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『ホドロフスキーのDUNE』一緒に宇宙の夢をみよう

先日ついに『ザ・スーサイド・スクワッド』を観に行った。コミカルな絵面にしっかりとしたゴア描写、悪党どもの痛快な大暴れはもちろん、過去の辛い記憶との付き合い方やクソッタレの人生を少しだけ笑顔にする友達の存在。ピリリとした中に優しさを丁寧にくるんだ真面目な作りの映画で大満足であった。ハーレイちゃんは世界一可愛い。ショーン・ガン、やりたい放題だな!

しかし今回はその『スースク』の話ではなく、本編前の予告タイムで起きた衝撃から。…………『DUNE』ってきちんと完成する映画だったんですか!?!?(※正式名称は『DUNE 砂の惑星』)いや、完成するも何も10月15日から公開予定だし配給は我らがレジェンダリー。おまけに音楽はハンス・ジマー。な、何よ……気になっちゃうじゃん……という感じだが、なぜ私が『DUNE』の完成に対してこんなにビビっているかというと、私は『ホドロフスキーのDUNE』の世界線に生きている人間だからなのである。

アレハンドロ・ホドロフスキー。
チリ出身の映画監督で詩人、俳優もやるしタロット占いの専門家でもある多彩で不思議な面白おじいちゃん。『ホーリー・マウンテン』や『エル・トポ』など唯一無二の作品を作り続けている。『ホドロフスキーのDUNE』は彼の作ろうとした映画『DUNE』の制作過程とその企画が中止になるまで何が起きたのか、数々の関係者の証言と膨大な資料を集めて作られた「世界を変えた未完成の映画」のドキュメンタリーだ。

作中で『DUNE』のイメージを語るホドロフスキーおじいちゃんは終始少年のような目をしている。まさに夢と浪漫、それも本人は技術のある良い大人なので、行動力とある程度の資本がそれに伴っているのが何よりもすごいところだ。公式サイトを開けるとトップにある超分厚い本(鈍器?)、これが監督の描いたイメージ図と絵コンテ集めだと言うのだからたまらない。

そんな監督のパワーは世界に伝染する。スタッフとして集められたのはバンド・デシネの伝説的作家メビウス、『トータル・リコール』の脚本家ダン・オバノン、そのダンと後に出会いモンスター界のレジェンドを生み出すH.R.ギーガー。音楽を担当するのはピンク・フロイド。キャストにはサルバドール・ダリにミック・ジャガーなどなど。もうアベンジャーズとかいうレベルではない。「この映画に携わる全ての人間は魂の戦士だ。最高の戦士を探そう」と語る監督が、RPGゲームの主人公のように仲間を集めていくくだりが特に面白い。

でも、「結局のところ創作物は完成させなければしょうがない」こう思う人もきっといるだろう。それは確かにそうだ。作品は完成させてこそ作品として成立し、評価され、愛されたり嫌われたりもする。未完成の映画を語ってはたして面白いのか……。

私は自信を持ってこう言える。「面白い」のだ。正確に言うと、面白いという感情ではないのかもしれない。メビウスやギーガーの描く壮大で奇妙な宇宙船や惑星の風景を劇場のスクリーンで見る私は、間違いなくその時ホドロフスキー監督と同じ夢をみていたと思う。それはとてもキラキラして熱気に溢れた体験で、戦士として集まった人々もきっとその時同じ輝きを見ていたのだろう。だからこそなのか、このドキュメンタリーを観終わった私は「未完成で良かった」と思った。

ホドロフスキーのDUNE』は目指した作品が未完成だからこそ、監督と同じ場所から夢をみられるという不思議なドキュメンタリーなのだ。

ところで、もしかしたら『DUNE』がホドロフスキー監督の手によって完成し、公開された平行宇宙の地球もどこかにあるかもしれない。でも、そこで評判が悪かったら何とも切ない。切なすぎて私は泣いちゃうかもしれない。これは「未完成で良かった」と思う、もう一つのしょうもない勝手な理由である。

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