LUSH/華やかなものづくりの背景にあるもの
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LUSH/華やかなものづくりの背景にあるもの

キテンのコラム

日本の生活道具である「風呂敷」が、「Knot Wrap(ノットラップ)」という商品として販売されているのをご存知ですか?その中には、ふくしまオーガニックコットンプロジェクトで育てられたコットンを使用したものがあります。

Knot Wrapを販売しているのは、イギリス発祥の化粧品メーカー「LUSH」です。今回は、LUSHとふくしまオーガニックコットンプロジェクトの出会いとLUSHのバイイングポリシーについて、バイイングチームの細野隆さんと黒澤千絵実さんにお話を伺いました。

― LUSHとふくしまオーガニックコットンプロジェクトが繋がったきっかけについて教えてください。

黒澤LUSHではチャリティポットというハンド&ボディローションを販売しているのですが、この商品の売り上げは、消費税分を除いて全て草の根団体への寄付に充てています。2014年に、寄付団体としてNPO法人ザ・ピープル*1さんから申請をいただきました。ピープルの事業の一つだったふくしまオーガニックコットンプロジェクトに興味を持った私たちは、代表の吉田恵美子さん*2に本社に来ていただき、動画などを見せてもらいながら福島の話を聞かせていただきました。吉田さんの熱い語りが今でも印象に残っています。
それをきっかけに、福島産のコットンでKnot Wrapを作ろうという話が持ち上がりました。それまでインド産のオーガニックコットンや、リサイクルポリエステルを使ったものは商品として既にあったのですが、やはり日本国内の素材を使いたいという思いを持っていました。」

細野「福島県のいわき市で、“市民が主体となって栽培しているコットン”というのがバイヤー的に面白かったんです。これは是非LUSHで扱いたいなと思いました。」

黒澤「2015年のホワイトデーギフトとして第一弾を発表しました。福島やいわきを象徴するようなモチーフをデザインにして、ナノハナとコットンフラワーの二種類をアジア限定で販売しました。初めて顔を合わせてから、半年ほどで商品化出来ました。」

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細野「2017年には大判のKnot Wrap(Mixed fruits、Koi)をグローバルで販売しました。それまで2〜3千枚だった生産量が一気に5万枚になって、作る過程は大変でした。けれど、本社があるイギリスをはじめとし、世界中に福島のオーガニックコットンを知ってもらう良い機会になりました。
2018年からは、スプリングシャドウとシーブリーズという二種類の手ぬぐいタイプを定番商品として販売しています。こちらはLUSHのオンラインストアでも購入することができます。」

*1:福島県いわき市で古着のリサイクル事業を行っているNPO法人。
*2:NPO法人ザ・ピープル理事長/いわきおてんとSUN企業組合代表理事。ふくしまオーガニックコットンプロジェクトの発起人。

― 海外での販売の反応はいかがでしたか?

黒澤「想像していた以上にインパクトが大きかったです。Knot Wrapは販売スタートから今年(2019年)で10年が経ち、先日それを記念したトークセッションがイギリスで行われました。世界中のストアマネージャーが集まった中で、バイヤーやデザイナーと一緒にこの10年を振り返りました。そこで、ふくしまオーガニックコットンプロジェクトのコットンを使ったKnot Wrapが、LUSHグローバルの歴史の中でも大きな意味を持っていることを再認識しました。これまでも数多くのKnot Wrapを作ってきましたが、元々日本の文化である風呂敷を、素材そのものに意義がある福島のコットンで作ったということに大きな価値を感じてくれているようでした。
今現在も、これまで使ってこなかった素材やアイディアが次々と生まれています。そのきっかけとなったのは、間違いなくふくしまオーガニックコットンプロジェクトです。だからこそ、この繋がりをコットンだけで終わらせたくないと思っています。」

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― 福島のコットンがKnot Wrapの新しい展開のきっかけになっていたというのはとても嬉しいです。2015年の商品化は復興支援の意味合いも大きかったのではと思いますが、現在に至るまで継続したお付き合いが出来ている理由は何なのでしょうか?

細野「ビジネスに対する考え方が、同じだったからではないでしょうか。東日本大震災後、いろいろな場面でLUSHとしても復興支援をやらせていただいたのですが、当時の僕らは行き詰まりを感じていました。大変な思いをしている人たちと、それを助けるスーパーヒーローのような関係性になってしまうことに抵抗があったんです。運命共同体として、同じ目線でビジネスを戦えるパートナーを探していたので、ふくしまオーガニックコットンプロジェクトとの出会いは衝撃的でした。
LUSHが環境配慮型の企業であることは間違いないのですが、我々が“地球を守る”とかそういう立場ではなくて、ビジネスとして環境と関わりながら、自分たちに出来ることを一生懸命やりたいんです。そういう価値観を酒井さん*3は持っていました。変にお情けにすがるのではなく、いわきからかっこよさを発信していきたいという思いがすごく伝わってきました。かっこよくなくちゃ売れないっていつも言ってるし(笑)。でも本当にそうで、「かっこいい」は主観的なものだけど、そういうものが次の世代やその次の世代に伝わっていくために大切な要素なんだと思っています。

*3:酒井悠太/株式会社起点代表取締役。2014年当時は、いわきおてんとSUN企業組合のスタッフとしてKnot Wrapの開発に携わった。

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― LUSHでは一般企業のCSR(corporate social responsibility / 企業の社会的責任)部門として行っているようなことを、企業全体で取り組んでいると思いますが、バイヤーの目線として特別に意識していることなどはありますか?

細野「僕たちに期待されていることは、環境問題などへの問題意識をマーケットの中に落としこんで、それを売れるものにして循環させることだと思っています。行政がいろいろなしがらみによって出来ていないことを、自分たちがビジネスとして取り組むこと。これは、LUSHグローバルのバイイングチームの考え方に影響を受けています。様々な部署からたくさんの意見が出ますが、そこは「徹底的にビジネス目線で考えなければいけない」と常々言われています。
現在、LUSHではこの考え方を、リジェネレイティブバイイング(環境再生型購買)と呼んでいます。サステナブルはよく聞くようになりましたが、(例えば)農業だったら、ある土地で毎年同じ作物を作り続けることができる一方、その環境がダメージを受け続けているという場合もあります。環境のことを本当に考えるのであれば、サステナブルだけでは足りなくなってきているんです。
リジェネレイティブバイイングは、一つの農作物を作ることで他の生き物や植物が再生的になるような行為をして、そこから生まれた生産物を使いましょうという考え方です。人の活動以外にも目を向けて購買方法を考えていかなければならないんです。」

黒澤「最近は、鳥の視点を借りて『渡り鳥プロジェクト』という取り組みも始めました。環境問題は地球規模で起こっているのに、人間は自分たちの社会だけで問題を解決しようとしています。でも、地球は人間だけのものではなく、多くの生物が生きていています。彼らにとっては人間社会の利害関係などは全く関係ありません。でも確実に被害は受けています。私たちは生物学的な視点で、この問題に関わることにしました。
今、生態を調査しているのは、サシバという渡り鳥です。春夏に日本で卵を産んで、秋冬はフィリピンへ移動する鳥です。日本にいる間に個体数が減ってしまうのですが、その理由は日本の中山間地域での農薬使用による餌となるウサギや蛇が激減していたことでした。私たちは日本列島のサシバの移動ルートを調べて、そのルート上で専門家の方々やその地域の方々と一緒にサシバが暮らしやすい田んぼ作りを行っています。そこで生産されたお米をLUSHが買って、米粉にしてスクラブにしたり、米ぬかを使ってパックにしたり、藁を足袋にしたり。それでも経済的に合わないときは畦道の花を採取して何かに使ったりとか。」

細野「その農地に持っているものの中で経済価値を高められるかを常に考えています。日本人がお米を食べる量が減ってきているので、お米そのものを売るだけでは続けていけないんです。化粧品に加工するなどして、多機能性を持たせて資材を増やしているところです。」

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― そこまで深く考えて行動できるモチベーションは何なのでしょうか?

細野「今は嘘でかためた商品を作っても消費者が気づけてしまう世の中です。これは本当に環境のためになっているの?という感じで、企業やブランドに対してだんだん懐疑的になってきている気がします。自身が買って使っているものであれば尚更だと思います。その際の明確な指標として、サシバという動物にとっての生息環境を豊かに出来ているんですよと示すことが出来れば、それまでぼんやりとしていた“環境に優しい”っていうイメージがはっきりと伝わるんじゃないかなと考えました。
これからは誰がどのように作ったのかということを、論理的に見せていくことが大事になると思います。LUSHは原料を仕入れ、加工して売っているので、それらを実践しやすい会社です。私たちの取り組みを知って、同じような考えを持ち、行動していく企業が増えていくと嬉しいですね。」

― 特定の地域で自分たちなりの指標を見つけ、さらに具体的なアクションを起こしながらビジネスに繋げていくという一連のプロセスはとても興味深いです。LUSHに倣って、個人や団体などの動きが増えていくと、いずれは大きな変化が生まれていくかもしれないですね。

細野「日本は環境に対しての循環性が元々高い国なんです。一つ一つの集落に歴史や文化がまだまだ残っています。なので、地域の人がその地域の循環性をより高めるために行動することが重要だと思っています。ふくしまオーガニックコットンプロジェクトがいわきを拠点にしていることもそうですよね。
環境問題の多くは、近代の急激なライフスタイルの変化が原因です。だからと言って、問題解決のために大きな変化を急に起こすと、また歪んで別の問題が生じます。地域の中の文化や伝統をきちんとリスペクトして、それに対して自分たちの世代で何をやるか、何が出来るかを考える、そんなサイズ感が良いのだと思います。
スプーン一杯分の土には世界中の人口を超える微生物が生きているそうです。地域を対象にするということは相当大きいけれど、スプーン一杯からなら始められそうな気がしませんか?もちろん僕らだけでは出来ません。同じように考える人たちと出会い、繋がることが大事ですね。」

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― LUSHはCSRという言葉を使っていませんが、あえてお二人にとってのCSRとは?を聞かせてください。

細野「目の前の物事をどれだけ自分事に出来ているかを測る“ものさし”だと思います。会社を出たら僕も一般市民の一人です。会社ではオーガニック野菜を使っているけれど、家に帰っても同じくオーガニックの食材を積極的に買おうと思えるか。それは、会社の仕事をしているときにどれだけ自分事として考えられているかで大きく変わってくると思います。」

黒澤「同じような質問で、エシカルって何ですか?っていうことをよく聞かれるのですが、『良心』だと思っています。企業が持つ良心と個人が持つ良心が繋がるものだと思うんです。作る人と売る人と買う人の良心を繋ぎ合わせるものと言えば良いでしょうか。本来はそういうものなんじゃないかなと思います。」

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ー 今後、ふくしまオーガニックコットンプロジェクトとLUSHの理想的な関わり方の形はありますか?

細野「コットンを使うことで、より多くの人々へ起点*4のことを伝えていきたいと考えています。バイヤーとしては、1ヘクタールあたりの経済価値をもっと上げていきたいです。起点のコットンや枝などを、もっと高く買い取れるような使い方をしていきたい。一緒に研究もしたいですね。」

黒澤「風呂敷や手ぬぐいだけでなく、生地や織り方を変えて、これまでとは違ったパターンを展開できるといいなと思っています。起点の商品としてLUSHに置かせてもらえたらすごい嬉しいです。おてんとSUNから起点へのリブランディングじゃないですか。それに合わせて私たちもリブランディングをしていきます。」

*4:いわきおてんとSUN企業組合のコットン事業部を前身とし、2019年に発足した株式会社。ふくしまオーガニックコットンプロジェクトで栽培した綿花を使い、製品の企画・開発・販売を行っている。2020年からは、自社管理圃場において綿花の栽培をスタートした。

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LUSHの魅力はその商品だけに留まらない。原料を支えるバイイングチームの志の高さをはじめとし、商品の出口であるストアに立つスタッフに至るまで、彼らの情熱やホスピタリティは、いちサプライヤーである私たちの心をいつだって高揚させてくれた。
結局のところ、ものづくりの背景にある真髄は「人」だ。東日本大震災後の出会いから、いわき市に限らず、常に福島に寄り添い、時には友人のような付き合いを持たせてくれた彼らに、これからは”頼れるビジネスパートナー”として少しでも恩返しをしていきたい。

※本インタビューは2019年に行われたものです。
聞き手・編集:木田久恵
校正・文責:酒井悠太
キテンのコラム
株式会社起点です。http://kiten.organic 福島県いわき市を拠点に、在来種の和綿栽培とオーガニックコットンのものづくりをしています。 私たちが育てている綿花、それを使ったものづくり、それらに携わっていただいている人たち、その他日常を徒然と綴っていきます。