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やりたいこともまた仮説である

どうすればやりたいことが見つかるだろうか。
選択が間違えば、無駄にならないか。

これは私が悩み続けてきた問いです。

やりたいことを見つけようという風潮がありますが、若いうちはやりたいことなんてわからなくて当然です。大人になってもよくわかりません。

私は大学で理系から文系に転じて、仕事も経営コンサル、途上国開発、ラーメン屋、大学教員と、何度も変えています。

周りからは全く違う畑を転々としているように見えますが、自分の中では問題意識にもとづき、やるべきことを模索し、計画的・主体的に選択し続けた結果であり、すべてが連続しています。

私が何かを成し遂げたわけではありませんが、あなたが進路選択やキャリア設計に悩まれてここに辿り着いたのであれば、好きなことをひたすらに仕事にし続けられてきた私の経験が少しは役立つかと思います。

やりたいことが見つかったとき、手が届く場所にいるには #1
様々な国と仕事を転々としてきた私の経験をもとに、このテーマを主観的に語ってみます。 


やりたいことを求めて仕事を変え続けた経験から

高校生の頃、特に将来やりたいことがなかった私は進路選択に困りました。他のことより多少は面白そう、くらいの軽い気持ちで宇宙物理学を学べる大学を選びました。宇宙には関心がありましたが、自分の夢や仕事にまでは結びつけて考えていませんでした。

大学3年生になっても特に将来やりたいことなど見つかっていませんでした。物理学はそれなりに面白かったので、そのまま研究者にでもなるのかな、くらいに思っていました。その頃はまだ、自分の人生を自分でデザインするという意思すらなかったように思います。

しかし、4年生になり、研究室に配属され、研究が本格化すると進路選択に疑問と不安が出てきました

私が属していた研究室は、数千億円という超巨大な国際プロジェクトに参画しており、一学生である私でも数十万円の機材を簡単に購入するほど予算が潤沢でした。

当時、風呂なしのオンボロ学生寮に住みながら、アルバイトと奨学金(という名の学生ローン。いまだに返済中)の数万円で毎月の生活をやりくりしていた私には、それはとても贅沢に感じられました。

私は昔、旅行したタイの道端で見た多くの物乞いのことなどを思い出しながら、これだけの予算が世界にあるなら、宇宙誕生の謎の解明よりも、明日の食料にすら困る人たちのために使うべきではないか、と思いました。同時に、私の人生も、もっと直接的に社会に役立てることに使うべきなのではないかという気がしてきました。

しかしまともに社会勉強をしてこなかった理系学生であったため、何が社会に役に立つ仕事であるのかはわかりませんでした。ショウシャ(商社)が証券会社の略であると勘違いするくらいに就職のことなどよくわかっていませんでした。

タイの光景を思い出しながら、安直ですが飢餓や紛争など、世界で一番困っている人たちの問題を解決することを仕事にしてはどうかと考えました。そして文系の大学院で社会のことを勉強することにしました。

将来の仕事を見据えて進路を選択したのはこのときが初めてでした。当時は仮説思考という言葉も知りませんでしたが、振り返ってみると、途上国開発が自分のやりたいことであるという仮説のもと、大学院でそれを検証することに時間を使っていました。

途上国開発の世界には、国際機関や日本の政府、民間企業、NGOなど多様なプレイヤーが存在します。私はそれら全てでインターンやアルバイトを経験し、どこが自分に合うかを確認し続けました。

多くのセミナーやシンポジウム、学会にも積極的に参加しました。その一環で、国際開発の業界から経営コンサルタントに転職された方の講演を聞く機会がありました。その講師は、社会課題の問題解決の方法を学ぶために経営コンサルタントに転職したと話されていました。それから私もコンサルという職に興味が出てきました。コンサルという職に出会ったのは単なる偶然でした。

私はそのまま新卒でコンサル業界に就職しました。修行のためコンサルを選んだというのは一つのかっこいい理由ですが、一社しか内定をいただけなかったという理由もあります。当時は、コンサルタントという立場で社会課題の解決に貢献できそうなら仕事を続ければよいし、違うと感じたらJICAなどに転職すればよいと考えていました。

コンサルの仕事では、意外と国際開発の仕事に関わる機会も多く、面白みは感じていました。しかし国際開発と関係のない仕事をする時間もそれなりにありました。

やはり国際開発を本業とする組織で仕事をしたいと思うようになるのですが、このような感覚は経験しないとわからないものです。社会人として3年たったところでJICAという政府系の職場に転職しました。

JICAではイラクに駐在し、自爆テロが日常茶飯事の世界で、防弾チョッキを着ながらイラクの経済復興に努め、それは大変やりがいのある仕事でした。そして国際開発の仕事をするにつれ、その業界のリーダー的存在である世界銀行で仕事がしたいと思うようになっていきました。目標に向かう途中でまた新たな目標が見つかるものです。

また、企業の途上国進出を支援することを自分の専門としてゆきたいと思っていたので、私自身に途上国での事業経験があった方が企業や途上国政府に対して説得力のある助言をできるようになるだろうと考え、期間限定でベトナムでラーメン屋を開業してみたりしました。

その後も同じようにいろいろな職場を転々としますが、毎回8割くらいは自分のやりたいこととフィットしているが2割はずれているという感覚で、その2割を修正するために仕事を変えることを繰り返しています。


やりたいことは仮説でよい

「やりたいことが特にない」「やりたいことがわからない」というのは多くの方々が持つ感覚です。何かヒントを求めてこの記事に辿り着いた方にお伝えしたいのは、やりたいことは仮説でよい、ということです。

仮説というのは、何が真実かわからないなかで、その時点でもっともたしからしい説です。

まだ経験していないことが自分のやりたいことかなんてわかりません。やってみてはじめて検証ができます。もし少し違うと思えば、その少し違う部分を修正できる仮説を新たに立てて、またやってみればいいのです。

例えばあなたが小説家に興味があったとしたら、「とりあえず」小説家を目指してみてはどうでしょうか。あなたが小説家になれるかわからないし、小説家が自分に合っているのかもわからないし、そもそも本当に小説家になりたいかもわからないという状況であっても、もし他のどんな仕事に比べても小説家に一番興味があるのであれば、「自分の適職は小説家である」と仮説を立ててみるのです。

その仮説が正しく、本当にそのまま小説家としてデビューし、小説を書き続けるかもしれません。あるいは、小説家を目指すプロセスの中で、例えば「自分がやりたかったのは人を感動させることであり、もっと直接人の顔が見える仕事がしたい」、「自分で書くよりも、人が小説を作ることを支援する方が楽しい」、「もっと安定した仕事が必要だ」など様々な理由で職業選択を修正していくことことになるかもしれません。

経験してみて「少し違う」と感じれば、それはやりたいことの輪郭が明確になってきたということです。やりたいことに一歩近づきました。

仮説が間違っていたら

もし仮説が間違っていたらどうなるのか、と不安になるかもしれません。仮でもよいので目標を立て、それに向けて成長していれば、あとで目標を変えてもそれまでの成長は無駄にならないのでご安心ください。

例えば小説家を目指して特訓をした結果、あなたのクリエイティビティや文章力、ネタ集めで培ったリサーチ力、限られた時間の中で大量の資料を作成する力など、いろいろな力が身についているはずです。これらは他の仕事でも活かせます。

私の場合、物理学から国際協力へといわゆる「文転」をしました。物理を勉強する過程で身についた英語の論文を読む力や、論理的な文章を書く力、難解な理論を根気強く理解しようとする力などはそのまま活きました。

また、30代後半で国際開発の現場から離れ、日本に帰国したあとも、マッキンゼーや京都大学といった素晴らしい環境でお仕事をさせていただく幸運に恵まれました。国際開発の世界で研鑽するうちにいつの間にか自身の市場価値が高まっていた結果であると認識しています。

良くないのは迷うだけ迷って何も決めないことです。目標も立てずに成長しなければ、もし何かやりたいことが新たに見つかったとしてもそこからのスタートとなってしまいます。

仮説を検証することで解像度が上がる

やりたいことに近いかもしれない領域でもがいていれば、やりたいことの解像度が上がってきます。また、人は時間をかけたことを好きになるという単純接触効果(ザイアンス効果)もあり、やっていることをだんだん好きになるというのもよくあります。

私の場合、物理の研究に触れてみたからこそ、もっと直接的に社会の役に立つことをしたいと感じ、国際開発の世界が開けました。国際開発にどっぷりとはまって長らく海外生活をしていると、日本の衰退を強く感じるようになりました。そこから日本の経済復興に関心が移り、さらに日本の教育にも問題意識が芽生えてきました。

仮説検証の方法

自分が何をやりたいか、あるいは何をしたら良いか迷ったら、まずは自分に見えている範囲でよいので、考え得る選択肢を目の前に並べてみてください

目の前に並べてみるというのは、メモ帳や頭のなかで箇条書きにするイメージです。例えば以下のような具合です。

・今の会社で異動を目指す
・あの会社に転職する
・大学院に留学してMBAを取る
・起業する…

次に、その中からベストと思われるものを選びます。転職や異動をしない、というのもあなたの一つの選択です。ベストかどうかの基準は、第一に、理性的にでなく感情的に判断して自分がそれをやりたいと思えるかどうかです。言い換えると、わくわくするかどうかです。

第二に、どのくらいの時間がかかりそうか、そしてその時間をかける価値があると思えるかどうかです。

ここでのポイントは「あなたにできるかどうか」は判断に必要ないということです。仕事という軸で考える限り、ほとんどのことはあなたにできます。ただ、そこに至るまでの時間が人によって異なるだけです。ですので、ここでの論点は、できるかどうかだけでなく、自分がそれだけの努力や時間を費やしたいと思えるかどうかです。

選択肢の中から一つを選んだら、それを試してみます。その選択が自分に合っているかどうかを評価するのですが、まずは仕事を覚えたり、その学問のことを理解しないと面白いかどうかも評価が難しいので、最初はとにかく仕事を覚えてください。普通は数ヶ月から1〜2年かかります。

次に、ある程度仕事が飲み込めてきたら、自分がどう感じているかを言葉にしてみます。アウトプットすることが大切です。日記やブログに書いてもよいです。私の場合は友達や同僚に話すことで言語化されます。一度自分が言語化したことは自分の中に定着します

例えば私の場合、コンサルでの仕事は優秀な先輩方と議論をしたりと日々の業務が楽しい一方で、社会的に弱い立場の方々への貢献については物足りなさを感じていました。逆に、途上国で政府系の仕事をしていたときは、社会的な意義を十分感じられた一方で、もっとアドレナリンを出しながら短距離走をするような疾走感が日々の業務にほしい、というものでした。

あなたの今の仕事に対する評価が文章化されてくると、次の職場に求める要件が明確になってきます。そしてまたその時に見えている選択肢の中から一つを選んでいくのです。

寄り道を楽しむ

やりたいことを見つける旅は、仮説を立て、それを検証することの繰り返しです。仮に間違っていたとしても、その経験は次の選択肢を探るための貴重な成長の機会となります。挑戦を恐れず前進することで自分の道が見えてきます。

一つ大事なことは、やりたいことを見つけることを目的視するあまり、その過程をコストと感じないでほしいということです。それらの過程もまたあなたの人生の一部です。移動することと旅することは違います。旅の途中であちこちに寄り道するのは楽しいことです。やりたいことを見つける旅があなたにとって楽しくあることを願っています。

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