素晴らしき犠牲の精神
観葉植物をかれこれ2年ほど、育てている。
そんな中、水をやるのを忘れていたことが何度かあった。
当然、枯れる。ごめんよ。
しかし、その枯れ方になんか感動した。
一つの枝だけ枯れていて、全体的には元気なのだ。
その枯れた枝だけ落ちてしまえば、まったく元気な観葉植物に戻る。
全体が枯れてしまうのではなく、ひとつの枝だけ犠牲になり(養分も分け与えているのかも)、全体として命を長らえるのだ。素晴らしい犠牲の精神である。枯れた枝には気の毒だが、拍手を送りたい。
観葉植物の中では、きっとこんなドラマが繰り広げられていたに違いない。
枝A「ダメだ。水がない。このままだと枯れてしまう」
枝B「何してんねんあのアホのご主人は? 水くれや」
枝C「ご主人さまは転職先でうまく行かず、ストレス溜まってるみたいですよ。毎日酒飲んでるし」
枝B「そんなん関係あるかいな。ワシら植物飼うってことはそれなりに責任を持ってもらわんと。こういうとこがあかんねんアイツは。仕事がうまくいかへんのもわかるわ」
枝A「そうだそうだ」
枝B「でも、どうしたらええんや? あの様子じゃ、水なんかくれる余裕ないで」
枝C「このままじゃ私たち全員が枯れてしまう」
枝A「…………」
枝B「……よっしゃ、ここはワシが一丁やったるか」
枝C「ど、どういうことですか?」
枝A「Bさん、もしかして……」
枝B「そうや。ワシが枯れたらお前らの水分節約できるやろ。しかもワシが枯れて茶色になったらさすがにあのアホも『あっ枯れてる! 水やらんと!』と思うはずや」
枝C「そ、そんな……」
枝A「Bさん……」
枝B「世話になったな、A、C。この前キツイこと言って堪忍やで」
枝A「いいですよ。そんなの」
枝C「猛暑でお互いイライラしてましたからね」
枝B「ワシの分もしっかり生き長らえてくれ」
枝A「Bさん! ありがとう!」
枝C「Bさんのことは一生忘れません!」
枝B「じゃあな……」
三日後
私「ああ、観葉植物が枯れとる。水やるか」
枝A「やった! 水だ!」
枝C「Bさん……聞こえてますか? Bさんのおかげで水が来ました」
三か月後
枝A「ダメだ……水が……」
枝C「次は私が犠牲になります」
枝A「ごめんな……」
枝C「いいんですよ。Aさんにはお世話になってますし」
枝A「うん……おれもすぐに逝くから」
枝C「ちょ、ちょっと、弱気にならないでくださいよ~」
枝A「グスッ、ありがとう。Cの分も一生懸命生きるから」
半年後
枝A「うっ、水が……」
皆さん、水はしっかりやりましょう。
働きたくないんです。