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カフェに誘ったら、セミナーに連れて行かれそうになった話
不特定多数の人が集まる飲み会で、メガネの女の子とカフェの話で盛り上がった。私は30歳のオッサンで、元仏壇屋だが、オシャレなカフェや雑貨屋が大好きなのである。
私は意を決して「今度カフェに行きませんか?」と言ってみた。OKだった。さっそくラインを交換し、後日、カフェの聖地である大阪市北区中崎町に行くことになった。
駅で待ち合わせて、さっそくオシャレなカフェへ。二人とも温かいココアを注文し、話を始めた。
始めは他愛もない雑談、趣味の話をした。すごく楽しかった。私はこのような、なんの得にもならない雑談が大好きなのである。「仕事の仕方」とか「生き方」みたいな意識の高い話は嫌いなのだ。
しかし、話は次第に私の嫌いな意識の高い話になりだした。
「きよさんは、将来についてなにか考えていますか?」
来た。考えてるワケないし、「なにか」とか言われても質問が曖昧過ぎて答えようがない。
「別になにも考えませんけど……明日死ぬかもしれんし……」
考えても仕方ないので、定型文で答えておいた。すると女の子は途端に険しい顔になり、こう言った。
「ダメです。考えないと」
怒られた。初デートで怒られるとは、まったく予想外である。女の子はさらにまくしたてる。
「私も昔はまったくなにも考えてなかったんですけど、今はしっかりプランも立ててます。きっかけはセミナーだったんですね」
ん? セミナー? イヤな予感がする。でも、デートに誘った側がセミナー連れていかれたり、壺買わされたり、宗教入らされたりすることってあるんだろうか? 女の子はセミナーで人生が変わったことをしばらく語り、最後にこう言った。
「新大阪であるんですけど、よかったら一緒に行きませんか?」
完全にセミナー勧誘だコレ。デートだと思ってたのは、どうやら私だけらしい。黙っていると、さらに女の子は言った。
「今、彼氏と一緒に暮らしてるんですけど、彼氏もすごくよかったって言ってくれてて……」
彼氏持ちかよ……しかも、同棲までしてんのかよ……最初に言いなさいよそれは。
私はデートを楽しみたいだけだったのに(「あわよくば」的は考えはあったけれども)、セミナーに誘うなんて……腹が立ってきた私は毅然とした態度で言った。
「いえ、結構です。行きません」
「え、で、でも……人生変わりますよ」
「行きません。別に変えたくありません。絶対に行きません」
「…………そうですか」
「帰りましょうか」
「はい……」
女の子が「セミナー」という言葉を口にした時点から、悪くなり続けていた空気は今やものすごく重くなっており、それ以上耐えられるものではなかった。
女の子の分のお会計も払い(割り勘にすりゃよかった)、そそくさと帰った。
私の人生では、勇気を出して行った行動が、裏目に出ることが度々ある。「神に嫌われてんのか?」と思うくらいだ。
でも、生きていくしかない。将来のことをまったく考えていなくても、セミナーに誘われても、別嬪さんに誰が書いたのかもわからん絵画を買わされそうになっても、淡々と生きていくしかないのである。
教訓めいたことを垂れて、この文を締めようとしているが、ただの「セミナーに誘われた情けない話」であった。
働きたくないんです。