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素敵な空間で教えてもらったこと 私は何にお金を払うのか

いつもお世話になっている富士宮の「gallery&cafe 日・吉」さんが立ち退きのため今月をもってしばらく休業されると言うことで、慌てて伺ってきました。

gallery&cafe 日・吉は本当に大好きなお店なのです。お店が紡いできた月日に対し私はにわか者ではありますが、でも本当に好きな場所です。訪問するとどんなときも心が和みます。置いてある物も空間そのものも、全てが素敵で、どれもこだわりが感じられるものばかり。作家さまのこだわりや選んだ方のこだわりです。この場所で出会い、我が家にお迎えした器やアイテムはどれも大のお気に入りで、今だって眺めるだけで幸せな気持ちになれるくらい、日々の暮らしにときめきを与え続けてくれています。

少々おこがましいのですが、gallery&cafe 日・吉に幾度も通う中で私が感じたことを、感謝の気持ちを込めてここに綴ります。

空間から伝わってくる

温かみのある空間に、趣のある調度品。並んでいる品々は陶磁器や漆、ガラス、かごやバッグ、アクセサリー、生活雑貨と様々なのですが、そのどれを見てもきっとオーナーさま自身が心から良いと思われたものなんだろうな、ということが感じられます。「良い」と言うのは何だか曖昧すぎるかもしれません。うまく言葉にするのが難しいですが、お店の空間から、作家さまや作品に対する敬意が、共感が、伝わってくるように感じるのです。

初めてgallery&cafe 日・吉に伺ったのは、私が器を集めだした初めの頃です。当時の我が家は実家から持ってきた器が少しあるだけでした。盛り付けに興味を持つようになって、器に拘りたくなって、探していくと個人の作家さまの作品に心惹かれ、追いかけるうちにgallery&cafe 日・吉に出会いました。

私が器に興味を持つようになって最初に思ったことは、あえて正直に申しますと「器って高価だな」です。
けれども探すうちに心から気に入る器と出会い、心底これが家に欲しいと思い、そして家で使うようになって、その価値がよく分かるようになりました。
お気に入りの器があると、お料理も盛り付けもますます楽しくなるし、食事の時間や家で過ごす時間の満足度が全く違います。特別ではない普段通りの毎日にときめきが散りばめられるのです。付いている値段が高くても安くても、そう思わせてくれるものには尊い価値があると私は感じます。

私は何にお金を払うのか

作家さまが作品を作り上げる工程には、きっと大変な作業や地道なことがたくさんあるのだろうと素人ながら想像します。何事も完成するまでの過程こそがきっと一番大変です。一方で、いざ作品を目の前にすると「可愛い!」「綺麗!」「素敵!」とただただ感嘆するばかりです。ひたすらに魅力的で、いびつささえも美しいと感じます。そしてその美しさには、それだけで心を打たれます。
きっと信念を持って作られたものに宿る美しさなのだと思います。

私が作品を購入するのはもちろん、純粋に欲しい!と思う”欲”に他なりませんが、同時に作家さまやその作品に対する敬意の気持ちでもあります。そして大変差し出がましいですが応援の気持ちでもあります。もちろん私にできるささやきな範囲ではありますが。
これにお金を払いたい!と思うのです。gallery&cafe 日・吉ではそんな出会いがいくつもありました。だからこそ「とりあえず」と妥協して買い物することはなくなったし、結果私の生活は豊かになりました。ここで言う豊かというのは、持っているものの値段とかそう言うことではなくて、日々の生活の中に幸福が増えたということです。
食器棚にはお気に入りが並び、自宅兼教室であるアパートの小さなワンルームも自分なりに心地よい空気が流れるようになりました。

作家さまの作品に対して思うのと同じように、gallery&cafe 日・吉にはこのお店で購入したいという気持ちがありました。この空間を尊敬していました。
私の中には、gallery&cafe 日・吉の空間に感化された部分が絶対にあると思っています。素敵な空間の中で、数々の宝ものとの出会いがあっただけでなく、他にも多くの気付きや自分の軸となる考え方を教わったように感じます。

言葉は見つからなかったけれど

最後の訪問では、以前から素敵だなと思っていた桜で染められた手織りのティーマットとコースターを。そしていつか買い足したいと思っていた木の六角盆を購入しました。他にもイタリア製グラスや、オーナーさまが以前プリン作りなどに使われていたという耐熱ガラスカップなどを最後の特別な価格でお譲りいただきました。(よく見ると裏面に一つ一つ違う番号が付いていて、見えない部分なのですが何とも味があって惹かれるのです。)パスタなどおまけまで下さいました。

いつも優しくて温かいオーナーさま。フライヤーを快く置いてくださったり教室のことも応援していただいていました。オーナーさまにお会いしてほっと心和むのも一つの目的でした。休業されるのは立ち退きのためということで、こんなにも素敵な空間なのにもったいない!と私ですら叫びたい気持ちでした。

寂しく思っていることと、また新しい場所でお店をオープンしたらぜひ連絡が欲しいということをお伝えしました。するとオーナーさまは「12年かけてここまで作り上げた空間だから、また一から作るのはなかなか難しいかもしれない。」と仰いました。何かうまいことを言って差し上げたいと思ったけれど、手放さざるを得ない切なさを考えると、私にはかける言葉を見つけることができませんでした。

例え空間がなくなってしまっても、gallery&cafe 日・吉の空間から受け取った何かが、私の中の一部となって、私の生活の中に根付いています。私だけでなく、他にも多くの人の心の中に、それぞれの形で日・吉が生きていると思います。

今は、我が家にお迎えした器や小物を大切にしながら、私も自分の教室の空間を育てていきたいと思いますし、次にお会いする機会ができたときには、敬意と応援と感謝の気持ちを持ってまた伺いたいです。


料理教室 季と和
五十嵐理子