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短編読切「親転地」

「こんにちは。沢木大志と云います。初めての所で何も分かりません。色々と教えてくれたら嬉しいです。仲良くしてください」

 転校生の大志はクラスの皆に挨拶をする。

 クラスの皆とは直ぐに打ち解けていた。

「えっ?もうスマートフォン持ってるの?」

「えっ?逆に持ってないの?」

「でもそれって見守る的な?」

「違うよ。そんなのダサいでしょ、コレ」

「うわ~最新モデルじゃん。もしかしてゲームとか」

「まあ制限はあるけどある程度繋がる」

「ああ、良いな」

「まあ、今度やらせてあげるから、じゃな」

 放課後、下校する前にクラスメイトと話をした後、自分の机に紙を広げる大志。それはネットから印刷した、学校から自宅への道順が記されていた。

「ああゴメン」

 大志は大半の生徒が下校した後で数人しか残っていない内一人の女の子に声をかけた。

「はい、転校生君」

「ああ、沢木大志です」

「まさに、暴れん坊って感じね」

「えっ?なんで?」

「だって、さわぎたいし君でしょ」

「はい」

「漢字をそのまま読むと、騒ぎたいし、って」

「・・・ああ、凄いね君、面白い」

 二人は笑顔になった。

「どうしたの?」

「これ母さんから預かったんだ」

「地図ね」

「来る時は車で送ってもらったんだけど、両親共働きだから。帰り道分かんなくて。もし方向が一緒ならお願い出来ないかな」

「ん~、今一つね」

「えっ、何が?」

「乙女をデートに誘うのはもう少し知り合ってからね。そりゃ私が可愛くて誘いたいのは分かるけど、今日初対面だし。じゃ」

「じゃ、って」

 大志はクラスに一人残された。仕方なく地図を頼りに帰る事にした。




「ここが公園か」

 大志は公園の中に入る。遊具で遊ぶ子供たち。ベビーカーで散歩するお母さん達。犬を散歩させる人々。砂場で遊ぶ親子。皆楽しそうでいる。
 大志の足に何かがぶつかった。

「あっ?」

 それはゲートボールの玉。大志はそれを拾い上げ周囲を見渡たすと、手を振っているおじいさん、おばあさん達が少し離れた場所にいた。手にはゲートボールのスティック。

 大志はニッコリと笑って手にした玉を上に上げて、また違う手で手を振る。そしておじいさん、おばあさんの輪に入って行った。


 
 公園を後にした大志はまた地図を見ながら歩く。一旦立ち止まって位置を確認すると、足元に何か温かい物を感じる。
 その足元に目をやると、犬が自分の足にオシッコをかけていた。

「あ~、なんだよ」

「あら、なんだよとはご挨拶ね」

 そこに居たのはさっき声をかけたクラスメイトの女の子、明音だった。

「だって」

「小さい事は気にしないの、男の子は」

「え~、それとこれとは別でしょ」

「それにしても遅かったわね」

「えっ?もしかして待っててくれたの?」

「えっ?何云ってるの。私は犬の散歩をしてただけ。偶然貴方が来ただけだからね」

 大志は満面の笑みを女の子に送った。

 それを見た女の子の犬が大志に吠える。

『ド~ン』

 大志は後ろから衝撃を受ける。何かが覆いかぶさるように伸し掛かって重い。

「ビックリした~」

「おう、まだ帰れないのかよ」

 クラスでスマートフォンを持っていた男の子が大志の後ろからランドセル越しに身体を預けてきたのだ。しかし直ぐに大志から放れると手に持っているスマートフォンを見る。
 彼もクラスメイトの宗太。

「住所は?」

「えっ?」

「お前の家の住所だよ」

「ああ」

 大志は住所を云うとスマートフォンに道順が記される。

「あと7分だって。こうして歩くと・・」

「あっ、すげえ」

「ああ、お前も明音の犬にやられたの。こいつ新人いびりだから気をつけな」

「何よ~」

 明音が犬を引っ張りながら宗太を追う。

「うわ、犬が可哀想」

「待て河井宗太」

 二人と一匹が行く先を追う大志。

「俺の家、そっちなの?」


――(終わり)―― 

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