ビーダマンの改造と筋トレはほどほどに
『爆走兄弟レッツ&ゴー』世代、いわゆる『第二次ミニ四駆世代』には遊ぶおもちゃに事欠くことはなかった。
ミニ四駆ほどではないが、人気のあったおもちゃのひとつに『ビーダマン』がある。
穴が空いている後頭部からビー玉を入れ、お腹から発射するフィギュアだ。
このおもちゃの最大の特徴は何と言っても「遊び方がさっぱりわからない」こと。
お腹からビー玉を発射できたからといって、一体なんだと言うのだろう? 的当てくらいしか思いつかないが、そんなの面白くもなんともない。
漫画ではサバイバルゲームみたいなことをやってるが、そんなこと現実にできるはずもない。空中で発射しても、キレの悪い小便のごとく情けない流線を描きながら下にポトンと落ちるだけだ。
「遊び方がわからない」。これがミニ四駆より人気の出なかった理由だろう。
しかし、戸惑う我々を横目に、己のビーダマンを黙々と強化している男がいた。
前回のミニ四駆の回でも登場した、アホで金持ちの野田君である。
★★★
「あのな、あのな、すごいビーダマン作ってん!」
野田君はどうやら夜更かしをして、またアホなものを作ったらしい。
仕方がないので、自分のビーダマンを持って、野田君の家に行った。
野田君は社長の息子という己の経済力と、後先を考えることができない脳により何でも異常にハマってしまうクセがあった。
「見て見て! これやねん!」野田君は改造したビーダマンを持って、玄関から出てきた。
「うわっ……」
そのビーダマンは色んなパーツでゴツゴツしているだけでなく、一番目を引いたのは「後頭部に逆さまのペットボトルが突き刺さっている」こと。
「あのな、あのな、これでめっちゃ連射できるようになってんで!」
ペットボトルの中に、ビー玉をたくさん入れ、何十発も連射できるようになったと言う。
これは当時としては珍しい改造ではなく、「お金をかけない連射魔改造」としてコロコロコミックでも特集されていた。
「すごいやろ!?」
「う、うん……」
とりあえずその性能を見てみることになった。
後頭部に無残にも突き刺さったペットボトルにたくさんのビー玉を入れていく。50個くらいは入っているだろうか。
「じゃあ、行くで!」野田君は叫ぶと同時にビーダマンのレバーを押し始めた。「うおおおおおおおお!」
「ポンポンポンポンポンポンポン」
「…………」
次々とビー玉が発射される。
「ポンポンポンポンポンポンポン」
「…………」
静寂の中、ビー玉が発射される音だけが響く。
「ポンポンポンポンポンポンポン」
「…………」
なにこの時間。
「ポンポンポン……」
「…………」
野田君も何か喋れや。
「ポンポンポン……」
「…………」
ようやくすべてが発射された。その辺はビー玉だらけである。
「はあ、はあ、はあ、なっ!? すごいやろ!?」
「……う、うん」
何回も言うが、私たちはそもそも「遊び方がわからない」のである。何十発も連射できたからといって、何の意味があるのだろう。
何でもそうだが男という生き物は、やり始めると”いい塩梅”というのがわからなくなる。彼も最初は軽い改造で済んでたハズだが、強さを追い求めた結果、後頭部にペットボトルをぶっ差す、という情けない状況になったのだった。
これは筋トレにも言えると思う。男は無目的に筋トレに励みがちだが、やりすぎて、ボディビルみたいにテカテカになるのもどうかと思うし、多分完全体のセルにも勝てなくなるだろう。
とにかく何事も”ほどほど”が良い。
そんなことをアホの野田君とトランクスから学んだのだった。
私は野田君の”いい塩梅がわからなくなった”ビーダマンを見て、すべてがアホらしくなった。
それ以来、ビーダマンを触っていない。
働きたくないんです。