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観劇記録|『まにまに』

coffeeジョキャニーニャで脚本、演出を担当されている新津孝太さんと、浪漫好-Romance-などで俳優として活動されている横川正枝さんのユニット、Masa&Kouさんの公演。

私が観測している範囲で、男女の演劇ユニットを見かけていなかったので、石川でこういったユニットができたというのが新鮮というかいいなと思いました。ジョキャニーニャの作品、というよりは、新津さんの書かれる作品に興味があったので観に行ってきました。

演劇ユニット Masa&Kou Vol.1
『まにまに』
作・演出 | 新津孝太
出  演 | 茶谷幸也 横川正枝
at 金沢市民芸術村 里山の家
2023年7月15日(土)14:00開演
下手最後列より観劇




あらすじ


山奥の、廃村一歩前となるような場所でひっそりと暮らす、ひとりの作家(茶谷幸也)。推理小説、ミステリー小説を数本出したが、最近はめっきりその作家を知るものも少なくなった。そんな作家の元へ、ひとりの女性(横川正枝)が原稿を受け取りにやってくる。

いつもは編集者の別の女性が原稿を受け取りに来ていたが、その女性が腰を痛めたとのことで、頼みやすいのだろうと予想された女性(横川)が代わりに受け取りに来たようだった。
書き上げた原稿を渡す作家だったが、そこへ市役所からと1本の電話がかかってくる。どうやらこの家までの道のりで土砂崩れが起き、道路が通行できるようになるまでしばらく時間がかかるとのことだった。

1杯の珈琲を飲み、帰ろうとしていた女性だったが、予期せぬトラブルで足止めされることに。この後立ち寄ろうとしていた温泉に行く予定も未定になり、職場に連絡を入れるも、この後どうすればいいか困惑する。作家から、道が復旧するまで泊っていけばいいと言われるが、見ず知らずの人の家に泊まることに抵抗がある様子。親戚である編集者も、以前同じようなことでこの家に泊まったことがあると伝え、気が進まないながらも止まることにした女性だった。

泊まるには私服では困るだろうと、作家がパジャマを持ってくる。以前に福引で当てたという女性用のパジャマだったが、女性は借りれないと断る。作家に促されしぶしぶも着替える女性。明日の朝ごはんのために、きゅうりの浅漬けをつくろうと作家は畑に向かう。女性は受け取った原稿を読みながら時間を過ごしていた。

戻ってきた作家は、「過度に気にしてしまう」という原稿の感想を女性に求めつつ、会話が少しずつ流れていく。原稿の感想から、気を遣ってしまうという他者との会話、まさにクローズドサークルのこの状況で事件が、殺人が起きてしまうのではないかという話題に移り、次第にふたりの会話は盛り上がっていく。それでも、この瞬間、この場所で起こることは何もなく、ふたりは眠りにつくことになるのだ。

翌朝、作家が漬けたきゅうりの浅漬けとご飯とみそ汁で朝食をとる。傍らのラジオからは変わらない日常に必要な情報が淡々と流れ続けている。作家は、土砂崩れではなく落石だったと市役所からの情報訂正を伝え、女性は荷物を持って家を出ていく。締め切られた雨戸をあけると、そこからは滝が見えるのだった。


結果、タイトル『まにまに』のまま


YouTubeの配信などで、新津さんの独特の空気感や単語のチョイスを面白いなと思う。そういった面白さが台詞にあって、それを役者さんが演じるだけで「あ、新津さんだな」と解る瞬間が面白かった。こういう作家のらしい部分が含まれている作品を観ると、こういうのが見たかったんだなと思い、嬉しくなる。

作品を観終わり、帰る車の中で、同じく観劇した同士(旦那ちゃん)と、結局この作品の真相は何だったのか、ということを話していた。結果、

「この作品は、事件が起こりそうで何も起こらない、ちょっとだけふたりの会話が盛り上がった時間があった、ただの何でもない一夜だった」
という結論に至った。
この結論を導き出すまで、途中高速のサービスエリアに立ち寄り、晩御飯をどこで食べるか何となく決め、きときと寿司で待ち時間を黙ってやり過ごし、最後のいかと大葉の巻物が多いからと私のお皿にいつの間にか譲渡されていた辺りまで時間を要した。
それでも、私たちが出せた結論はこれであり、結果、タイトルの

まにまに
《「…(の)―」の形で副詞的に》 《連語》…の思うとおりに。その動きに任せるさま。

web辞書より

という意味通り、受け手の思うとおりにとったものがこのお話だ、というところに行き着くに過ぎなかった。なんとも滑稽は結末だと思った。

旦那ちゃんにしても、観ている間、
「こういう展開になるに違いない…….ん….何か違うな…..」
「次こそはこういう展開に….ん、んんん....違うな」
「いや、最後は何か真相が語られて大どんでん返しがあるに違いないから気を抜いてはいけない」
ということをやっている内に終わってしまったそうで、これもまあ作・演出の思惑通りであったなら、間違いなくこの作品を十二分に楽しんだひとりになるだろう。(これは記録しておいてくれと言われたので書き残します)

ちなみに、この結論に至るまで、こういった考察が寄せられた。

・女性がこのあと温泉に行くつもりであったなら、次の日も同じ服で出てきたのはおかしい。大きな鞄の中には着替えがあってもおかしくない。パジャマは無くても良い。(浴衣に着替えるつもりだった)着替えが入っていないのなら、あの鞄の中には何が入っていたのか。歯ブラシは毎回磨くのならば、手持ちの鞄で充分。着替えでなく、何か肌身離さず持っていた方がよいものか?(死体とか凶器とかか?)

・編集者の女性と、代わりに来た女性は親戚ではない可能性がある。ここに泊まったかどうか、確かに作家の言う通り連絡して聴けばよい。それなのに、それをしなかったのは怪しい。そもそも、電波が届いているのか怪しい。

・着信の音が鳴っていなかったと思うのに(音響から音が出ていなかった気がする。なっていたが聴こえなかった可能性もある)、作家が電話に出たのが不自然。本当に市役所から電話がかかってきていたのか?市役所から電話がかかってきていたとして、本当にそのまま女性に伝えたのか怪しい。元々、落石と言われたのに土砂崩れと伝えた可能性もあるかもしれない。
それならば、女性の目の前で電話を取ったのは不自然ではないか?
信憑性を持たせるために、目の前で電話をとった(あるいはかかってきた振りをした)のではないか。
ネタに困っていたため、クローズドサークルの状況を作り出し、何かが起こることを期待したのかも。ただし、どちらもコミュ障だったため、相手にその任を任せたため(=まにまに)、何も起こらなかった。

・作家に見えていた架空の女性は霊、だと思いたい。別に霊でなくて、本当に頭のおかしい作家だったとしても、それはそれで面白い。いかれている。(褒め言葉)

・本来原稿を取りに来るはずだった編集者は、本当に腰痛なのか?すでにこの代わりに来た女性に殺されているとかではないのか?

・女性がここに来たのは、何らかの別の事件や不可解なことを追いかけている途中で、実際はこの前後に別の物語が付随している。(だから、この一夜は何もない)

・衝立からの赤サスがあったときに、これは全て撮影か何かで、最後に「OKで~す」みたいになるかと思った。(ならなかった)

こういった可能性を一つ一つ挙げていったけれど、どれも決定打になる情報や仮説が繋がらず、その結果、「この作品は、事件が起こりそうで何も起こらない、ちょっとだけふたりの会話が盛り上がった時間があった、ただの何でもない一夜だった」という、冒頭に述べた結論を出すに至った。

それは、この作品のタイトル通り、観ている人に委ねられることで、こんな風にあれこれ想像することで楽しむということなのかもしれない。そして、それは元々タイトルに書いてあることを、数時間もかけて導き出し、私たちのやったことを含めて何とも滑稽なお話だな、と笑いながら話を終えた。
ここまで深く新津さんが考えている気はあまりしないのだが、それも含めて、深読みしたり考察したりすることが滑稽で、60分という上演時間なのに、その後も含めて数時間も楽しんだという、なんともコストパフォーマンスの良い遊びであった。


役者さんとか演出のこと


茶屋さんの、人をけむに巻くようなお芝居が印象的だった。見えない女性に向かって会話している所の感じがとても好きだった。こんなにパジャマを自然に着こなせる役者さんがいたのか、と静かに感心していた。(ベストパジャマニストかもしれない)

横川さんがとにかく独特なお芝居だった。何を思っているのが読めないところに若干のヤバさを感じた。(褒めています)ほぼ演出ガチガチのお芝居だったので、それが本人のお芝居として昇華していけたら不自然さがなくなる気がしたけれど、ここまでしっかり演出が付けられていて、演出が行き届いているのを感じた。

どちらの役も人に気を遣い合ってしまうという話をしているその会話が、まさに気を遣い合っている状態で、この滑稽さを自然につくれたのが凄いと思った。それなのに、思ったよりもふたりとも顔を見て話をしあっていたので、もう少し顔を見ない会話でも良かった気がした。同様に、初めて来たと思われる女性が家の中をほぼ気にしていない(一切家の中に興味を示さず、周りを見ない)という点も不自然な気がした。(伏線かもしれないと思っていた)

翌朝のシーンのラジオの音声で、ふたりの会話や、雨戸をあけて滝?が見えた下りの台詞が聴き取れなくて、色々考察したり話をしたけれど、それらが全て間違っている可能性がめちゃくちゃあることを心配している。

里山の家の雰囲気やそこに置いてあるものを溶け込ませた設定がとても良かった。私もその場所にあったお芝居を今後やれたらいいなと思っているので、とても参考になった。

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