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防衛産業が「産業」であることと文民統制が理解できない日本経済新聞


以下の記事は防衛調達に関する記事ですが、記者は防衛産業が「産業」であること、それと文民統制とはなにか、という根源的なことが理解できていません。

それで防衛省に取材して書いたのでしょう。日本の装備調達は国内では当たり前ですが、世界的に見れば極めて奇異であり、それは文民統制にももとるものです。それが理解できていないから言われるままに疑問を持たずにこういう記事を書きます。


安全保障とeconomy(2) 防衛装備調達も「賢い支出」
まとめ買いや納期前倒し コスパ重視、家計と重なる
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO81298200Q4A610C2PD0000/

>防衛装備品を早く・安く調達する努力は家計のやりくりに似ている。少量の購入契約を不定期で繰り返すのを改め、まとめて購入する機会を増やす。納入時期の前倒しや米国政府との交渉で調達価格を抑える工夫もし「賢い支出」を目指す。

>日本の防衛装備品といえば米国製が中心で価格は割高、日本企業は少量しかつくらず価格が跳ね上がる印象が長らくあった。政府は節約のために3つの方法を考えた。

いつもご案内のように、装備調達は事前に開発、調達の計画を普通は立てるものです。開発にいくらかかり、調達はいくつか、調達期間=装備化にどのくらいかかるか、総額はいくらなのか。それを議会に説明して了承を得て予算化して、メーカーや商社と契約します。

ところが我が国は護衛艦や戦闘機など一部を除けば調達数も期間も示されず計画がないことが多いわけです。そして国会に対してもろくな説明をしないで、わずか数ヶ月の国会で審議するふりだけして予算が決定されます。10式戦車にしろ、個人装備にしろ、何年で調達するのか、総予算もわからずに国会が予算を了承します。

これでメーカーが事業計画が立てられるわけがない。であればどんぶり勘定かぼっくりになります。日本の装備が高いのは国内調達、輸入問わず、ここに原因があります。

また計画も知らされずに審議するふりだけで予算を国会が認めるのは、文民統制の否定です。文民統制の根幹は予算と人事の把握です。それらを日経はわかっていない。

>政府は2022年12月にまとめた安全保障関連3文書の一つ「防衛力整備計画」で「装備品の計画的・安定的な取得を通じたコスト低減」を進めると明記した。大型装備品の関連部品などを対象に、単年度にまとめて購入すると決めた。

このごに及んでも、未だに防衛省も政府も防衛調達計画の根源的な問題を直視せずに小手先の改革で乗り切ろうとしています。

例えばタクシー会社が新型タクシーを導入するとして、車種は決めても、何台調達するのか、調達にかかる期間はどれだけか、投資総額はいくらかを決めないで、初年度の予算化を決定して20年30年かけて更新しますか?

そんなことをやっていたら会社は潰れます。上場会社ならば株主からクレームが来ます。そういうアタリマエのことを日経も政府も防衛省もわかっていない。


>19年度にまとめ買いで調達した地対空誘導弾パトリオットミサイル(PAC3)の部品は従来手法と比べて半額以下となった。62億円だった費用を31億円に抑えることができた。
>2点目は資材価格の上昇を見越し、当初計画より前倒しで調達する方法だ。相手のミサイル発射拠点などをたたく「反撃能力」を担うミサイルなどが対象となる。

こんなことは末子末梢です。気を見て森を見ない類の話です。

自衛隊は装備の2割前後を海外調達する。米政府からは同盟国などが対象の「対外有償軍事援助(FMS)」制度に基づいて購入する。米側が価格を見積り、前払いが原則であるなど難点がある。

米国からのFMSにしても上記のようなまともな調達計画を立てて、その上で交渉すれば価格は下げることが可能です。かつてイージス艦のソフトウエアはそうやって担当者が値引き交渉をしました。そういう交渉が属人的になっており、ほとんどが言い値で調達するから高くなるのです。

>政府は23年度からFMSによる調達費用を減らす新制度を適用している。在日米軍が使う装備品の日本での品質管理を防衛省が無償で担う代わりに日本が米国から買う装備品の管理費を免除する。最大で年20億円ほどの支出減になるという。

これもやらないよりはマシ話です。
産業や工業の基礎知識がない記者が産業の記事をかくのですから、明後日を向いた記事、あるいは言われたことを鵜呑みにして世界の常識から外れた記事を書くのは当たり前のはなしです。


■本日の市ヶ谷の噂■
防衛医大、防衛医学研究センター、生体情報・治療システム研究部門は4月の教授交代にもかかわらず、ホームページは未更新。川内聡子准教授が教授に就任、まじめだが、教授に必要なリーダーシップは期待薄で医学知識の不足も目立つ。理工学スタッフの部門で診断機器の開発を謳うが、防衛医大では企業との共同研究不可、特許の独自取得不可能、との噂。

Japan in Depthに以下の記事を寄稿しました。
「敵に手の内をさらさない」という防衛省、自衛隊の「敵」は国会と納税者か
https://japan-indepth.jp/?p=83101
新聞各紙 残念な防衛関連の未検証記事
https://japan-indepth.jp/?p=82844
日本の報道の自由度が低いのは記者クラブのせい
https://japan-indepth.jp/?p=82748

次期装輪装甲車、AMV採用を検証する その2 AMVのライセンス生産によって日本の装甲車事業は壊滅する
https://japan-indepth.jp/?p=81695

次期装輪装甲車、AMV採用を検証するその1
駿馬を駄馬に落とす陸自のAMV採用
https://japan-indepth.jp/?p=81667

東洋経済オンラインに以下の記事を寄稿しました。
航空専門医がいない空自に戦闘機開発はできない
やる気のある医官が次々に辞める自衛隊の内情
https://toyokeizai.net/articles/-/744651


月刊軍事研究4月号に陸自の18式防弾ベストに関する記事を寄稿しました。


軍事研究 2024年 04 月号 [雑誌]

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