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サブスク普及の真相

消費者の関心が「所有」から「利用」へと移りつつある中、急成長を遂げている事業モデルがあります。サブスクリプションといい、利用者はモノを買い取るのではなく、モノの利用権を借りて利用した期間に応じて料金を支払うもので、日本語では「定額制」や略称の「サブスク」と呼ばれています。

5年後には1.5倍に成長

市場調査会社の矢野経済研究所によると、サブスクリプション(定額)サービスの2018年度の国内市場規模(8市場計)は、消費者支払額ベースで5627億3600万円(前年比15%増)。5年後の2023年度には約8623億5000万円と、1.5倍の規模への成長が予測されています。調査対象とする8市場の取扱商品・サービスは娯楽から衣食住まで、取扱事業者の個人企業者から大企業まで多岐にわたっているのも特徴です。

2019年12月には、日本サブスクリプションビジネス振興会が初めて「日本サブスクリプションビジネス大賞2019」を発表しました。同振興会は、リピーターによる定期的な取引によって売上げが安定するストック型「サブスクリプションビジネス」の日本国内での振興を目的とする一般社団法人として2018年12月に設立した団体です。

記念すべき第1回グランプリを受賞したのは、㈱トラーナ(東京都中野区)「トイサブ!」というサブスクリプションサービス。月額3340円(税抜)で子どもの成長と月齢に合わせた玩具6点を隔月で届けるサービスで、2015年に開始。現在の利用家庭は2200世帯を超えています。

それぞれのメリット

成長著しいサブスクリプションには、事業者、利用者それぞれにメリットがあります。事業所側のメリットの第1は、客層が広がる点です。高額商品は特に購入金額の高さゆえに買い控えが起こりがちですが、サブスクリプションなら初期費用を抑えられるため新たな顧客層を開拓できます。

第2は、顧客データが蓄積・分析しやすいことです。定期利用を前提としているから顧客の利用状況を把握でき、さらなるサービス向上や商品開発を行うためのデータを豊富に得られます。

最後に第3として、事業計画が立てやすいことです。従来の購買・購入型ビジネスでは季節や景気など外部要因に左右されやすく、計画投資や計画生産が行いにくい弱点があります。これに対してサブスクリプションビジネスは、顧客数・顧客単価・契約期間の3軸で経営状態を把握できるので計画も立てやすく、業績の上下も比較的緩やかなため対処しやすいのです。

一方、利用者側のメリットの第1は、割安で利用できる点にあります。「~し放題」というキャッチフレーズのとおり、利用すればするほど通常販売よりも低単価で割安に利用できます。
 
第2には、モノを持たなくていい点です。「断捨離」「ミニマリスト」の流行からも明らかなように、消費者の志向は今後ますます「所有」よりも「利用」に重きを置くでしょう。商品を購入した場合は手許に商品が残りますが、サブスクリプションではモノを持つ必要がありません。

第3は、手軽に試せる点です。例えば、映画を視聴しようとすればある程度の費用がかかるから、関心の薄い映画を観ようとは思わないものです。しかし、サブスクリプションなら決められた料金内で視聴できるから、手軽に視聴することができます。
 
時間をかけるに値する体験

そして最も重要な理由として、第4には“買物という手間”を省けることです。実はいま、消費者の買物離れが急速に進んでいるのです。これまで消費者は自らの時間を使って、店舗へと足を運び、さらにはいくつかの店を回って比較検討して、対価を支払ってようやく商品を入手してきました。

しかしインターネット通販の普及により、私たちは一連のプロセスが一挙に時短化されるという経験をしました。サブスクリプションはそうしたわずらわしさをさらに時短化・簡便化する仕組みでもあります。だからこそ急速に市場を拡大しているといっていいでしょう。

こうした潮流の中、商業者はどうすればよいのでしょうか。一つは、こうした潮流に乗り遅れないようにすることです。ただし、成長市場であるがゆえ、そこには多くの競争相手がいることを覚悟しなければならないでしょう。

もう一つは、全人類に等しく有限かつ貴重な資源である「時間」そのものを投資したいと思わせるような店づくりの道を進むことです。日本人の大半がモノの豊かさより心の豊かさを望んでいる今日、その店に身を置いて“体験”すること自体が価値を持つ商いのかたちをつくることにほかなりません。

それは決して簡単ではないでしょう。しかし、だからこそやりがいがあり、可能性に富んだ領域なのです。

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