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『ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス』ピンクのカバさんとマシンガン

 さぁさぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい、楽しいショーの始まりだ! お調子者のウサギさんと可愛いプードルのコーラスガール、力持ちで優しいゾウさんの出番のあとは一座の誇る美貌、カバの歌姫によるステージをご覧あれ! 坊ちゃんお嬢ちゃんも寄っておいで!世界一のショー、フィーブルズがやってきたよ!! でも、そんなのはステージライトが付いている時の姿。薬にセックス、ゴシップに闇の取引だってしちゃうのさ。だって僕らは世界一のショー、フィーブルズ一座だからね!
 
 かつて暇を持て余した大学生だった私は、ふと一本の映画を探したことがある。まだ小学校低学年の頃、近所の友達の家に遊びに行った時に「これを見よう」と誘われて見たビデオ映画。セサミストリートのような、少し怖い動物の着ぐるみたちが暮らす世界のヘンテコなお話だった。なぜか全体的なストーリーは覚えていなかったが、ひとつだけ鮮明に覚えているシーンがあった。「ピンク色のカバの女の子がダイエットのためにジョギングをしている」シーンだ。こんな雑な検索で探せる訳がなかろうと半分諦めながらグーグルに「ピンクのカバ 映画」と打ち込んだら…………出たのだ。私はその映画と感動の再会を果たした。

 動物着ぐるみ(マペット)たちによる、ショービジネスの裏側エログロドラマ『ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス』である。

 まずこの映画、少しでも気にして映画を観る人ならば監督の名前を二度見するだろう。監督はピーター・ジャクソン、かの傑作ファンタジー映画『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの監督だ。当時の私はあの監督がこんなヤバい映画を!?と驚いたが、後にものすごい量の血が噴き出すスプラッタコミカルホラー『ブレイン・デッド』など彼の過去作を見て納得した。ピーター・ジャクソン、妥当。新人賞で華麗にデビューした漫研の先輩が在学中に描いたアングラ漫画を読んでいるような絶妙な味わいだった。
 
 さて、この『ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス』。一座の歌姫であるカバのハイジを中心に一座のメンバーの超ブラックな裏側が描かれる。登場人物は全て着ぐるみの動物たち。彼らはセックス中毒だったり薬物依存だったり、とにかく華やかなステージとはうって変わって地獄のハチャメチャ具合だ。ラストのTV生放送ショーではカメラが回る中、これまでの鬱憤を爆発させたハイジがマシンガンをぶっ放すというクレイジなーカタルシスが訪れる。めちゃくちゃになった舞台の上に一人残されたハイジは一座の唯一の良心・芋虫のアーサーに音楽をかけてくれるよう頼み、自らのヒットナンバーである「Garden of love」を高らかに歌い上げる――。
 
 ………………。
 何を考えて幼かりし頃の友人はこれを一緒に見ようと!?
 いや、それ以前にこの作品のビデオを買ったのはあの家族のうちの誰だ!? こんな内容ではまだ小学生だった私が覚えていないのも当然だ。だって何が起きてるかわからないもんね……。
 
 あまりにも謎が残る記憶だが、この『ミート・ザ・フィーブルズ/怒りのヒポポタマス』は私の人生の中で趣味嗜好の土台を構成するのに間違いなく貢献している一作と言える。そして私は着ぐるみのワタ(綿/内臓、ダブルミーニング)が飛び散る本作が正直大好きだ。これまで観た映画の中でも恐らくトップ10には入る破格の順位を付けてしまう。だってこんな映画、ほかに無いんだもの!!
 タイトルを知った後、探しに探して、どうにか渋谷ツタヤにてレンタルVHSを一本だけ見つけたのも良い思い出になった。もちろん渋谷まで出かけてレンタルし、感慨深く鑑賞した。しかし渋谷ツタヤのVHSの並ぶあの棚、まだあるんだろうか……。

 ヤバい映画との出会いはまだまだあるので、また後日他のnoteでまとめようと思っている。ちなみに本日金曜ロードショーで放送される『ジュラシック・パーク』もその一つ。幼い私に父が「アメリカでは小さい子供に見せちゃいけない映画なんだよ!」と言いながら見せてくれた映画である。尊いヤギの犠牲には痺れたものだ。

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拝啓 お父様
 貴方が見せてくれた『ジュラシック・パーク』で「逃げ惑う人間が大きな生き物に食べられるシーン」を目に焼きつけた私は、いわゆる捕食というジャンルが好きになりました。罪深い娘と同じく罪深い貴方に、これからも銀幕の幸多からんことを。 かしこ
令和になってもヘンテコな映画を観続けている娘より 

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