ウィーザーのはなし

ウィーザーの『Island in the Sun』が好きだった。
特徴的なギターリフが心地良く、YouTubeで何度も聴いていた。

大学2年のとき、わたしは本格的に体調を崩した。
毎晩眠れず、食事はポカリスエットとカロリーメイトだけだった。
寂しさと悲しさと苦しさが6畳のワンルームを満たしていた。

誰にも言えない気持ちをツイッターで吐き出すこともあった。
死にたいと書きたい自分にさえブレーキをかけ、消えたいと書いていた。

あるとき、相互フォロワーの男性からダイレクトメッセージが届いた。
iPhoneを使っているか、もし使っているならメールアドレスを教えてほしい、という内容だった。

その男性は“ねんどろいど”という人形が好きで、三鷹の自宅に200〜300体くらい持っている人だった。
特定のアニメキャラクターを愛していて、そのキャラクターのねんどろいどをいつも持ち歩いていたし、ツイート内容も変わっていてかなりぶっ飛んだ人という印象だった。

でも出会い目的のような雰囲気はまったく無かったので、メールアドレスくらいならいいかと思い自分のアドレスをペーストして返信した。

その男性からメールが届き、開いてみるとiTunes Storeを通して1枚のアルバムがダウンロードされた。

ウィーザーの『The Green Album』だった。
なかには私の好きな『Island in the Sun』も収録されていた。

ロフトに敷いてある布団にもぐり、右を向いた三角形をタップする。
イントロのギターが流れ、涙が出た。
頑張ろうと思った。
何を頑張ればいいのかはわからなかったけれど、頑張ろうと思えた。

その男性が現在どこで何をしているのかは知らないが、きっと周りの人を楽しませながら逞しく生きているのだと思う。
2023年の今も、私のiPhoneにはそのアルバムが入っている。
いつだって、どこでだって、数回タップすればギターリフが流れ出し、言葉を介さない優しさを思い出せるのだ。

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