見出し画像

装画と挿絵

青山塾などで教えていると、よく装画と挿絵の違いは何ですかと聞かれることがよくあります。

もちろん、装画というのは本のカバーの絵であり、挿絵は文章の近くにある本の中の絵なのですが、役割の違いというよりは、どんな絵が装画に向いていて、どんな絵は挿絵ぽいのか、その差が何なのかというのが質問の意図だと思います。

極端な話では、特に差はないと言えるのではないでしょうか。デザイナー次第ではどんな絵でも装画になり得ますし、挿絵にもなり得ると思います。

と言っても仕方がないので、なんとかわかりやすく言おうとすれば、厳密に全部そうというわけではないですよ、どちらかといえばですが、装画は象徴的であり、挿絵は場面的なものなのかなと。装画はコンセプチュアルであり、挿絵はナラティブであるとも言えるかと。つまり、文章にある場面描写をそのまま絵にしたものは、挿絵としてはそれでいいけれど、装画にするには説明的過ぎて成立しにくいということです。

とはいえ、あくまでそういう傾向かなと思う程度です。

それで、装画を制作するときの自分の方法論について、少し書いてみたいと思います。長くイラストレーターをやってきて、その経験から培ってきたものです。

小説の装画を依頼されたときに、普通はまずゲラを読みますよね。そして、どんな場面が印象に残ったかや、小説全体としての象徴的な場面はどこかとか、こういうタイトルでこういう内容だからこんな絵が良いのではないかとか、主人公がこんな人物だから、その人をこんな大きさでこういう背景を描いてとか、なんとなく理屈で考えていくのが普通かと思います。

ただ、このように考えていくと、なかなかインパクトのある面白い装画にならないことが多いのです。自分の場合ですが。

だから、打ち合わせで綿密に理詰めでこんな要素を描いて欲しいと言われると、うまく行かないことが多々あります。もちろん、プロなのでリクエストには完璧に応えてしまうわけではありますが。

ではどうするかというと、デザインされて仕上がった本が本屋に平積みにされているところを想像するのです。まだ装画も描いていないのに、です。

その小説が本屋に並んでいるところを想像して、そこから逆算してどんな絵を描けば、その風景が埋まるか、しっくり来るか考えて絵を思い浮かべるのです。

そのためには、ごく小さいカラーのサムネールを作ると良いです。どのくらい小さいかというと、天地5センチもあれば十分でしょう。ここで大雑把な配色と明暗の配分を試行錯誤するわけです。これをいくつも作って、本屋にその本が置いてある風景を想像します。なぜ小さいほうがいいかというと、その風景の中では本がごく小さく存在しているからです。ある程度遠くから見ても目に留まるようなブックカバーと言ってもいいかもしれません。

本屋の風景でなくてもかまいません。とにかくこれから自分が装画を描くというのに、すでに本として仕上がり、目の前に置かれている姿を想像して、それをもとに描くのです。

そうすると、今自分が思っている絵が装画になったとして、読者としてその本を手に取りたいかどうか、なんとなく客観的に判断できそうではないですか?

そのためには、ゲラは全部きちんと読むのではなく、できれば編集者からあらすじ程度を聞いて、タイトルと一緒に頭に入れておき、あとは仕上がった本を想像して装画を考えていったほうが面白いものができるのではないかと思うようになりました。

そのように考えて描いた最近の装画だと、これがそうです。

画像1

あとはこれもそうかも。

画像2

まあ、支離滅裂なことを言ったかもしれません。話半分で聞いてもらえれば幸いです。

ここから先は

0字
定期購読していただくと、ほぼ全ての過去記事が読めるようにいたしました!

25年以上フリーランスのイラストレーターとして生きてきた経験から、考えていることや考えてきたたことを綴ります。海外の仕事のことや、ときには…

サポート、フォロー、コメントしていただけたらどれもとても嬉しいです。いただいた分は自分の継続エンジンの燃料として使わせていただきます。