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ギロチナイゼーション 1582

 焼け落ちんとする本能寺は炎の中で光り輝いていた。畳の上に座す織田信長の胸のうちは穏やかだ。彼の前には一本の小刀が横たえられている。割腹の後は、燃え盛る火が介錯人のかわりとなろう。言うなれば彼は自らの野望に身を焼かれて死ぬのだ。それも悪くない。

 ふと、目の前に人影が射した。さては敵の刺客か。業火の中をここまで――天にはどこまでも嫌われたものだ。「名を名乗れ」信長は顔を上げずに問うた。「私はギロチン」男は丈の長いコートに、下はキュロットを履いていた。頭には鉄仮面。「ハラキリはやめなさい」彼は言った。

「なんだと」立ち上がろうとする信長をギロチンが押し留めた。「安心なさい」厳かな口調、全身に飛んだ血のしみ。信長は狂気の匂いにたじろいだ。「離せ」振りほどこうとしたが、できない。力が強い!「苦痛のないように首を刎ねてやる」男は続けた。背後にはいつの間にか大掛かりな断頭装置が出現し、刃を照り輝かせている!

続く

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