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豊岡演劇祭2023 ぱぷりか『柔らかく揺れる』/Q『弱法師』

《Documenting》20230916
豊岡演劇祭2023
ぱぷりか『柔らかく揺れる』
於:豊岡市民プラザ
(2023年9月16日11時の回)
Q『弱法師』
於:城崎国際アートセンター
(2023年9月16日14時の回)

 2019年からスタートした豊岡演劇祭に初参加。豊岡は「東京からもっとも時間のかかる土地」と言われているそうで、前日の金曜日に電車で6時間かけて前のり。
 最初に観劇したのはぱぷりか『柔らかく揺れる』。ノゾエ征爾のはえぎわや青年団の無鄰館で学んだという福名理穂の作・演出作品で、昨年の第66回岸田国士戯曲賞を受賞。私は初演を観ていないが、今回の再演にあたってキャストを全員代えたという。
 形式的には、広島の郊外に住む一家の話を広島弁のセリフで描くという現代口語演劇。リアリティあるセリフとこだわりの見える演出、そして多くのプロットがギュッと凝縮された力作だった。
 この家では、抑圧的な父親が川で溺死して以降、タガが外れたようにそれぞれの抱える問題や悩みが表面化している。シングルマザー、アルコール依存、パチンコ中毒、不妊、同性愛。川=彼岸を望みながら、一家の人々が悩み生きるその時間を描く。ラストに解決があるわけではないところも青年団っぽい。ただ、平田オリザの戯曲が、問題となるテーマが浮き彫りになる過程そのものをドラマとして見せるのに対して、本作では父親の死の真相や登場人物たちの間に起きる摩擦がエンジンとなって物語が進んでいく。
 次に観たのは今年の世界演劇祭で初演されたQの新作『弱法師』。盲目となった捨て子の登場する能の『弱法師』を題材に、文楽の形式を借りて作ったとのことだが、市原佐都子作品らしく攻撃的なまでに気色悪くて突き抜けていた。
 まず、本作は人間に見立てた人形の出てくる人形劇ではなく、人形そのものの劇である。工事現場で棒を振るロボット(安全太郎)やオナホールのヴァギナを持つダッチワイフたちは、壊れて捨てられても死ぬことができず、他の人形のパーツを移植して怪物的な姿になったりもする。舞台上では虐待や不具、近親相姦、自死といった目を背けたくなるようなできごとが次々と起こる。肌色のタイツを着て顔をさらした人形遣いや、フランス人形のような格好をして語りを一手に引き受ける女太夫、琵琶と魔改造した楽器で不穏なムードを作り出す奏者が、それぞれ八面六臂の活躍でスペクタクルを繰り広げる。人形を操る役者の姿はすぐに気にならなくなるが、彼らを映像で見せるシーンでは、人形の奥の人間の顔が急に存在感を伴ってせり出してきた。おそらく、我々の言語記述的な認識システムにおいては、生身の役者と人形を見ている限りはそれを統合されたものとして認識しているのだが、唐突に平面の写像を見るとその認識システムが一瞬揺らぐということではないか。
 そんな中でも、「感情を生み出す内蔵を持たない人間」だとか、「他人のパーツを借りて自由になること」というような、社会でゾンビ的に生きる現実の我々をちくりと批判する言葉が飛び出す。ありえない生物を描きながらもどこかリアルな人間に通じているという不思議な感触は、とてもQらしかった。
 さて、今日から2日間は城崎温泉のゲストハウスに投宿。2か月前の時点で演劇祭開催中の週末はどこのホテルも宿も満室だったからだが、よくある一軒家を改造したしょうもないゲストハウスなのに昨日泊まった快適なビジホより料金が高くて損をした気分。せめてイモリでも見かければ志賀直哉の『城の崎にて』の雰囲気を味わえるのだが、街なかを歩いていると、なぜか小さなカニやヤドカリを頻繁に見かけた。温泉と関係あるの?

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