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暮れのご挨拶&2020年よく聴いたもの

今年仲良くしてくださった方、気にかけてくださった方、ひとつでも私の記事を読んでくれた方、ありがとうございました。

年明け早々転職し、京都に引っ越し、ライブに行きまくれると思ったらコロナで全部飛び、そのうえでアンテナ編集部から抜け…と振り返れば身辺いろいろありましたが、一年が長すぎて、また社会政治の面で気を揉むことが多すぎて、あまり自分のことでバタバタしていた気がしないのが不思議です。いや、前半は割といっぱいいっぱいだったかもしれない……ご迷惑をおかけした気がする……。

相変わらず超スローペースですが例年よりは多めに原稿が出せました。いやステイホームのおかげではないんですけどね。なにせ去年は半分無職だったのにカラキシでしたので……。物理的な時間がどんだけあっても精神衛生のほうが大事っぽいです。転職がうまくいったこともあって、世の中は散々ですが個人的には去年よりマシだったかもしれません。

運良くパンデミック直前に食い扶持が得られたのもあって、一律給付の10万円はほとんどライブハウスやミニシアターへの寄付に消えていきました。正直躁じみてたとはちょっと思う。でも実際問題「金は言葉」……ちょうど昨年末、平民金子氏がtofubeats氏安田謙一氏との鼎談で仰っていた金言を、どねボタンを押すたび噛み締めていた次第です(当時のご本人はそんなつもりじゃなかったでしょうが)。もちろん金が全てではないけど、“言葉としての金”の重みをこれほど痛感した年がかつてあっただろうか。いやない。

とまれ2021年はもうちょっと、手癖に頼らなくても説得力が出せるように勉強らしい勉強をしていくというのが抱負です。何卒よろしくお願いします。
以下は今年よく聴いた印象深い3枚です。

ポニーのヒサミツ『Pのミューザック』

ポール・マッカートニーやそのフォロワー達の宅録作をモチーフにしたアルバム。寂しくてあたたかい屋根裏部屋みたいな曲ばかり。と言いつつおなじみ谷口雄氏をはじめゲスト・ミュージシャンの参加は結構多くて、全く風が通っていないわけじゃない。なのにカラフルでにぎやかな音像からはちょうどよく距離をとっている、そういうところが素晴らしく肌になじんでくれる。緊急事態宣言中、週の半分以上がテレワークだったとき(今は週一)は仕事をしながらレコードをわりとたくさん聴くことができて、そういう日々の良いお供になってくれたアルバムだった。これからも聴きかえすたびその時期のことを思い出す思う。

あと、本作の参照点のひとつで、60〜70年代の面々で私が特段愛してやまないエミット・ローズが今年亡くなってしまったのも大きい。岡田拓郎氏が彼の曲を『Morning Sun』関連プレイリストに入れていたのははじめ意外だったけど、こちらの関係で聴き込む過程でなんとなく合点がいったし、彼がどういう音楽家であるかをきちんと知ることができました(脱線)。

冥丁『古風』

民謡や戦前邦画の音声(たぶん)がこういう形でサンプリングの題材になることを初めて知った。TURNのベスト記事でも触れられているのだけど、おそらくここに描かれているのは、表の“クール”な日本観には出てこない湿った抑圧に曝されてきた人たち。たとえば私は大学で受けた民俗学の授業が大好きだったけど、ムラ社会の祭祀や習慣が途絶えていく過程は、人々(特に女性)が自由に生きる権利を獲得していく過程とシンクロしているから、どんなに美しい祭祀でも喪失をピュアに悲しむことができない。失われていく(べきかもしれない)ものにノスタルジーを見出してしまう葛藤がこのアルバムに込められている……ような気がして深く感じ入った。

クララズ『台風18号』

某所の企画で今年の曲リストを出しているんですが、そこに入れるか最後まで悩んで結局入れられなかった曲。彼女や田中ヤコブ氏の曲は決して明示的に社会を歌いこんではいないけれど、それでも今の私たちを取り巻く世の中のままならなさと固く結びついているところがたまらない。それでこそポップネスであり歌であり。彼女のライブはかなり前にハードレインで一度見たきりで、結構頻繁に関西に来てくださってるのになんだかんだ見れていないのが悔しくてならない。特に去年から今年にかけての彼女はひと耳惚れを地でいく素晴らしい歌い手です。

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曲単位で言えば、スカート「駆ける」や曽我部恵一「永久ミント機関」も心の支えによく聴いていました。旧作ではくるり『魂のゆくえ』、Bill Wells『Lamondale』ゆうき『あたえられたもの』、あとはアラン・トゥーサンやジェイムス・テイラーなんかをわりとよく聴いていた気がします。『Lamondale』みたいなアルバムが私の知らないところにまだまだあるんだろうなと思うあたり、テニスコーツ周辺はおそろしいです。

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