コース論(オリエンテーリング論):理想のコースの追求
※2021オリエンティア裏アドベントカレンダー13日目の記事です。(ただただ自分の怠惰と遅筆で大変遅くなってしまい申し訳ございません。)
インカレスプリントコースの振り返り記事ではありません!コース設定の考え方という導入部で力尽きてしまいました...
期待していてくださった方々申し訳ございません!
先日開催されたインカレスプリント(ICS)2021のコースプランナーを務めた北見匠です。自己紹介は↑のコースでさせていただきます。
プランナーを務めて感じた考えをまとめ、残しておくためにこの記事を作成しました。
インカレスプリントコース設定の導入程度のつもりが、記事1つ分になってしまいました。コースの振り返りを楽しみにしていた方々にはお詫び申し上げます。インカレ報告書にまとめています。
昨年の戦術論に味を占めて、今年もテクニック集ではなく、持論を長々と書いてしまいました。内容的には競技オリエンテーリングのコース論です。副題は、理想のコースの追求(ついオリエンテーリング論まで発展させてしまった)といったところでしょうか?
持論なので、異なる意見もあるかと思います。異論をお持ちのあなたの論をぜひコメントしてください。皆の考えを合わせた最高のオリエンテーリングを追求して理想の世界に近づけたいです。
流れは、コースに必要なことを考える→オリエンテーリング論→コースに求められること→プランナーあれこれです。
オリエンテーリングの追求・発展を願って投稿したので、その一助になれば幸いです。
*このコース論は競技オリエンテーリングを追求しています。生涯スポーツ・レジャースポーツなどの観点からすると少々異なります*
はじめに
今年の4月頃にインカレスプリントのコースプランナーに誘われました。
歴代錚々たる面々(昨年の巨匠こと上島氏、一昨年の同校OBレジェンド松澤氏などなど)がインカレスプリントのコースを組んできたものを受け継ぎ、学生が本気で挑むコースを組めることにわくわく半分、インカレに相応しく満足するコースを組めるか不安半分ありましたが、わくわくが上回ったので引き受けました。
しかし、自分は大会のコースプランナー経験がありません。しかも4年生で出場したインカレスプリントはペナです。あの小牧選手は、昨年の良質なインカレスプリントを走り、「スプリントはプランナー次第」という発言を残しています。責任重大。恐ろしい。(人工柵によってテレイン自体を改変できることを言った世間話程度の意味らしいけど)
引き受けてから本番までずっと不安でした。
コースプランナーとは、オリエンテーリングのコースを設定する人です。そして、コースとはオリエンテーリングの根幹を成すものです。つまり、コースは競技そのものと言っても差し支えなく、大会の成功に大きく影響を与えます。
プランナーを務めたからには最高のコースを届けて大会を成功に導きたい!
この思いを常に持って半年ほどずっとコースを考え続けてきました。
コース設定の原則に則り、規則や以前のコースを踏まえてコースを組めばそれなりの形になります。しかし、形になっただけで止めてしまうと最高のコースにはなりません。今回、競技者・運営者・自分自身皆が満足する至高のコースを組むために、もう一歩何歩も深く踏み込んでコースを追求しました。
追求する際に自分に唱えた言葉は
これオリエンテーリングでやる意味ある?
です。ブルーピリオドという美術漫画を何気なく読んでいて、コースを組んでいた自分にドキッと突き刺さった言葉です。
ブルーピリオド7巻より
意味はそのままです。テレイン、コース回し、一つ一つのレッグ、コントロール位置、ルートチョイス、人工柵などなど競技に関わる全てを、「インカレ」で「オリエンテーリング」でやる必要性・意味を考えるということです。
オリエンテーリングとは?スプリントとは?その面白さは?自分なりの解釈は?理想は?インカレとは?誰が?誰に?誰のために?コースとは?コース設定とは?プランナーとは?プランナーとして、何ができる?何がしたい?
吟味して検証して繰り返して、最終的に選んだものがこの記事であり、組んだコースです。
追求録を順を追って紹介していきます。
競技規則類を読む
不安な若輩者を助けてくれるのはいつだって偉大な先人です。まずオリエンテーリングの定義など基本事項をおさらいするために競技規則類を読み返しました。以下、参考資料です。
JOA資料
「日本オリエンテーリング競技規則」「競技規則および関連規則類のガイドライン」「国際スプリントオリエンテーリング地図図式ISSprOM2019」「コース設定の原則」
IOF資料
「Guideline for Course Planning (Sprint)」
*参考になり過ぎてやばいです。実用的な資料です。先日茂原氏が詳しく紹介してくれました。日本語訳付きです!ありがとう!!
JOAセミナー
「良いコースを組もう」第1回「コースプランの基本」
「スプリントのコース設定」
プランナーはもちろん選手も必読の教本達です。特に「コース設定の原則」は村越氏が聖書だと認めたオリエンテーリング界の教典です。読んでないオリエンティアは過激派に異端者として狩られるでしょう。
これらを読むとオリエンテーリングの基本的かつ重要なポイントがよく分かり、競技への理解が深まります。読み合わせの機会を設けていただいた競技責任者の平山氏、横堀氏には感謝です。
中でも特に重要な項目は、コース設定の5つの大原則です。これらはコース設定時、常に頭に入れておくべき大原則です。
良いコースを組むためには、定められたこれら原則に則ることは必須です。書かれていること全てが大切なので隅々まで読みましょう。きっとコース設定の助けに、そして競技力向上のヒントになります。
コース設定のために"解釈"する
突然ですが、あなたは何を意識してコースを組みますか?
道を使わせないように、森を走るように、ミスを誘うように、ナビゲーションが難しいように、ルートチョイスが多くなるように、地図をよく読ませるように、、、
コース組みで意識することは人によって様々であり、その意識が一つ一つのコースという形になって反映されます。私は、プランナー自身の考えるオリエンテーリング論・魅力・面白さが、コース設定時の意識に現れていると考えています。その意識の違いは個性であり、コースには個性があります。これらプランナー自身の考えるオリエンテーリングの魅力によって表現されたものなので、個性そのものに良し悪しはありません。
それでは、より良いコースのためには何を意識するべきなのでしょうか?
原則規則を忠実に遵守すれば、それなりにオリエンテーリングらしいコースはできます。それでは、これら「決まり」を守って従えば誰でも良いコースを作れるでしょうか?
答えは否です。全て読んだだけの初心者が熟練プランナーより良いコースを組めるとは思えません。両者は背景知識の差により、同じものを読んでも書かれている内容を読み解く力が違います。
より良いコースにするために、これらの規則を守った上で、規則類から発展させた自分の解釈を上乗せしているのです。
規則類はそれ自体はコース設定の主体でなく、より良いコース設定へのサポートや助けとなる道しるべです。良いコースへ導く主体はプランナー自身です。どれだけ、オリエンテーリング、テレイン、大会、参加者などについて理解しているか?良いコースに導く本質はこの理解度です。
プランナーは良いコースを組むために、イベントのコンセプトや参加者のレベル、テレインなどについて理解し、自分の解釈でオリエンテーリングを紐解く必要があります。
コースという非言語の記号にオリエンテーリングの良さ・面白さを表現するのはただでさえ難しいのに、自身のオリエンテーリング像がふわっとした抽象的なものであると、表現はさらに困難を極めます。抽象的な事柄を言葉で具体化し、熟考し、理解を深めることによってはじめて理想像を表現できます。
それは、聖書を解釈する聖職者と同じようなものです。聖職者は、絶対的な聖書から神の言葉を自らの身をもって感じ取り、実感し得た自分なりの解釈で教えを説き、人々を救いに導いています。
プランナーは、規則類に書かれている事柄を、自らの経験から感じ得たオリエンテーリングの魅力を引き合いにして解釈し、それをコースに体現して競技者を楽しませるのです。
この解釈というものがよいコースを追求する手段であり、プランナー業の真髄だと考えています。小難しく書いてしまいましたがようするに解釈とは、楽しかったオリエンテーリングの経験・良さを言葉にすることです。
オリエンテーリングの解釈を深めて表現することによって、レッグに意味が加わり、コースに深みが生まれます。
より良いコースを追求した解釈録がこの先の内容です。
オリエンテーリングは方向決定のスポーツ
コースはオリエンテーリングの根幹を成すものです。では、そもそもオリエンテーリングとは何なのか?オリエンテーリングの本質を自分の経験などから解釈をすることがプランナーの仕事始めです。この問いの答え、オリエンテーリングの定義は規則類に載っています。
これら原則の定義といままでのオリエンテーリング経験から私の解釈では、オリエンテーリングは「方向決定」が最大の特徴のスポーツです。ここでいう方向決定は、直進でコンパス合わせて真っ直ぐ行くような意味ではなく、もっと広義的な、目標地点までの向かい方を定めて向かうことです。
オリエンテーリングはナビゲーションスポーツの本家とも言われています。このナビゲーションという言葉の意味自体、目的地まで辿り着くことを表しています。
目標とするコントロールまでの行程が結果を左右し、勝負を分けます。方向決定は一番重要なスキルでもあります。
「Orienteering」のOrientは、語源は「太陽が昇る」方向=東の方角の意味で、現在は動詞として「~を向ける、正しい方向に置く」など方向性を持つ意味として使用されます。
強豪国フィンランド語でのオリエンテーリングは「suunnistus」です。これはコンパス作りから創業したフィンランド発祥ブランド「suunto」と同じ語源で方向を示しています。
中国語の「定向」はそのままですね。
また、ドイツ語の「Orientierungslauf」は方向を示す言葉に、lauf=走るが加わっています。
これらはオリエンテーリング=方向決定のスポーツであることを後押ししています。
もちろん、走ること、時間との戦い、論理性、大自然、非日常、未知なテレインなども競技を構成する重要な要素ですが、競技としてのオリエンテーリングは方向決定が根幹であり、他の要素は幹を彩る花々だと考えています。花々が無くてもオリエンテーリングはできますが、方向決定なくしてオリエンテーリングはありません。
この「方向決定」は、方向を定めるプランニングと方向を維持するナビゲーションの2つの要素からなります。
プランニング:向かう道筋を定めるルートチョイス、向かう・見向く特徴物(CP,AP)を定めること
ナビゲーション:誤った方向に向かっていないか現在地の把握、正しい方向を維持すること
この方向決定の2つの要素の加減で競技形式が変わると考えています。スプリントはルートチョイスなどのプランニング重視、ミドルは方向を維持するナビゲーション重視、ロングはプランニング+ナビゲーション両重視のキングオブオリエンテーリングという認識です。種目によって求められる課題が違うことは明確にする必要があります。
JOAセミナー「スプリントのコース設定」において、尾上氏(JOA強化委員会スプリント担当)が種目の違いについて言及しておりました。それは、スプリントは新しい種目であるため、ロング・ミドルの優勝者がスプリントも勝ってしまうコースではだめで、新しい種目として相応しくないのです。
マラソンランナーが短距離走で勝ったり、平泳ぎと背泳ぎのメダリストが全く同じ選手達になったりしないように種目によって求められる課題・実力のある選手は違います。
以上より、スプリントはプランニングを重視するコースが相応しいと私は解釈しています。スプリント競技のさらなる解釈は次回書きます。
オリエンテーリングの面白さは「自由」
オリエンテーリングは方向決定をするスポーツと結論づけましたが、ではその面白さは何か?
何か面白さがあるからこそ過酷で辛いこともあるこのスポーツに嬉々として参加しています。コースの面白さは競技の面白さと同義なので、競技の面白さを知ることでコースは面白くより良くなります。
もちろん、オリエンテーリングの楽しみ方はオリエンティアの数だけあります。以下、好きなオリエンテーリング語り。
結論から述べると、私の考えるオリエンテーリングの面白さは「自由」です。
コントロールを指定された順番で回ることさえ守れば、自由な考え方で自由なルートを自由なスピードでやっていいのです。白くて平らなテレインはどこを通っても良く走る自由度が高いから好まれます。ルートチョイスが豊富だと選択の自由が増すから面白いです。レッグは自分に合った自由なやり方で攻略してよいのです。
「自由」とは、他から強制されることなく自らの意思に従って判断・行動できることを意味します。自由だからこそ自分で思考を巡らしてチャレンジする必要があります。
村越氏は、オリエンテーリングをナヴィゲーションのスポーツだとして、そのスキルの核心は、不確実性に対応するスキルだと述べています。(ナビゲーション・スポーツという視点より)
完全な自由とは決まりや制約が全くない状態を指し、これは無秩序で確実なことは一つもありません。オリエンテーリングは決められた・正解のルートがないスポーツと紹介されることがあります。確かにコントロール間の行き方の制約は少なく、コントロールを順番通り回ること以外、確実なルールはありません。コントロールが置かれていることで完全な自由とは言えませんが、制約は少ないので不確実であり、かなり自由なスポーツと捉えられるのではないでしょうか。
不確実な状況で現在地を認識するためにリロケートしたり、不確実な状態を確実なものにするためにCPを設定したりします。また、天候や他のプレイヤーも自由に動き回ることで偶発的に何かが発生する不確実性があり、競技者は競技中、常に不確実性への対応を行っています。
そして、スキルを高めて不確実性に対応できれば、選択肢が増えてさらに自由になります。
さらに、心理学者のジークムント・フロイト(1855-1939)の有名な言葉から自由の責務を考えます。
この言葉の背景として、自由な状態にいるとは自由が通用する範囲における権力、権利、権限を持ち合わせている状態を指します。「自由な」範囲において権利・権力を行使して行動することは、行動により生じる結果の全てを受け入れて負担する必要があります。自由な状況は自己判断に委ねられ、自己責任で片付けられるのです。
これが、自由には責任が伴うの意味です。責任は「responsibility」であり、起きる結果に応答・対応「Response」するというだけのことであり、この言葉そのものにはネガティブな意味はありません。
オリエンテーリングの行動では自らの選択によって生じる結果はタイムとして明るみにされます。結果が分からる前、選択する前段階では、これをリスクと言います。
前述の村越氏の記事に出てくる競技から離れてしまった女性は、この自分の判断から出たどんな結果も自ら負担して受け入れることにネガティブな印象を持っていたのかもしれません。
ネガティブなイメージを払拭すると、「自由な」範囲で全権を自由に振るえられることは魅力的です。制約がない状態で自分の思うがままに進められるのです。しかも都会の喧騒から離れた自分一人の森の中で、です。普段しがらみに囚われ、制約の多い日常生活を過ごす現代人にとって自由に行動ができることなんてほとんどありません。自由をうたうこのご時世にぴったりの刺激的なスポーツです。「自由な」範囲は不確実だからこそ、一期一会の自由な出会いがオリエンテーリングにはあります。
そして、そんな不確実な自由な状況の中、自らの意思に従って行動して生じた結果で競うのが競技としてのオリエンテーリングです。結果を全て自ら負うため、勝つためには自らの意思・判断・行動というものを生じる結果が良くなるように制御しなければなりません。セルフマネジメントです。その制御する手段が方向決定になります。その制御の仕方もこれまた自由です。制御方法の概念は昨年の私の記事のスタイルに繋がります。
自由なので、レッグ攻略において誰しもが選択すべき共通解は存在しないと考えていますが、一人一人に焦点を当てると、自身にとっての最適解は存在すると考えています。
最適解を自由な状況から独力で手がかりを見つけながら導き、自由を自分なりに制御して最適解を実行する、これがオリエンテーリングの面白さだと考えています。面白さの根幹に「自由」があるのです。
はじめに「自由」が存在し、自由を味わいたいが、完全な自由は無秩序と同じ。そこで「自由」に唯一、方向決定による制約を与えて、自由を享受する。
これが、私の思うオリエンテーリングです。
以上より、「自由」があるコースを組むことが競技者の満足に繋がると判断しました。
求められているものを理解する
オリエンテーリングがなんたるかの自分なりの答えを見つけただけではまだ足りません。より良いコースのために、オリエンテーリングそのものの解釈に加えて、求められているコース像を理解することも重要です。ニーズの理解です。良く練られたインカレに相応しい高難易度のロングコースでも、ゴツゴツのテレインの初心者クラスに提供したら悪いコースです。
そのための取り組みとしてマーケティングのようなものが求められます。
コースを組む際、熟考すべき要点は以下の4つです。それぞれ思考を重ね、意味・意図のあるコースを作成するのがプランナーの役割です。
インカレスプリントのコースについては別記事で詳細を残します。
・イベント ・参加者 ・競技形式 ・テレイン
・イベント
どんなイベントにしたいのか?
コースだけでなく大会全体で、実行委員長を中心に運営者皆で共通認識を持つべきですね。やりたいことによってテレインや競技形式は決まり、その魅力に誘われて競技者が参加します。
プランナーは、イベントのコンセプト、規模、歴史などを把握してこれらに沿った適当なコース設定が求められています。参加者・運営者・皆が満足する、イベントに合った相応しいコースです。
インカレスプリントは最も速い人を決める選手権大会と捉えて、相応しさを追求しました。
・参加者
実際にコースを走るのは参加者です。彼らが何を期待し、何ができ、何をしたいか?参加者が大会に何を求めているのか?どんなオリエンテーリングをしたいのか?
良い悪いは受け手の主観であるため、良いコースのためには競技者視点・立場でコースを練る必要があります。
参加者の経験、実力、年齢、体力などを把握し、彼らに合った難易度、距離、身体的負荷などを適切に設定しなければ、参加者の満足は得られません。
インカレスプリントの選手権クラスは学生トップが集まるので、高難易度、高負荷に設定しました。
また、試走で競技中の競技者と同じ思考をすることでコースの見え方が変わります。別の視点を取り入れるとより良くなることが多々あります。
対象者に合わせたコース設定例
・競技形式
オリエンテーリングにはいくつかの種目があり、またこの枠組みから外れて大会独自のコンセプトに沿った競技形式もあります。(百八式、旧図練など)
同じテレインでもコースによって競技形式が変わります。プランナーは開催するイベントの競技形式に熟知して理解した上でコース設定しなければなりません。
スプリントについては前述したとおり、プランニングを重視し、「高速下で、高い集中力のもと、難しいルート選択から最適解を導く」スプリントらしさをコースに体現しました。
ー競技規則および関連規則類のガイドラインよりー
・テレイン
テレインは素材です。一つ一つ異なる特徴を持ち多種多様です。素材をあれこれしてものを作りますが、その性質や形状、特徴を理解しているかどうかは出来映えに多大な影響を与えます。
そのため、プランナーはテレインを誰よりも知る必要があります。素材の活かし方はプランナー次第で腕の見せ所です。
しかし、テレインの理解に固執し続けないことも必要だと考えています。テレインはあくまでも表現の素材にすぎません。テレインを上手く使うことは目的ではなく、それは理想のオリエンテーリングを体現する手段でしかありません。ちょっとした意識の差ですが、コース組みの意識を良い方向に変えると思います。
矢板運動公園は巨大なスポーツ施設を道や生垣が取り囲む単純な構造をしていた。
これらを4つの要点を踏まえることで、適切なコースが設定できます。
話は少々それますが、私はコース設定を料理に例えられると考えています。以下の章はコラム的にお読みください。
コース設定は料理?
コースの下地となり、無数に存在するテレインは食材です。コース設定が食材の調理であり、コースが提供する料理です。
他にも、
競技規則類=料理ガイドブック(料理とは?食材の選び方、包丁の使い方、火の調整法などの基本)
過去大会のコース=レシピ(同じ食材では別の料理を作る。他食材のレシピは参考になる)
コースの見た目=料理の見栄え(走りたくなる=食べたくなる見た目)
などなどこのように例えられます。
とあるラーメン屋を訪れたという例え話をします。以前から気になっていた念願の来店、お目当ては名物・濃厚豚骨醤油ラーメン!美味しいと噂のラーメンのために遠いところから来てお腹は空き、食べるのを楽しみにしています。このお客さんはオリエンテーリングのスタート枠に並んでいる参加者と同じです。大会(ラーメン屋)の競技形式(ラーメンの種類)・テレイン(食材)・クラス(量)にそそられて参加(来店)するのです。
そして、プランナーは料理人です。最高のオリエンテーリング(ラーメン)を目指してテレインの選択(食材を選ぶ)、使用エリアを厳選(こだわりの自家製麺)し、コースを組んで(試行錯誤の調理)、コース(一杯)を提供します。料理人は、テレイン(食材)の扱い方が肝です。
いくら自分が理想とするラーメンができても、顧客は満足してなく、自己満足なら意味がありません。醤油ラーメンをうたって味噌ラーメンを提供したり、小が実は他店の特大だったり、濃厚を期待してたのに味が薄かったり、顧客が満足するかどうかは一杯(コース)にかかっています。
自分の理想と顧客の満足を両立したものを提供することがプランナーの最大の目標です。良いコースにはどの工程も欠かせません。
そして、食事後にラーメン美味しかった!(コース楽しかった!)と声かけられることが、純粋に一番嬉しく、プランナー冥利に尽きるというものです。
余談ですが、ロングプランナーの濱宇津氏も料理から食文化とオリエンテーリング文化を繋げています。この視点面白いですね。
プランナーの役割
さまざまな解釈をしてきましたが、まだまだ終わりません。
次はプランナーについてです。
そもそもプランナーという役職はなぜあるのでしょうか?
小規模な練習会では、競技責任者とプランナー(と運責と渉外担当と計セン担当...)を兼ねてやります。では、なぜ大規模な大会では競技責任者とプランナーが分かれるのでしょうか?
また、コース設定の原則をよく読むと、環境への配慮や安全対策、テレインの選定から競技成立まで網羅されており、コースの原則というより、競技の原則の方が的確な題な気がしてきます。加えて、地域社会、メディアコントロールなどの他との連携は、コースを組むプランナーだけでは背負い切れないタスクまで網羅されています。何百人規模の大会で一人で全ての規則に従って完璧に仕上げることは無理です。しかし、定められた規則通りにインカレや公認大会は開かなくてはいけない決まりがあります。そこで役割分担して任された役割を一人一人が果たすのです。分担の結果、プランナーにはコースを設定する役割が充てられています。
そしてプランナーの仕事内容の肝は、競技的な面白さを追求して自由に発想することだと考えています。プランナーは規則に従った上で、自分の解釈による理想を実現する表現者です。
自由な発想が良いレッグを生みます。初期段階では特に様々なアイデアを出すために、ガイドラインやルールの遵守を一旦気にしなくて良いです。プランナーは運営陣にこれでどうだ!と言わんばかりに自分の解釈を表現体現押しつけた面白く良質な最高で理想的な極上のコースを出すことが求めれているのです。それを受けて、競技責任者やEAが規則やルールに遵守しているか現実的に可能なのか、公平性が保たれているか理性的に判断します。感性と理性、このバランスが良いコースを生みます。
大会運営でのコース検討は、プランナーのコース案をもとに、より良いコース・競技・大会のために運営メンバー皆で議論します。プランナーが提出したコースを、競技責任者が各種決まりに準拠しているか、マッパーが地図と現地と照らし合わせて適切か、実行委員長が大会に適しているか、運営責任者は運営面で支障をきたさないか、各種パートチーフがこのコースで役割を全うできるか、EAが総合的に見て問題が無いか、そして皆でコースが面白いか、議論を重ねて判断して、調整します。
そして、皆の協力の結果、一つのコースが誕生します。
プランナーの役割に必要な精神は、Guideline for Course Planning (Sprint)のCourse planningの項目(原本は13ページ、和訳は15ページ)にまさしく書かれています。
クレイジー例(野球場に野球ボール型人工柵)
プランナー語りあれこれ
まとまりを作れなかった自由な語りです。
コースそのものは言ってしまえば、ただ地図上に並んだ記号の連続です。その記号に込められた意味が理解されることによってはじめてコースになります。
そして、デザインとは記号などの視覚情報によって本意を伝えるものです。そうするとコースは一種のデザインと言え、コースをデザインする人であるプランナーはデザイナーということになります。
デザイナーとは顧客の目的を達成するためにデザインする職業です。そこに必要なのは顧客らしさを表現することです。自分の内なる何かを表現するアーティストとは根本的に違います。そのため自己表現は必要ないという意見もあります。
しかし、私はデザイナー、少なくともプランナーは自己表現すべきだと考えています。この考えはまたまた漫画から得た気づきです。大切なことは全てマンガが教えてくれます。
要望を聞き入れるのは当たり前、そこから2段階上のモノを提示する。その2段階にプランナーの思いが表現され、価値が生まれるのです。
ファッションデザイナー漫画「ランウェイで笑って」より
これが、人がコースを作る本質ではないでしょうか?
2段階上に押し上げるための自己表現とは自分らしさを出すわけではありません。出すものは、オリエンテーリングの自己解釈です。オリエンテーリングLOVEです。オリエンテーリングの素晴らしさを表現するのです。匿名のコースからプランナーのオリエンテーリング像が想像できてわくわくするコースには価値があります。
前述の通り、私には解釈して積み上げてきたオリエンテーリング論から多数の引き出しがあります。そこから生まれた思いも持っています。その実現をモチベーションにするのは強い原動力になります。
大会のコンセプトも参加者のレベルもテレインの状況も理解して体現した上で、自分にしかできない自分の実現したい理想の世界をデザインするのが、私の思う最高のデザイナーです。そんなデザイナーが文化を発展させるのです。
そんなデザイナーが組むコースはつい走りたくなるコースです。一つ一つのレッグに意味があり、コースを通してコンセプトが設定され、面白い要素が随所に散りばめられれていて、オリエンテーリングの魅力が体現されています。そんなコースは見るだけで走りたくなります。
コースを組むとき、走りたくなるかどうかは善し悪しを考える際に有用です。
また、コースに正解はありません。
正しさをどこに置くかにも依りますが、より的確に言うと、正解が複数あると考えています。要望を叶え、自分のオリエンテーリング像まで表現したコースはそのプランナーの正解です。否定すると、プランナーが自ら経験した本物の面白さや魅力を否定することになります。実体験をもった面白さが競技者にも受け入れられないはずがありません。受け入れられない時は、自分の理想を表現することに注視し過ぎて、ニーズを疎かにしてしまっていると思われます。
考えて試して失敗してもう一度考え直して試行錯誤を重ねて繰返して、理想の表現のために論理的に理論立てられた上にコースは完成します。
これが、私の思うコース設定です。
改めて、プランナーとは?
解釈の章で聖職者と、料理の章でプランナーは料理人と、さっきはデザイナーと例えてきましたが、まだ終わりません。
プランナーは演出家の顔まで持ち合わせています。
プランナーが競技者を想定して彼らの最大限のパフォーマンスを引き出すコースを用意し、競技者は自由な解釈でコースを巡る。その走りによってドラマが生まれ、応援がそのドラマに花を添える。そんな演劇のような舞台を演出するプランナーは演出家なのです。
プランナーは、聖職者、料理人、デザイナー、演出家、それぞれの性質を合わせもちます。それぞれの一性質がプランナーを説明できます。
聖職者のようにオリエンテーリングの本質を読み解き、料理人のように素材の良さを最大限に活かし、デザイナーのように自己解釈による蓄積から要望以上の正解を導き、演出家のように競技者のパフォーマンスを引き出して、見る人を感動させる。
これが、私の思うプランナーです。
こんなプランナーを目指した記録を、コース設定実践編(インカレスプリントコース振り返り)としてインカレ報告書に簡単にまとめています。
さいごに
コース設定を語るとオリエンテーリング全体のことに波及しますね...「コース設定の原則」作成者の気持ちが分かってしまいました。
最後に、2つ語って締めたいと思います。
実は、コースを組むことがあまり好きでも得意でもありませんでした(今も得意ではありませんが)。以前は組んだコースを参加者から評価されることが嫌で苦痛でした。また、面白いコースは広大なテレインを上手く使っていることから、テレインをどう扱えば面白くなるかと地図に固執してコースを組んでいました。
それが現在では考えが変わり、好きになりました。それは、コース組みの本質はニーズを外さない範囲で自分の理想を表現することと気付いたからです。コース組みの本質はコース設定のOCAD上ではなく、日々のオリエンエーリングにあったのです。そして、コースを組む意味は評価を受けるために組むわけではなく、理想の表現のためです。オリエンテーリングのさらなる可能性を追い求めるためです。この考えを持つと評価が気にならなくなり、オリエンテーリングの追求に夢中になれました。思いに引っ張られると評価は後からついてくるはずです。
地図作成も楽しんでいるのであとは計センを楽しめるようになりたいですね。
2つ目は、スポーツクライミングの話です。
この競技のリード・ボルダリング種目には、壁を登る課題を設定するルートセッターという職人がいます。スポーツクライミングの魅力を映し出し、選手の最大限のパフォーマンスを引き出す課題設定を行うのはオリエンテーリングのプランナーに通ずるものを感じています。
スポーツクライミングは近年流行し始めた要因に、視覚的に魅力が伝わりやすい競技性が挙げられると思います。演出家のヒントはスポーツクライミングから得ました。
競技について書くと長くなるので、ルートセッターの話に絞ります。
記事を漁っているとある一節に目がとまりました。楢崎選手は日本のスポーツクライミング界を引っ張る世界大会優勝者です。
オリエンテーリングの日本と世界のテレインの差・違いはどうしようもありません。それを埋めるのはコースの質です。
コースプランナーが競技者を強くし、競技者がコースプランナーを成長させる。相互の切磋琢磨で日本のオリエンテーリング界の発展に繋げていきたいです。
そしてトップ選手だけの話ではありません。全競技者はコースを組みましょう。上の理論を用いると、コースを組むと競技力が上がり、競技をするとプランナー力が上がります。永久機関の完成するノーベル賞ものです。
プランナー視点を持つことでレッグ攻略の重要ポイントが分かるようになります。レッグ攻略のとっかかりができます。
コースを組みましょう!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。何かのお役に立ててたら幸いです。
今後も皆さんの楽しいオリエンテーリングライフが続くことを祈っております。
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