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母さんにはもう僕が見えない

母さんにはもう僕が見えない

でも僕には母さんが見えるよ

兄弟たちはよく食べる

ドングリを運ぶ母さんを 今日僕は何度も見たよ


あの日の朝を僕は忘れない  母さんが僕を見つけた朝

春の陽ざしに照らされて 毛むくじゃらの寝ぼけた顔を持ちあげると

リスの母さんが立っていたんだ  ツヤツヤの黒い瞳で

不思議そうに僕を見ていた  僕の産毛の匂いを嗅いだり

くるりと巻いたシッポをたしかめると  母さんは

僕を抱っこして 巣に持ち帰ろうとした!

・・・でも できなかった  僕の体の半分は土のなかに埋まっていたから

次の朝も母さんは 来てくれた! (おかあさん・・・)

だけど僕のシッポは もう昨日ほど くるりとなってはいなかった

黄金色(こがねいろ)した ふわふわの 赤ちゃん赤ちゃんシッポは 

緑がかって筋張って・・・  母さんはあたりを見回すと理解した

    「あぁ ここは 羊歯の森だわ」

くるりと背を向けると 茶色いシッポをふさふさ揺らして 

母さんは 行ってしまった   (おかあさん・・・!)

僕はもがいた  

だらしなく伸びきった 黄緑のシッポが ぶらぁん ぶらぁん・・・


          羊歯の海の真ん中で

         赤ちゃんリスが溺れている

    お母さんはいってしまった もう行ってしまった・・・


だけど じきに 僕も忘れる

黒い瞳を 茶色い毛並みを

全身で連れ帰ろうとした 燃える意志を   ぬくもりを・・・

やがて緑色した一本の黒い波になり 黒い大地を覆うのだろう

ザワザワ風に揺れるのだろう


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