【ショートショート】遺言
私が死んだら、やってほしいことがあるの。
この世に悔いはないけれど、死んだあと、私の意志に反してなにかが行われるのは嫌だわ。
まず、私の棺は美しく装飾を施して。もちろん中はシルクよ。当たり前じゃない。
衣装も、ペラペラの白い着物なんて嫌。レースのついたドレスを着せてくれる?
あの世で暮らすのに、ふさわしいドレス。
だってね、死んだら、私を馬鹿にした人達のもとへ化けて出てやろうとおもってるの。そんな人たちにダサい格好を見られたくないわ。とびきり美しい姿で、驚かせてやるのよ。
お葬式では、どうか愛の讃歌をかけて。そして火葬するときには、バラ色の人生で見送って。
そんなに素晴らしい人生ではなかったけれど、最後くらいはいいわよね。
あ、これは大切なのだけれど、参列者の皆様に、ワインセラーに入っているとびきりのシャンパンでもてなしてさしあげて。
私以外、あのワインセラーを触る人はいないのだから、全部飲んでしまっていいわよ。
そうね、戸棚に入っているスコッチ。あれも飲み干して。
みんなでベロベロに酔っ払って、次の日にはすべて忘れて、スッキリと目覚めるのよ。
何事もなかったかのように。
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