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バラバラになった野田君のミニ四駆
私は1987年生まれ。ゆとり世代であるが、もっと細かく分類すると、「第二次ミニ四駆世代」である。
私たちが小学生だったころ、『爆走兄弟レッツ&ゴー』が流行っており、勉強もせずひたすらミニ四駆に明け暮れていたものだった。
しかし、コースを持っていた人が少なく、走らせることはほとんどなかった。
なので私が「ミニ四駆」で思い出す光景と言えば、「児童館で皆集まって、黙々と『ボディの肉抜き』をしている」というものだった。
「肉抜き」とはミニ四駆を速くするために、ボディに穴をあけて風通しをよくする行為をいう。
当時の我々の聖書『コロコロコミック』でも肉抜きの特集は何度もされており、新しいミニ四駆を買っては肉抜きに勤しんでいた。
★★★
私たちはいつものように児童館に集まり、誰一人喋らずに肉抜きをしていると、「みんな~見て見て!」と言いながらひとりの少年が入ってきた。
彼の名は野田君。勉強が苦手で、年がら年中鼻水を垂らしている、まあ要するにアホだった。
しかしアホの野田君は親が小さな町工場の社長をしており、お金持ちだった。なんでも買ってもらえる環境にいるせいか、ミニ四駆への情熱は人一倍熱い。
彼が手に持っているものを見て皆、ドン引きした。
「うわっ……気色悪っ……」
それは肉抜きのし過ぎで、骨格だけが残っている変わり果てたトライダガーXだった。あの格好良いスタイリッシュなボディがスッカスカになっている。
「あのな、あのな、これな、夜の12時までかかってやってん」
野田君は夜更かしをして、このスッカスカトライダガーXを拵えたという。
「野田君……コレ、速いん?」
「あのな、あのな、これ速いと思うで」
野田君が自信満々に言うので、レースをすることになった。児童館にはひとつだけミニ四駆コースがあった。
私のビークスパイダーと野田君のスッカスカトライダガーXを競争させることになった。
私と野田君は位置についた。
「あのな、あのな、きよさんには負けへんで!」野田君は横目で私を見た。自分のマシンによほど自信があったのだろう。
「ほな、いくで。よ~い、ドン!」
「行っけええええ!!」野田君は児童館全体に響くほどの叫び声をあげ、ミニ四駆をスタートさせた。
スタートして2秒。第一カーブに差し掛かる。そのときだった。
スッカスカトライダガーXがコースアウトをし、高く宙を舞い、そして落ちたと同時にボディがバラバラに砕け散った。
「あああっ!! ボクのトライダガーが!!」
野田君は急いで駆け寄り、バラバラになったトライダガーXを集め出した。過剰な肉抜きが引き起こした悲惨な事故だった。
私たちを背にし、見るも無残なトライダガーを見つめる野田君。「グスッ、グスッ」と鼻をすする音と共に肩を震わせていたので、泣いていたのだと思う。夜更かししただけあって、それなりに愛着があったのだろう。
「野田君……」私たちはクスクス笑いながら言った。「肉抜きし過ぎ……ぷぷぷぷぷ」
野田君はそのまま振り返ることなく、児童館の出口に向かっていった。夕日に照らされたうしろ姿はとても悲しく、そして誰よりもアホだった。
★★★
次の日、野田君は新しいミニ四駆を持って、児童館に来た。手に持ってたのは『スピンコブラ』である。アニメの中では三国藤吉という猿みたいなキャラが持ってるマシンだ。
「スピンコブラ、発進でゲス!!」野田君は三国藤吉のマネをしながら言った。
目は笑っていなかった。
働きたくないんです。