見出し画像

仏壇屋のお仕事紹介『仏壇納品』

「仏壇のご安置(納品)が一番大切な仕事」

この道35年の店長の口癖でした。

納品後、店長はさらにドヤ顔で言います。

「これからの付き合いの方が長いですから」

売って終わりじゃない。その後もお客さんとの関係は長く続く。

付き合いの始まりが『仏壇納品』。ここをしくじるとそのお客さんとの関係は途絶えます。だから店長は納品が一番大切だと言ったんですね。

今回は仏壇の納品を紹介したいと思います。

仏壇、仏具の梱包

仏壇の引き出しには緩衝材を挟み、飛び出ないようにします。中の外れるものはすべて外して、丁寧に包んでいきます。仏具も同様です。

これは「傷をつけないため」もあるんですが、「お客さんに安心してもらうため」ですね。

仏壇というのは「仏さんとご先祖さんの家」です。普通の商品以上に丁寧に扱わないといけません。

なので、社長のようにスポーツ新聞のピンク面で仏具を包んだりしてはいけないのです。『欲求不満の団地妻』と書かれた紙から仏さんが出てきたらありがたみがないでしょう。エロと仏事は相反するものなので、絶対一緒にしてはいけません。

仏壇を運ぶ前のルート確認

納品先の家まで行ったら、とりあえず仏壇以外の細々したものを先に運びます。そのついでに安置場所を見たり、ルートを確保したりします。

大きい仏壇を納品する場合は、親戚やら近所の人やら定年後のヒマな自治会長やら沢山の人が集まってきてますから、彼らの位置にも注意を払わないといけません。

特に自治会長はルート上に堂々と座っていたりと、ポジショニングが非常に悪い傾向があります。そのときは「邪魔」と言います。できたら「帰れ」まで言いたいところです。

「ここは仏壇を寝かしたままではいけないから、一旦立てる必要があるな」「よし、ここを休憩場所にしよう」

運び込むイメージをしつつ、布団を置くなど必要な処置をしていきます。直で地面に置くのは傷がつくのでダメです。

ちなみに終始プルプルしている先輩の山田さん(ジジイ)は途中で力尽きる可能性が大なので、多めの休憩も考慮しないといけません。

仏壇を運ぶ

仏壇は寝かして前後二人で運びます。大きいのだと四隅を四人で持ちます。

最近の家は運び込みやすいのですが、古い家は石畳やら玄関に続く階段やらでゴチャゴチャして運びにくいので注意が必要です。

玄関が一番の関門。狭いし、段差があります。ここを抜けてしまえば、あとは楽勝です。傷つけないように慎重に運びます。

自治会長がたまに手伝いに来てくれますが、変なところを持たれると逆にやりにくいので、「邪魔」と言います。やはり「帰れ」まで言いたいところ。

仏間には先に下台(仏壇の下の部分)を置きます。

そして、仏壇の本体をその上に置く、のですが高さがない仏間だと入らない場合があります。

そのときは斜めにしたり、仏壇専用の機械を使ったりします。あまり詳しくは説明しませんが、「とにかく大変」とだけ言っておきましょう。

お荘厳

お荘厳(おしょうごん)というのは飾りつけのことです。

本尊さんを置いたり、燈籠を吊り下げたり、仏具を置いたりします。

お荘厳をする人、仏具の包みをはがす人、二手に別れて作業します。

お荘厳が進むにつれ、お客さんのテンションが上がっていくのがこの仕事の唯一楽しいところです。

「わあ、仏さんや~」「わあ、綺麗~」と、感嘆の声が上がります。たまに自治会長のしょうもないウンチクが始まることがありますが、誰ひとり聴いていないのが見どころです。

お荘厳が終わったら、ご安置完了です。

説明、支払い

ご安置後は、「開眼(かいげん)」という行事が後日にあります。「お生根入れ(おしょうねいれ)」とも言います。この行事は「仏壇に魂を入れる」意味があるらしいです。

「開眼」が済んで初めて、その仏壇は「仏壇」としての役割、パワーを持ちます。極端に言えば、それまではただの置物です。

開眼に必要なもの、普段のお供え、などの説明をします。自治会長が時折しょうもない茶々を入れてきますので、徹底的に無視します。

その後、お金をもらって無事終了です。

おまけ:お茶、祝儀

すべて終了したら、お茶とお菓子が高確率で出てきます。

普通の仕事と違い、仏事に従事する人はなにかと優遇されます。

それを象徴するのが「祝儀」の存在でしょう。

たま~にですが、「これよかったらどうぞ」と祝儀をもらえます。

一応「いやいや、そんなん結構ですよ」と言います。あまり強くは言いません。もらう気マンマンだからです。

「どうぞ」「結構です」「どうぞ」「結構です」。二往復くらいするのが礼儀ですが、私は一往復、山田さんに限っては0往復です。「すまんなぁ」と言ってすぐにもらってます。

一万円が多いです。これは自分のポケットマネーになります。昔は祝儀だけで生活できるほどもらってたみたいですが、今はほとんどありません。

しかし、運悪く社長が居合わせてしまった場合はすべて社長のポケットマネーになります。ホント、ケチな野郎です。

★★★

「信頼が一番大事」とは言いますが、売ったら終わりの商売がやたらと多い気がします。

仏壇屋は納品後もお客さんから電話がかかってくることが多々あります。「金剥がれたんやけど」「今度の行事の飾り付けがわからない」「お布施っていくら?」など。

仏事はハッキリしないことが多く、戸惑う人が後を絶ちません。

そういうとき頼りになるのが、信頼できる仏壇屋です。売上に躍起になるより、真摯に信頼を積み重ねることできる人のみが生き残っていけます。

信頼の第一歩が『仏壇納品』なのです。

次回は『位牌作成』です。

#仏壇 #エッセイ #信頼 #自治会長

働きたくないんです。