仮説検証とスモールビジネスとスタートアップ
最近のスタートアップの多くは「スモールビジネス」を行っているように思えている。なぜそう感じるようになったのか、その違和感の原因が言語化できたので簡単に文章にまとめることにした。
仮説検証の粒度
仕事や事業を進める中で「仮説検証」という言葉がよく出てくるが、この仮説検証は大きく3つに分かれる。
ビジネスモデルの仮説検証
たとえば広告モデルやサブスクリプションモデルなど、いわゆるビジネスモデルの仮説検証を指す。
インターネットビジネスの黎明期には新しいビジネスモデルが次々に開発されていたが、2023年現在においては新しいビジネスモデルはほぼ生まれておらず、もはやビジネスモデルは完全に出尽くしたといえる。
つまり、ここの仮説検証をする必要性は全くなくなってしまった。
ニーズの仮説検証
その商品やサービスのニーズに対する仮説検証を指す。
ここについても過去には新しいニーズの発見が多々あったのだが、近年はその発見が減っているように思える。というよりも、既存のニーズが出尽くしたが近い。もちろん新しいニーズの発見もあるが、これはインターネットによって瞬時に共有されてしまい、もはやニーズの仮説検証が出来たところでなんの差別化にもならなくなってしまった。
つまるところ、調べたら結果がわかる「情報」になってしまった。
ソリューションの仮説検証
ニーズに対してのソリューションの仮説検証を指す。ニーズが正しくてもソリューションが間違っていればビジネスとしては成立しないため、ソリューションの検証は必要である。
この部分は検証されきっていないものは残っているが、ベストプラクティスが生まれているものも増えつつある。とはいえ現時点で大きな差別化ができるのはこの部分くらいである。
その他の仮説検証
価格やビジュアル、ネーミングなど、細かい仮説検証は無数にあるが、粒度としては上記の三つには劣るため割愛する。
仮説検証とスモールビジネス
仮説検証という観点でスモールビジネスを捉えてみる。
飲食店と仮説検証
まずは飲食店を出すケースを想定してみる。
この場合、ビジネスモデルは「販売モデル」であり、これは当然のように世の中で証明されきっている。ニーズは三大欲求のひとつの食欲であり、いまさらの証明は不要である。飲食店におけるソリューションは料理であるが、これもほぼ全ての料理が検証されきっている。
としたときに、飲食店ビジネスにおける仮説検証の難易度はとても低くなる。残る部分で重要なことは「立地」と「価格帯」と「接客」くらいであるが、それぞれほぼベストプラクティスが分かっている状態である。
つまるところ、仮説検証という観点ではほぼ行うことはなく、検証されきったベストプラクティスに上手く乗れるかどうか、そしてそれらを上手く実行できるかがほぼ全てといえる。
チェーン店と仮説検証
チェーン店の場合、もはや仮説検証どころか頭を使うことは殆どない。立地を考えるくらいであるが、これまで事業で得てきた情報をもとに考えればある程度精度高く決めることができ、残る実行部分をどうするかでしかない。
この観点で見ると、よほどのことがない限り外れないのがチェーン店である。仮説検証という観点からみると、創業からの期間が長く、店舗数が多いチェーンであればあるほど失敗するリスクは小さいといえる。
仮説検証とスタートアップ
本来、スタートアップは「未検証のビジネスにリスクをとって飛び込む」からこそ大きなリターンが得られるという側面を持つが、もはや最近のスタートアップの多くは「検証済みのビジネスモデルに乗っかり、いかに早くそれらを立ち上げられるか」という戦い方になっている。
いくつか例を出す。
BtoB SaaS の場合
多くがサブスクリプションモデルをとるが、これは当然に検証済みである。また、BtoBサービスのニーズの多くは3-40年前には存在していたものであり、ニーズがあることは確定しているといえる。
ソリューションについては既存のソリューションが数多く存在しており、それらの良いとこどりをすることでより良いソリューションを作れることは自明である。
としたときに、これといって仮説検証すべきことはなく、ただ競合より良いものを作り、認知を広げ、売るだけである。
つまるところ、お金を突っ込み、実行部分を強化するだけといえる。
フリマアプリの場合
手数料モデルを中心としたビジネスモデルは当然に検証されており、不用品を売り買いしたいというニーズは数百年単位で変わっていない。
他方でソリューションについては2010年代には新しさがあったが、2023年時点では特に新しさはない。つまり、ソリューションはほぼ検証されきったといえそうである。
としたときにはより良いものを作って認知をとれるかどうかの勝負になるが、これは当然に先行者優位であり、いまさらこの領域をゼロからやる利点は(日本においては)当然に薄い。
スタートアップのスモールビジネス化
仮説検証という観点で見ると、現在のスタートアップの多くはスモールビジネスと何も変わらないように感じている。そこに新規性は殆ど存在せず、多くの場合は実行の精度やスピードの差によって差別化している状態といえる。
としたときに、スタートアップとしてわざわざそのビジネスを行う意味があるかは疑問である。
おわりに
世の中には、強いニーズはあるが適切なソリューションが存在しないものが多数存在する。たとえば、高齢化社会における介護士不足などだろうか。
これらを解決してビジネスにしていくためには新しいソリューションの発明が必要であり、そこには当然に時間とお金がかかる。
しかし、資金集めから始めるスタートアップには、当然にその時間とお金がない。としたときに出来ることは、新しいソリューションの発明ではなく、既存のソリューションを組み合わせた「スモールビジネス」の高速実行である。そして、短期の資金回収を目的とする投資家の多くはこれらを当然に後押しする。
ゆえに、これからもスタートアップのスモールビジネス化は加速していくと考えている。
この状況を変えるためにできるアプローチは大きく二つある。ひとつは基礎研究にもっとお金と時間を注ぎ、それらを社会実装しやすい状況を作ること。もうひとつは、スタートアップに時間とお金を注ぎ、ソリューションの発明を競わせることだ。
しかしこのどちらもあまり上手くいくイメージがない。その理由の多くは投資家の短期目線の偏重であるが、短期目線は人類の特性ゆえの問題であり、あまり解決できることではない。
ある程度長期目線を持つならば国からの直接投資などが良いのだろうが、この国の国民が何十年か先の未来のために確率の低い投資をしないことなど、科学者への現在の扱いを見ている限り自明であるのだから。
まいにちのご飯代として、よろしくお願いします。