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白川郷から考える未来

―中尾
今日は、白川郷でのSDGsスクールのお話を聞かせていただけますか?

―澁澤
白川郷自然学校は今年から始めた企画なのですが、世の中は今SDGsですよね。
この番組でも取り上げましたが、それを大学生たちに白川郷で、体験をしながらSDGsの深い部分、何を考えて何を伝えたいかを理解してもらおうということで始まった、体験型の自然学習です。

―中尾
応募して来られた学生さんたちは都会の方たちですか?

―澁澤
30名弱なのですが、何をもって都会というかと微妙なところがありますが、都会の大学に通っている人たちです。

―中尾
基本的には、参加したいと自らやってきた人たちですよね。

―澁澤
そうですね。白川郷に観光だけで行くのはつまらないし、ちょっとためになって、将来就職するのにすこしでも有利になるとよいなあという気持ちはあるのかもしれません。

―中尾
トヨタが行っている事業ということもありますしね。

―澁澤
トヨタが持続可能な社会をどう考えているのかを理解したいという人もいると思います。

―中尾
全員大学生ですか?

―澁澤
社会人も2~3人いましたが、基本的には大学生です。

―中尾
どんなことから始めるのですか?

―澁澤
二泊三日のスクールです。最初の日は自己紹介、私の座学での講座があります。参加者に一人、一品ずつ自分の長く使ってきているものを持ってきてもらって、その紹介を兼ねながらお互いが何を考えているかとか、どういう環境で育ってきたかを共有します。
二日目は、白川郷の世界遺産地区をフィールドワークとして歩きます。そこで、地域の景観や地域の暮らしを守っている地域のリーダーの大人の話、それから、地域の景観を次の世代につなげたいと思っている、そのリーダーの下で実際に活動している20代半ばから後半の地元の若手の人たち、それからそこに入ってきている大学院生たちのような外から来た研究者の人たちと実際に話をしながら少しリアリティをもって、尚且つ合掌集落の階段を上がった、かつて蚕部屋だったところで、そういう話を、周りの風景を見ながら、そこを抜けていく風を感じながら、体験します。
三日目は、体験したことなどをそれぞれ発表したりまとめ合ったりして、お題としては、あなたたちがこれからこの村に70年間住むとしたら、どんな住み方をしますか?あるいは住めないですか?というような仮題みたいなことを事務局が出して、それに対してお互いがディスカッションしていくというプログラムで行いました。

―中尾
結果は、どうでしたか?

―澁澤
最初の日は、都会からバスに乗ってやってきて、見渡す限り山の中で、娯楽施設はほとんどないし、アクセスも鉄道がないのでバスしかないし、バス停からスクールまでも迎えに行かないと足がないというところです。
自己紹介では、白川村はとても興味はあるし、景色は良いけど、こんなところには住めないなと、ほぼ全員思っていました。

―中尾
その人たちが、その風景になじんでいくわけですよね?
3日間くらいではそんなになじめないかな…

―澁澤
最初の日に出す命題が、地球環境の話をしますよね。そんなことを言われなくても知ってるという感じでした。
キツネラジオの中でも話したようなSDGsの話です。今の大学生たちは、就活に必要な知識として、SDGsのことは学んでいます。
さらに、白川郷で続いてきた暮らしの話をします。実際、ついこの間まで自然の成長量の中で生活が行われてきました。それは単なるシステムではなくて、人々のものの考え方だとか、自然に対する見方だとか、世代間の教育だとか、いろんな形で今の白川郷には、持続可能な暮らしの証拠や痕跡が、たくさん残っているので、そんなことを見つけながら、持続可能社会での暮らしというのはどういうものか、実態に触れてみてください。その中に入ってみてくださいというのが、初日の私の講義です。
二日目は現場に出て、実際にいろんな人たちに会うわけです。実際にあってみると、景色とか風が伝わってくる感覚とかあるわけですが、最初はまだ自分事にはならず他人事です。旅行者気分ですね。
そこで、先ずは、合掌集落の中で私と同じ世代・60代後半くらいの人たちの話を聞きます。彼らは、世界遺産になる前の世代、自分の親とかじいちゃんとかが、どんな大変な思いをして、どんな寒い思いをして、どんなつらい思いをしてこの集落で頑張ってきたかを知っています。そして、じいちゃんたちにとって大切なものは何だったのかを身をもって知っている世代の人たちです。ところが世界遺産になって沢山の観光客が来て、お金ができて、豊かになって、だけど大切なものは残さなきゃいけないと思っている世代の人たちとも言えます。次にその下の、世界遺産になってからが自分の知っている白川郷で、自分の稼ぎ場所としては良いところに生まれたと思っているけど、観光客が何を望んでこのお金を落としてくれるのかということを親の世代から聞き出しながら、自分たちの価値観を作っていこうとしている世代。そういう人たちと一緒に草取りをやったり、ごみ拾いをやったり、同じ目線で作業をしたり、同じ目線で動いたりしながら話を聞いているうちに、だんだん馴染んでいくわけです。単なる目と耳からだけの情報ではなくて、自分の五感を全部使いながら白川郷になじんでいくと、最初はこんなところでは暮らせないと思っていた子たちの中に大きな変化がでてきます。自分たちは全部価値をお金で考えてきたけど、それよりも人のつながりが重要だと思っている人がいる、あるいは自然に生かされていることが重要だと思っている。
そこで、彼らに最初のプログラムを思い出してもらいます。昔から長く使っているものを持ってきてもらったけど、あなたたちが長く大切に使っているシャープペンシルがありますよね。あの時、文房具屋で買えば500円だったけど、あなたたちが説明してくれたのは500円とはまた違う価値の話をしましたよね。あなたたちもそうやってお金以外の自分なりの価値というものをちゃんと持っているじゃないですか。それと同じことです。自分の生まれ故郷の自分の育ったところの景色とか、面々とつながった歴史みたいなものに、お金では買えない価値を見出して、まちづくりをしていこうという彼らの気持ちと、実はあなたたちの気持ちはそんなに遠くないですよねということを話すと、どんどん気づきが出てくる。そこで、学生たちの意識が変わっていきます。それは白川郷に対しての意識だけではなくて、今自分たちが普通の暮らしだと思っている都会の暮らしについても、便利でモノが豊かなことが当たり前だと思っていて、それが人生の原点として考えていたけど、それが原点ではないのかもしれないと気づき始める。そのへんが大きな変化だったと思います。

―中尾
自分のことに置き換えることができたのですね。相手の思いに重ねられたってことですね。

-澁澤
そう、自分ごとになったということ。体験を通さないと、人間は自分ごととしてなかなか理解できない。本を読んだだけではなかなかそれは自分ごとにできない、人間はそういう生き物なのだと思います。

―中尾
風が変わるとか、風景が変わるとか、やはり五感ですかね。

―澁澤
冷房のないところなんて、こんな暑い日は暮らせないと思っていた子が、合掌集落の2階で風が抜けていくとこんなに気持ち良いのかと気づくのです。温度ではなくて、気持ち良さというものを感じる。

―中尾
ここなら暮らせる…ってことかな。

―澁澤
ここなら暮らせる。こんな人たちと一緒なら暮らせる…と思えてくる。

―中尾
そうですね。自分の周りではそんな風に言う人はいなかったのでしょうね。

―澁澤
誰もいなかったです。
たぶん、SDGs?なにそれ…とか、なんかどっかのアイドルがそんなこと言ってるけど、私たちには関係ないよね、とか言っている友達が圧倒的に多かったと思います。
そんな中で自分は旅行のついでだったかもしれないけど、何かを学ぼうと、とりあえず一歩出てきたわけです。

―中尾
最初の一歩ですよね。その30人くらいのうち、どのくらいの人が、これはやらなきゃ、ここで住めるかなと思われたのですか?

―澁澤
明日からでも住みたいという子が2人。やっぱり絶対無理だと言った子が二人。
後残りはモヤモヤしていますね。もうずっと続いている毎日の日常の延長に未来があると思っていたけど、違うのだと。

―中尾
心に引っかかりができたってことですよね。それはとても大きな一歩ですよね。

―澁澤
とても大きな一歩です。彼らの時代が実際に持続可能な社会を築いていく、まさに主役になる世代ですから、それを頭ではなくて、自分の体で考えることができたのはとても大きな経験だと思います。

―中尾
SDGsスクールは何回くらい続くのですか?

―澁澤
4回シリーズの今回は1回目なので、たぶん4回目くらいには劇的に変わると思います。

―中尾
楽しみですね。その頃またお話を伺いたいと思います。

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