バスキーのはなし

これは、私がずいぶん昔に書いた文章だ。
小学生のころに所属していた音楽部について書いている。
以下、引用。  

私は小学校の時に音楽部(吹奏楽部ではない)に入っていたんだけど、担当楽器を決めるとき、バチバチと火花を散らすピアノ争奪戦に参加するわけでもなく、小さくて華奢で可愛い女の子たちがこぞって立候補する鉄琴に心奪われるわけでもなく、かと言ってその他大勢のアコーディオン軍の一員になるのは嫌で、何を演奏していたかというとバスキーボード(低音のキーボード)ばかりを担当していた。
なんなら一番地味な楽器だったんじゃないだろうか。
友人に「どうしていつもバスキーなの?どこがいいの?」なんて聞かれたこともあった。
私が好んでバスキーに立候補していた理由は「間違えてもバレにくいから」という何ともしょうもないものだったんだけど、もちろん楽器自体も気に入っていた。
蓋のついた大きなプラスチックの箱。
押して歩くとその重さでキャスターがキュルキュルと鳴る。
コードを繋いで厚い蓋を上げると、一列の鍵盤が並んでいる。
電源ボタンと、つまみはせいぜい三つくらい。
音量とリバーブ(残響効果)とあとひとつは忘れた。
シンプルだけど、鳴らすとボンボンと弾むような渋くて可愛い音を出す。
電源を切る時は音量を最小にしてもブツリとうるさい。
そんな所も好きだった。
端的に言うと、愛着があった。
部活を始められる学年になって直ぐに入部し、3年間バスキーを弾き続け(一度ドラムに浮気したけど)、小学校と音楽部を卒業した。
たったひとつだけど好きな楽器ができて、それと一緒にたくさんの時間を過ごせて、まあなかなか良い部活動だったんじゃないだろうか。
またバスキーに触りたい。
小学生の時は重くて押すのが大変だったバスキー。
もしもまた会えたら、きみは当時より少しだけ小さいのかもしれない。


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