見出し画像

大晦日108句チャレンジ2023-2024

画竜点睛ゆく年の硝子戸に雨

古日記燃えゆく甘き香を残し

どれだけ愛したつてせいぜいはつゆき

死ぬときの飾りはきつと冬の月

去年今年などと小石を蹴り飛ばす

帰り花てのひらに汝が香は残り

サファイアの裸眼を洗ふ寒さかな

しろさざんくわ自涜はいつだつて習作

いたずらな右手左手ふゆがすみ

いもうとの押し花かろし冬銀河

八王子千人同心に雪重たい雪

臘日の弔ひ盆の窪浅く

甲板の鳴くや玄帝触るるたび

山茶花さざんくわ夜道まつすぐならざるを

broken tongue 水仙散りながら

雪ぐもり太き脈動くちびるに

どくどくと精の苦みよ寒昴

あな冬夜みかんアイスで口嗽ぐ

青痣が眠たい冬の月にゐる

冬鷗さながら疵に添ふごとく

雪の夜の宛名は鏡文字になる

足跡をぼんやり忘れ来て氷湖

寒鯉の額揺るがぬ雨の奥

鑿置けば木屑あかるし良弁忌

ひらかれた鎖骨にストーブがうるさい

なめらかなことばで騙す蕪漬

まぐはひをしづかな雪と言ひ換える

頰寄せて鳥の忙しき年の宿

雪もよひ膚に馴染む半貴石

耳たぶにしまふ囁き冬菫

餅搗けば信濃にながき午後三時

注連飾る影より夕の極まれり

三冬月言ひ訳を言ひ忘れてゐる

束ね髪ときどき震へ雪女

寒を歩く鳩や翼に夜を潜め

みぞおちに砕氷船の近づきぬ

寒紅の頰を拭つて夜の深さ

はぐれないやうにくちづけ暦果つ

煮凝や上目遣ひは見られるため

頰杖のあなたの海へ寒卵

少女らの橇を見送る眼で笑ふ

掃除機のヘアピン吸ふて悴めり

嘘ともども毛布は劣情をゆるす

目隠しの愁ひを舐めて雪時雨

ポケットに砂のかなしく大枯野

懐手して足指でもてあそぶ

うたた寝を醒めゆくやうに湯豆腐は

鍋焼饂飩ひたひたとほくそ笑む

口塞ぐ白息ひとつ漏らさぬやう

竹馬よ肉の震への悦びよ

給油口なまあたたかき大晦日

風ひとつ骨をなぞりて年の空

喪ひし眼をして飾売帰る

夜から夜へ水さらさらと年籠

焦り嫉みゆるゆる晦日蕎麦啜る

QRコードみたいにのつぺ汁

秒針と鼓動の揃ふ夕焚火

瞳孔の凹みに凍鶴の残る

fallin’ fallin’ 木菟が近い

雲捏ねたやうに鼬の眠りかな

消炭にあらゆる白を越えた白

雲腸やあつさり滅ぶ人の貌

火の痕をゆつくり鎮めアノラック

外套の裏地に甘きこゑのあり

おれがゐない静寂だ手焙のえいえん

裏路地に叱られてゐる雪兎

人間を置き去りにして冬夕焼

手鏡のふちの濁りも去年今年

しんしんと読経のあをし除夜詣

年越の祓に背骨から眠い

血管を流れ煮しめと熱燗と

大歳の火の粉に横貌の歪む

年の湯に虚ろな人中のありぬ

痺れゆく頭蓋の芯や世継榾

発熱のひとをおもはば寒昴

白鳥の夢を違へてうす暗き

息継ぎぬ花のかたちの人参と

火の番のちらちらもみあげの白く

雨近し屏風の龍と目の合はず

去年今年つらぬく針の無い時計

冬帽のつぎつぎ紫煙吐いて帰る

生え際の産毛が埋火に眠る

風邪の子の前髪めくるそんな愛

枯園の部品なりけり冷えた理も

ときどきは拗ねておまへとずわい蟹

水涸の指をほどけばビスケット

ちちははの土撫でてゐる十二月

火の濁る眸つめたき火となりぬ

風凍つる砲弾止めよ止めよ止めよ

紡ぐやうなこの月光は彼の地の月

狩人の襟の深くに夜のありぬ

鮟鱇は脂を秘めて星あまた

暖房が弄ぶ毛のことごとく

着膨れてインクの滲みみたいな僕

脈々と塩鮭のある台所

墨痕に隙間のおほき冬座敷

なだらかに千枚漬や嘘続く

綿入に父の匂ひの種眠る

自嘲せる我らに凍土ばかりなる

星あまた狸の死に顔は斜め

嚔して寝息あえかな肩を抱く

スリッパの吐息を漏らす年の夜

湯冷めするまで空色の痣つけむ

毛を恥ぢてゐて夜咄の早口に

むささびのふはりと夜のながい息

冬の月われらに濡れてゐるところ

年取に絡まる十の指なりき

パッキンの緩き水栓去年今年

***********************

今回も挑戦した #大晦日108句チャレンジ だったが、前回同様に途中で年が明けてしまった。二年参りの前に完走しないといけないという反省が活かされず、またしても年をまたぐことに。
のんびり年明けに108句をまとめ、一年の安寧を願う一言を添えてアップしようと思っていたら、元日に思いもよらない能登の大地震。ことばもない。
ひとりでも多くの人の安全をお祈りしています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?