連載 「こけしの恩返し」16 森のバイトの他に、編


オープンガーデンでのバイトをしながら、他のバイトも掛け持ちしていた。

そのバイト先と出会うきっかけも、あの自然食料品屋さんだった。

実はその自然食料品屋さんで、数ヶ月バイトをさせてもらっていた。オープンガーデンの仕事が16時に終わるので、その帰り道にお店に寄って、そこから閉店まで働かせてもらっていた。そのお店は配達もしていたのだが、ある日、配達の車に同乗してお客さんのもとへ荷物を運んだことがあった。そのお宅へ、私はバイトをしに通うことになったのだ。

そのお宅には、中国人のバイオリニストが住んでいた。そしてその方は雑穀マイスターでもあり、雑穀料理の教室などを自宅で開催していた。中国人でバイオリニストで雑穀マイスター、という、超個性的なスペックのその方に、私はなぜか気に入られたようで、週1.2回、お手伝いに行くことになった。お手伝いというのは、雑穀教室関連のチラシのデザインとか、料理教室の手伝いとか、雑穀のブレンドとか、その日によって仕事は様々だった。

その人の作る料理は力強く、とても美味しかった。素材にこだわっていたので、どれも身体にいいものでパワーを感じたし、味付けも香辛料を巧みに使っていたりしてパンチがあった。持病をお持ちで、その病気を克服するために辿り着いたのが雑穀で、だから雑穀に対しては並々ならぬ思いとこだわりを持たれていた。その雑穀料理をまとめた料理本が出版されることになり、撮影の日、私もお手伝いに行かせてもらった。その様子を傍らからずっと見ていたのが、やっぱりプロは違うなあ、と痛感させたれた。以前麹町の会社で作っていた料理カードのことを思い出し、スタイリングとか写真とか、自分たちに出来る範囲でなんとか頑張ってやっていたけれど、餅は餅屋だ。プロのスタイリストが盛りつけてスタイリングされた様子はやっぱりすごく素敵だし、プロのカメラマンが撮った写真はものすごく料理が映えて美味しそうだった。貴重な現場に同席させてもらえてよかった。

バイオリニスト兼雑穀マイスターのその方は、とにかく個性が際立っていた。基本的にとてもフレンドリーで人との距離感が近いので、最初すごく戸惑った。基本、人との距離感をとりがちの私にとって、その方の人との付き合い方は一種衝撃的だった。

バイオリンの演奏会の受付の仕事をしたこともあった。私は全くバイオリンに接して来なかったので、他のバイオリニストがどうなのかとか、比べようがなくてよく分からないのだけれど、あの方のバイオリンは、どこか胸に迫るようなものとワイルドさと重厚感を感じた。それはもしかしたら、中国の大陸で生まれ育ったこと、そして今までの苦労や経験が音に滲み出ているからなのかもしれないな、と思ったりもした。

森の中の一軒家のバイトといい、バイオリニスト兼雑穀マイスターのお宅でのバイトといい、私はこの時期、人のお宅に上がり込んで働くことと何か縁があったとしか思えない。それに、両方とも履歴書を見せてすらいない。経歴ではなく、人と人との関係性で成り立っているバイトだった。おもしろいなあ、と思う。こんな特殊な働き先と、よく出会えたよなあ、と思う。

流れというのは、不思議なものだ。

自分の意思の届かないような場所で、導かれたんだと思う。

なかなか出来ない経験を、この時期、たくさんさせてもらっていた。

おもしろかったなあ、と思う。

出会いに感謝、それしかない。

ありがとうございました!


次回、ついに最終段階、花屋でのバイトが始まります!

お読みいただきありがとうございました!

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