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道恋6 妙義山道路

上毛三山の一角として、群馬県人の心の拠り所ともなっている山のひとつが、この妙義山である。妙義山は、妙義山塊群とでも言うべき、とても広範な領域を持つ山であって、その中でも、今回取り上げる群馬県道196号こと妙義山道路は、表妙義と呼ばれる北側の妙義山塊の一部を経由するコースとなっている。そのルートは、金洞山の麓の中之嶽神社から、金鶏山の筆頭岩をぐるり横に見ながら、白雲山の麓の妙義神社まで、表妙義の山々を駆け抜けるものである。群馬県をその始まりの舞台としている漫画「頭文字D」においても、序盤に登場する妙義ナイトキッズというチームのホームコースとなっていて、「妙義の谷は深い」という作中の人物の台詞が人気のフレーズになるほど、個性の強い景観をその特徴としている。

妙義 金洞山

妙義山道路

眼前にそびえ立つ巍巍とした岩稜の険しいさまが、妙義山塊の谷の深さを連想させ、ここを通る妙義山道路もまた、やはりどこか薄暗さのつきまとうような趣きのあるルートである。たまたま走行した日が、薄曇りや夕霞の日に重なってしまったがために、一層そのように感じているだけなのかもしれないが、しかし、その薄暗さが逆に、妙義エリアの魅力を際立たせる背景効果となっている。背後から差し込んでくる薄明りに照らし出されて浮かび上がる、妙義の峰々の奇抜なフォルムは、日本の山とは思えないような奇想に富み、また、峻厳極まりない。道の合間合間に見え隠れする妙義の山々のシルエットを満喫できるルートであり、どちらかと言えば、道が主役というよりも、山の方が主役のように思えてくるルートでもある。妙義神社と中之嶽神社というふたつの趣向の面白い神社の間をつなぐルートとなっていて、観光地として広い駐車場や売店なども存在するため、それなりの物見遊山気分を味わうことも出来るだろう。「頭文字D」のバトルステージとなっているコースも、このふたつの神社にはさまれた区間であり、天気のよい晴れた日などは割りと混雑するルートなのかもしれない。

妙義 白雲山

妙義 妙義神社

路面状況はよくもなく悪くもなくといった印象で、素直なコーナーの多い印象である。S字のうねり、蛇行の連続によって構成されている印象で、ヘアピンなどのきつめのコーナーは、見た目の硬派な雰囲気に反して、逆に少ない印象だ。「頭文字D」のバトルステージとしては序盤のコースでもあるだけに、わざわざ難易度もやや易しめの設定となっているのだろうか、その気になって来てみると、若干の肩透かしを食らうかもしれないコース設定ともなっている。下仁田町側に現れる、地図上に正方形を描くように曲がっていくコーナーがハイライトといった感じで、特徴的なキャラクター性をもったコーナーという箇所も少ない。勾配もさほどきつくも感じられず、曲率の似たようなコーナーが続くので、榛名山道路のように減速ポイントがシビアだったり、赤城道路のように次のコーナーを予測しながら曲がるといった必要性もあまりないように感じられる。道の中央には少しだけ、ドリフト防止のキャッツアイがあって、路面には、速度抑制のために設けられた若干のでこぼこ塗装があるものの、通常の運転をしていれば、そこまで煩わしい思いに駆られることもなさそうである。

妙義 中之嶽神社

妙義 中之嶽轟岩

妙義神社のことはよく知らないままに、ここを訪れたのだが、想像以上の立派な境内に圧倒されてしまっていた。高く上ってゆく男坂165段の石段の先に権現造りの本殿があり、本殿の背後に天狗社という謎めいた仕掛けが用意されている。境内脇にひっそりとたたずむ波己曽社という摂末社もまた、謎めいていて面白い。中之嶽神社はと言えば、遠くからみると隣接する大國神社の巨大なだいこく様像が目立つので、どこか滑稽な印象に思えてしまうが、大國神社を脇に見て石段を登っていくと、中之嶽神社の轟岩の姿が見えるに及んで滑稽さは消え果て、その神妙さに圧倒されるようになる。榛名神社本殿背後の御姿岩と、系統的には似ている信仰があったのだろう。妙義神社・中之嶽神社の両社とも、もとは妙義の土着神・波己曽/波胡曽(はこそ)神を祭る磐座が、その起源ということであるが、波己曽神が一体どのようなものであったのか、現時点では私にはわからない。ハコソ神もまた、奥羽のアラハバキ神や諏訪のミシャグジ神などとともに、古代史の謎を秘めたまま、上書きされた土着神なのかと思うと、まったく興味が尽きることがない。妙義山道路という道は、その道自体の試走とは、まったく別の愉しみも多いコースとなっているようである。

妙義 金鶏山

(↑ 金鶏山 左端が筆頭岩)






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