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社会疫学の汎用性について

化学者、社会疫学に出会う。

帝京大学で開催されている、ハーバード特別講座。イチローカワチ先生の講義、一日体験コースの講義録です。
ハーバード大の公衆衛生学の先生方数名が、毎年帝京大学にきていて、それぞれ4日間ずつ講義をしています。帝京大学に通っていなくても、受講することができます。
スケジュールと、自分の興味の都合で、僕は「Behavior economics and public health」と「Reducing health inequalities: a policy perspective」を受講してきました。そのうち、Behavior economicsが面白かったので、その内容についてシェア。

帝京大学 ハーバード特別講座

そもそも、僕と公衆衛生学、そして社会疫学の出会いは2年前。
こちらのイベントでお会いした方が、帝京大学の大学院で公衆衛生学・社会疫学の勉強をされていたことでした。

Project woman

当時の僕は、「生産性を可視化して向上させたい」と考えていて、色んな人に相談していたのですが、その方が「それならイチロー・カワチ先生の話を聞きに来た方がいい」と誘ってくれたのでした。(色々あって、生産性の可視化は目指すのをやめましたが)

化学メーカーの研究者が、生産性の話をしているのに、なんで公衆衛生?社会疫学?と思ったのですが、背筋がゾクゾクするくらい、繋がっていました。整理すると、以下の3つの観点です。

①健康も、生産性の向上も最終目的はwell-beingの向上である点
なんで健康でありたいのか?なんで生産性を上げたいのか?を考えると、どちらも行き着く先は、well-beingの向上なので、「つながっている」。
②健康な状態のほうが、生産性が高い
単純な話、風邪を引いている時と、そうじゃないとき、どちらの生産性が高いか、というと、風邪を引いていないとき、なので、健康であるための環境の話をしている社会疫学は、生産性と「つながっている」
③健康は環境に影響を受ける(これが一番大事)
社会疫学の基本的な成果の一つとして、健康が環境によって影響をうける、というものがあります。・・・いわんや、生産性をや。ということで、「つながっている」。

改めて、社会疫学とは?

順番が前後しますが、ここで、社会疫学とは?を2017年に開催されたセミナーの案内文から引用してご説明します。

健康は生活習慣など個人の選択でだけ決められるものではありません。生活習慣など個人の行動さえも社会環境などの要因に強く影響されることが明らかになっています。このような学問を公衆衛生学の中でもとくに「社会疫学」といいます。

参照:特別セミナー「社会疫学とは何か?」

僕が社会疫学の説明を人にするときに、分かりやすい例だ、と思っているのはこんな感じ。

個人の生活習慣以上に、アメリカに住んでいるのか、日本に住んでいるのかで、肥満へのなりやすさが変わることを、統計などのエビデンスを元に明らかにしている学問。

あれ?この、環境がそのなかの構成員に影響を与える、という考え方は、健康はもとより、生産性や、その他の色んなところに応用が効くんじゃないか?という可能性を感じたので、社会疫学の虜になってしまったのです。

そして、僕の理解では、社会疫学を構成する要素として、人がどのように行動するのか?に焦点を当てた行動経済学があって、今日の授業はそれがメイン。包含関係はこんな感じのはず。(円の大きさに深い意味はない)

講義ハイライト

今日の授業の中で一番面白かったのはsad emotion がpresent biasを強化するような影響を与えるという話でした。
present biasとは、「現在」と「将来」の違いはすごく気になるが、「近い将来」と「遠い将来」の違いはさほど気にならない、というバイアスです。
このリンクが分かりやすい。いま、costを払うと、将来benefitが得られる、とわかっていても、そのcostを払うつもりになれないし、「いま」と「将来」じゃなくて「近い将来」と「遠い将来」の話になると、決断が変わってしまうことがある。喫煙、食事、ダイエット、睡眠に関する我々の決断を振り返ってみると、よくわかる。
(講義中に、studyもか?と聞いてみた。我ながら良い質問だと思ったし、教室の笑いも誘ったが、「公衆衛生にfocusしよう」ということで、深掘りはしてもらえなかった)


また、emotion/behaviorの関係についてはこんな感じ。我々は、自分の行動はattitude/norms/control(姿勢/規範/制御?)に従って、「行動したいという意思」が生じて、「行動する」、と考えがちなのだけど、実際は行動したいがあるし、emotionにinterceptされて、別の行動になることもある。「暴飲暴食はしないほうがいい!」と頭では思っていても、実際にはどか食いしてしまう。
公衆衛生の分野で、emotionに訴えかける取り組みがされているが、多くが、sad emotionを想起させて、behaviorを変えようとしている。タバコを吸うと癌になるリスクが高まります、ほら、あなたの身近な・・・とか。
しかし、社会疫学、行動経済学の研究により、sad emotionは、人をよりpresent biasに陥れやすくする効果があることがわかったそう。そして、present biasが強化された結果、将来の健康に目が向きにくくなり、行動はいい方向に変わりにくくなるそうな。

最初の問題意識だった生産性に絡めると、「生産性をあげないと、社会人としてやっていけないよ」というちょっと脅すようなアプローチは、逆効果かもしれない、ということではないでしょうか。講義では、「感謝」の気持ちが想起されると、present biasが弱まる、というお話がされていました。

Now what?

実は、この社会疫学の、個人だけでなくて環境を整えることが大事、という考え方は、2月以降に働く会社のチョイスにも影響を与えています。つまり、人の行動を変えるのに、個別に説得していくだけでなくて、世の中全体をふんわりじんわり幸せにしていくアプローチが大切なんじゃないかと考えて、そういうことができる会社を選んだ、というわけです。

具体的になにすんねん?は、また、後日、ということで。

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