れませんが、近づくとゆらゆら溶けてしまいそうな。方角や土地も併せて、作品としているからかもしれません。

贅沢な悩み

ただやっぱり、もう少し作品数を見たかったかなと思います。あとは、椅子があってゆっくり座れたらよかったなと、贅沢な悩みですね。

鑑賞者がいることで緩む

作家さんのインタビューで、鑑賞者の呼気の湿気で絹糸が緩み、いなくなるとまた緊張する、というのがありました。その表現が、人とは逆なのが不思議です。実際に、気持ちは張り詰めますが、体は湿気で緩むのかもしれませんね。
多くの人と会うことは、私にとっては張り詰めることですが、気持ちが緩む気の許せる相手が、より多くなればいいなと思います。

展覧会概要

2月末まで、府中駅からは少し遠いですが、その間も楽しめるので、会期中にぜひ。

会場:府中市美術館
会期:2021年12月18日(土)〜2022年2月27日(日)



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