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『サイコ・ゴアマン』夢と浪漫は血濡れのラテックスの向こうに

 観たか観たか! 君は観たか!? 令和の世に甦りし80年代的SFスプラッターヒーロームービー『サイコ・ゴアマン』を!!
というわけで、コロナ禍の2021年夏――これだけは絶対に観に行かねばなるまいと、感染対策をがっちり固めてエンヤコラ、渋谷はヒューマントラストシネマへ行ってきた。(綺麗なガラス張りのビルの中でいつも割とえげつなく興味深いラインナップの映画が公開されている、面白い映画館だ)

 はてさて『サイコ・ゴアマン』とは何ぞやという方のために少し内容を説明しておくと、これはカナダの映像集団<アストロン6>の一人、スティーヴン・コスタンスキ監督の最新作であるヒーローアドベンチャー映画だ。ただし、ヒーローと言っても正義のヒーローではない。すさまじい破壊の力を持った残虐宇宙人とその宇宙人をひょんなことから支配下に置いてしまった超スーパークレイジー少女・ミミちゃんの物語だ。

 詳しいストーリー解説などは公式サイトで読んでいただくとして、この映画の何よりも特筆すべきポイント、LOVEに溢れた点はなんと言っても宇宙人たちの「ガワ」!

 まずは地球で覚醒したサイコ・ゴアマン(徹夜のミミちゃん命名、略してPG)を正義の名の元に亡き者にしようとするガイガックス評議会。画面にババーンと映し出される8人、蛇面にサル面、ズル剥け脳みそなど超個性的宇宙人の皆様の図はちょっと豪華すぎる。天下の東映特撮映画でも一作にオリジナル怪人が8人出てくることとか、あります!?
 それだけではない。中盤にはPGのかつての部下「暗黒の勇士」がこれまたババーンと5人登場する。しかもその中の一人、極東特撮システムからやってきた(何だそれは)ぎょろ目のウィッチマスターは日本語を喋る。しかも声を担当するのは『嫌われ松子の一生』や『渇き。』にも出演していた黒沢あすか女史……もう情報でお腹がいっぱいである。ちなみに私のお気に入りは、白骨死体満載の歩く酸性ゴミ処理釜デストラッパーくん。ネジ巻きで歩くオモチャがあったら絶対買っていたと思う。それくらいキュートだ。

 10体以上の宇宙人スーツがこの映画だけのために作られている異常事態、ガワ好きにも自信を持ってオススメできることがよくわかる例と言えよう。キャラクターデザイン担当のアウレリオ・マッツァは、参考にしたクリエイターに雨宮圭太と永井豪を挙げているのもグッとくる。しかしこの執念、この愛の深さよ……。

 端から端まで監督の好きなものが詰まったこの『サイコ・ゴアマン』、私が特に評価したいのはまさに「特撮」、しかも80年代的なVFXだ。 上記した宇宙人たちのスーツの他にも、チョイ役で登場するミニサイズ宇宙人はストップモーション、マスコット的存在となる脳みそアラスターくんはパペット撮影かな? 血肉をまき散らして崩壊する人体はラテックスの特殊メイク、おまけに放たれる光線はスぺシウム光線でおなじみオプチカル合成をデジタルで再現! デザートとオモチャまでついた完璧なお子様ランチを大真面目に、愛を込めて作った映画、それが『サイコ・ゴアマン』なのだ。

さて、こんな映画を作ったスティーヴン・コスタンスキという男、何者なんだろうか? パンフレットで経歴を見てみると……な、なななんと特殊メイク・造形アーティストとして『クリムゾン・ピーク』、『スーサイド・スクワッド』に加えドラマ版『ハンニバル』にも参加しているとな!? 何を隠そう、私はドラマ版ハンニバルがどうしても見たくてスターチャンネルを契約した女である。めぐりあい宇宙。ごん、お前だったのか…あの華麗なる死体を作っていたのは……。

 「本作は、80年代と90年代の低予算ジャンル映画への私の愛情から生まれました。」コスタンスキ監督はこう語っている。愛を語れるのは少年少女だけじゃない。大人だって語って良いのだ。むしろ少年少女の心を持ち続けた大人が作り上げた愛と夢がこの世で一番面白いまである。
 血糊に濡れたラテックスに浪漫を感じる、80年代特撮映画好きの地球人の諸君。絶賛公開中の『サイコ・ゴアマン』を観に行っておくと、ハチャメチャで世も末な2021年がちょっとだけ楽しくなること請け合いだぞ!!

ちなみにこちらはコスタンスキ監督の過去作で、日本公開もされたSFアクション映画『マンボーグ』。製作費は日本円で約8万円也(!?)。
https://www.amazon.co.jp/dp/B00I5VV618/ref=cm_sw_r_tw_dp_X08GFMC3X2B2KDNBA4XW



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