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あの場所から遠く離れて ♯2

仕事内容は社内からの依頼に基づいた業務で、感謝されこそすれ、イライラされる覚えは全くないのだが、とにかく不機嫌な人間が多かった。
メールでのやり取りが主だったが、疑問がある時や、タスク完了の声かけをしなくてはならない事がとにかく気が重い。嫌な顔をされるからだ。
気にしすぎだと自分を励ましながら席に戻る。気にしてない顔のお面をかぶって、ゆっくりと。

覚える事が多く、ひたすらアップデート、毎日メモを取りデータを整理し、集中を求められる業務だったのは救いだったかもしれない。仕事をしている間は、さみしくなかったから。
自分なりに仕事に慣れてきたと感じたのは半年が過ぎた頃だったが、突然メガネ男子Bが私に敵意を向けてきた。
まず、朝も帰りも挨拶しなくなり、声をかけてもこちらを見ない。他の人と楽しそうに大声で話している横顔は、会社に溶け込んでいる自信に溢れていて、ただただうらやましかった。
何か嫌な事があるなら言えばいいのに、不機嫌を丸めてこちらに投げつける。しまいにはBが担当していた面倒な仕事を押し付けられた。
コーヒーを飲みながら雑誌を読むBの隣で、全身から溢れてしまいそうなため息を飲み込む毎日だった。
自分に課した「一年在籍」という目標を達成したかったし、逃げたら負けだと思っていた。

私語もせず、一人でランチに行き、一息つく間もなくパソコンに向かった。ひたすら黙々と働いた。
みじめだったのはランチ時で、一人で食事をするのはすぐに慣れたものの、楽しそうに話しながら歩く同僚と外ですれ違う時が一番辛かった。
誘って断られたら嫌だったし、何を話そうか想像すると緊張して空回りするイメージしか湧かない、一人の方が気楽、そう思ってもさみしい気持ちはいつも付きまとった。
それでも、目標の一年が近づく頃には、私を指名してくれる社員がぽつぽつ増えてきた。
気分で後回しにしたり、忘れたり、仕上がりも荒いのは、BだけでなくU課長もそうで、仕事の進め方がルーズだった。私は特別できる人間ではないが、振られた仕事を正確にこなしているだけで評価されたのはラッキーだったと思う。
指名されるのはすごく嬉しかった。私という人間を認知し、進んで対話してくれる、深々とお礼したくなるほどありがたかった。
くさらずに真面目にやってきた成果が、実りつつあるのを感じていた。







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